第134回 鉄道総研月例発表会:鉄道の安全性・快適性向上のための人間科学

鉄道のシステムと人間科学


人間科学研究部 部長 稲見 光俊

 鉄道は様々な技術が総合化されたシステムであるが、今回は、その鉄道を利用し、動かしている"人間"と云う視点から進めている研究を紹介する。鉄道総研で行っている研究の第一は、安全性向上に関してであり、ヒューマンエラーに起因する事故防止や万一の事故時におけるお客様の被害軽減などに関する研究である。第二は、快適性に関してであり、列車の乗り心地や駅空間の快適性を人間を「物差し」として評価する方法の開発などを進めている。さらに総研の基幹研究である「将来指向研究」において取り組んでいる、適性検査の抜本的な見直しや高齢化社会を迎えてのユニバーサルデザインなどについても紹介する。


鉄筋踏切事故防止と視認性向上対策


人間科学研究部(心理・生理)  主任研究員 井上 貴文

 障害物検知装置などの事故防止対策により、踏切事故は減少してきた。しかし、事故経験自動車ドライバーの調査から、障検が有効に働かない状況として違反と見逃しがあることが分かる。ヒューマンエラーである踏切・警報見逃しを減らすためには、踏切視認性の向上が望まれる。そこで、踏切標識類の機能について分析し、その設置方法を提案する。さらに、個々の踏切の視認性を測定し、継続的に管理していくための視認性の評価手法を、基準案と共に紹介する。



列車衝突時の旅客被害軽減の研究


人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 小美濃 孝司

 列車衝突事故の被害軽減を目的として、鉄道分やの安全性向上の研究に取り組んでいる。従来の運転士保護対策に加え、近年では自動車分やの考え方をとりいれた事故時の旅客の被害軽減対策の実用化が進められてきている。ここでは、人間工学的立場からこうした対策を検討し、その安全性向上の効果を検討し、その安全性向上の効果を評価するための技術の開発を目指している。このために総研で実施した事故調査、衝突実験、コンピュータシミュレーションなどの一連の研究内容について、具体的な検討例などをまじえて紹介する。



運転適性検査の現状と可能性


人間科学研究部(心理・生理) 主任研究員 喜岡 恵子

 昭和24年11月に国鉄において誕生した適性検査(考査)制度は、運転保安設備の発展とともに、事故の減少に寄与してきた。制度として半世紀を経た現在、鉄道技術の進歩による作業の軽減化やバックアップシステム等の充実により作業環境が変化しており、検査の見直しを問う声がある一方で、人間の過誤の様相は依然変わらないという声もある。これまでの研究を踏まえて、運転適性検査の現状を整理し、その可能性を探る。



覚醒レベル保持に対する持久性体力の影響


人間科学研究部(心理・生理) 主任研究員 佐藤 清

 労働者の高齢化に伴い、高齢労働者に必要な個人資質を探ることが重要と考えられる。そこで、生理的資質として持久性体力に着目し、作業中の覚醒レベル保持に対する持久性体力の影響について実験的に検討した。本発表では、実験結果を主体に、列車運転士の持久性体力と運転阻害との関係の分析結果を加えて報告する。



鉄道VR(人工現実感)安全シミュレーション


人間科学研究部(安全性解析) 主任研究員 柴田 徹

 鉄道運行における事故や故障などの異常時を人工現実空間内にて再現し、運転士や指令、車掌などの複数の参加者が相互に連絡・強調作業を進めながら発生した異常状態を定常状態に収束させるまでの過程をシュミレーションすることにより、異常時に対する対応や参加者相互の情報伝達を定量的に把握・評価することを目的とした新しいタイプのシミュレーションシステムである協調型危機管理シミュレーションについて発表する。



駅コンコースの音環境評価


構造物技術研究部(建築) 主任研究員 藤井 光治郎

 都市部の駅空間では環境アメニティの向上が望まれており、また非常時等における明瞭な情報伝達のためにも適正な音環境の確保が必要である。駅コンコースは、吸音性の低い材料が多く使用される等音響的に不利な空間が少なくない。ここでは、駅コンコースを対象にして、実態調査と数値解析結果を基に、残響時間とSTI(話声伝達指標)を評価因子として良好な音環境のための設計を支援する音環境評価法を提案したので報告する。



車内快適性研究の現状と課題


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 鈴木 浩明

 車内快適性の向上には、振動や騒音などの低減技術の開発が不可欠であるが、一方、「快適」という人間の曖昧な感覚をどのように定量化するかも重要な検討課題となる。本発表では、振動乗り心地の問題を中心に、車内快適性の評価手法に関わる最近の研究成果と今後の課題について報告する。主な話題は、曲線乗り心地の許容限度、車体傾斜車両のローリングの評価、振動以外の要因も含めた車内快適性の総合評価法、関連する国際諸規格の動向などである。

              
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