第111回 鉄道総研月例発表会:ヒューマンファクターからみた鉄道の安全性の向上

諸外国の鉄道におけるヒューマンファクタ研究の動向


安全心理 主任研究員 福田 久治

 WCRR(世界鉄道研究会議)での人間科学関係の研究発表をもとに最近の研究動向について述べる。高速列車(TGV)運転台デザイン、シミュレータを用いた職員訓練と訓練システム、鉄道システムデザインのための人を中心にした信頼性、鉄道システムにおける人間−コンピュータの役割、VR(バーチャルリアリティ)による駅案内表示の改善、外的環境が運転士のパフォーマンスレベルに及ぼす影響等を取上げ、鉄道の安全性、快適性、利便性研究の傾向を探る。



居眠り事故と体力の関連性−体力からみた覚醒レベル保持能力の違い−


人間工学 研究員 水上 直樹

 運転には、体力が必要だとはあまり考えにくいが、運転士自身は、体力の必要性を実感している。また、乗務後半で覚醒レベルが低下し、事故を起こす者の中には、持久性体力の低い者が多いという指摘もある。そこで、覚醒レベルと持久性体力との関連を探るため、一昼夜にわたる不眠実験を行った。その結果、深夜早朝帯において、持久性体力の低いグループでの覚醒レベルの低下が大きかった。このことは、事故防止における、持久性体力の重要性を示すものである。



事故時の乗客の安全性について


人間工学 研究員(主席) 小美濃 幸司

 列車衝突事故時の乗客の被害軽減対策のために、実際に事故に遭遇した乗客に、乗車位置、傷害内容、傷害の原因などについてアンケート調査を実施した。立位と座位という姿勢の違いだけでなく、座位の中でもロングシートとボックスシートという座席のタイプによっても傷害の内容に差があることがわかった。また、傷害を引き起こしやすい車内設備が明確になった。以上の調査をもとに被害軽減対策を考える上でのポイントを整理した。



踏切標識類の視認性向上のための設置方法


安全心理 研究員(係長) 井上 貴文

 道路通行者が踏切を安全に通過できるように、踏切標識類を統合・整理したり、新たな標識を作成したりする際に、人間科学的に見て望ましい設置位置・デザイン等を定める方法について提案する。企画段階では、標識が持つ特徴(重要度・視認すべき距離)と、踏切が持つ性質を検討し、それらの特徴に応じた設置位置・デザインとすることが重要である。さらに、設置段階では、@他の施設に遮蔽されない、A視野の中心近くに提示する、B情報過多にならないようメリハリをつける、の3点がポイントとなる。



駅ホームにおける視覚障害者の転落事故事例の分析


総務部 課員 赤塚 肇

 鉄道利用者の安全を考える場合、駅ホームからの転落事故をいかに防ぐかも軽視し得ない課題の一つである。とくに、視覚障害者にとっては、駅ホームは「欄干のない橋」と例えられ、転落事故事例も少なくない。本研究では、駅ホームからの転落経験のある視覚障害者にヒアリングを実施し、転落時の状況、位置、原因等について、視覚障害者の歩行特性を踏まえつつ分析を行った。また、その結果を踏まえた転落防止対策の予備的な検討も行った。



若年社員の安全意識を捉える−指導担当者との比較−


安全心理 研究員(主席) 宮原 美佐子

 現在、鉄道業界では、運転士や車掌の若返りが進んでおり、若年社員の安全意識を捉えることや高めることは輸送の安全性の確保のための重要な要因の一つとなっている。ここでは、入社10ヶ月の若年社員およびその指導担当者へのアンケート調査結果をもとに、若年社員の安全意識や安全に関する行動等について、指導担当者との違いに重点をおいて報告を行う。



ヒューマンエラーによる運転事故等の分析


基礎研究部 藪原 晃

 ヒューマンエラーに起因する運転事故等に関し、現場管理者の評定データに基づいて検討した。エラー誘発要因では「作業者の安全への態度・考え方」、エラー状況では「作業時の意識水準」、エラータイプでは「思い込み・憶測による確認の省略」がそれぞれ問題視され、安全対策として「安全意識の高揚」の重要性が指摘されている。人間面の対策として、組織の運営・制度、組織間の連携、社員教育、作業の内容・方法等に関する検討を行った。


第111回 鉄道総研月例発表会

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