第96回 鉄道総研月例発表会:信号と通信

安全行動を左右する社会心理学的要因の構造


基礎研究部 研究主幹 渡辺 忠

 従業員のヒューマンエラー防止策を考えるには、その安全行動に影響を及ぼす職場の安全風土の構造の解明が必要である。そこで、鉄道会社の運転士と 保線係員に自分の「安全行動」と、所属する職場の「風土」の評価をさせ、それぞれの構成要因間の影響関係(因果構造)を定量的に明らかにした。 その結果、運転士と保線係員では要因感の因果構造は異なるが、共通する根本的な要因は「管理職への信頼感」であることが分かった。



主要な交通違反との比較に基づく踏切違反の特徴


基礎研究部(安全心理) 主任研究員 楠神 健

 踏切における交通違反の特徴を明らかにするため、自動車ドライバーを対象に質問紙調査を行い、代表的な交通違反との比較検討を行った。 その結果、遮断中の踏切進入や警報開始直後の踏切進入は、赤信号交差点への進入や飲酒運転と同種の悪質な違反とされ、一部のドライバーの問題とされたのに対し、踏切での一旦停止無視は、軽度の速度違反や駐車違反と同じく気楽な違反とされ、どのドライバーにも違反の素地のあることなどが示された。



列車衝突時の乗客の挙動


基礎研究部(人間工学) 研究員 小美濃 幸司

 列車が衝突した場合の乗客の被害軽減対策には、衝突時の乗客が傷害にいたる動きを推定する必要がある。そこで、まず実際の事故例の調査から、衝撃を浮けて単純に衝撃方向に転倒してはいないことを明らかにした。次に、人間を使った実験を行い、衝撃が小さい範囲において立っている向きによって転倒する方向が変わること、およびその加速度の範囲を明らかにした。以上の調査をもとにコンピューターシュミレーションを行い、傷害にいたる代表的な動きの推定を試みた。



シミュレーションによる道路交通と連携した踏切制御方式の評価


基礎研究部(安全心理) 主任研究員 福田 久治

 事故分析によれば、踏切事故原因の約6割は直前横断が占めており、その対策には道路等周辺環境も含めたより総合的な対策が必要である。 これら対策が効果的・効率的に行われるためには、事前の効果評価を行い、各踏切に適した方式、各方式に適した踏切の選定が検討されるべきである。 ここでは、シミュレーションによる1踏切定時間制御、踏切交通信号機化による道路交差点との連動制御の評価手法、評価結果等について報告する。



車内圧変動による乗客の不快感


基礎研究部(人間工学) 研究員(係長) 鈴木 浩明

 列車がトンネルを高速で通過する際に生じる圧力変動によって、乗客は耳に不快感(耳つん)を感じることがある。 本研究では、鉄道における耳つんの特徴、耳つん発生の生理的機構、その測定法や評価法を整理するとともに、エレベータや航空機などの他の輸送システムや、各国鉄道の耳つん研究の現状について述べる。その上で、現時点では「4秒間あたり2kpa程度」が、乗客の不快感からみた圧力変動の目安値となることを報告する。



人間ー座席系の振動計測による座席評価


基礎研究部(安全心理) 研究員 藤浪 浩平

 鉄道旅客用座席は振動環境で使われるため、身体寸法や姿勢との適合具合を評価する静的環境での評価以外に、人間と座席の振動状態を捉える動 的環境での評価も必要となる。これまでにも官能検査による動的主観評価が行われているが、より良い座席を作るためには、より詳細で客観的な情 報が必要である。そこで、人間ー座席系の振動計測を行い、共振状態などから主観的評価の結果を補足する方法を開発した。



生理反応からみた環境評価の試み


基礎研究部(人間工学) 研究員 中川 千鶴

 車内快適性の向上を目指し、その評価法の確立が強く望まれて久しい。現在、振動物理量と心理量の二面からの評価が主に行われているが、ここでは 新たに、近年注目されている新しい生理指標の鉄道環境評価への適用について検討した。本発表では、初めに生理計測の問題点と可能性について述べ、 次に現車試験での測定結果と室内実験結果を報告する。なお計測項目は、測定が最も簡単に行えるよう心電図と呼吸の2種類のみとした。


第96回 鉄道総研月例発表会

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