第148回 鉄道総研月例発表会:最近の鉄道安全性向上のための人間科学

鉄道総研の人間科学研究の動向


人間科学研究部 部長 四ノ宮 章

 近年、鉄道の運転事故は大きく減少している。しかし、件数は少ないものの、一度発生すると大きな被害をもたらす可能性の高い列車事故の3〜4割は、運転士等、鉄道従業員のヒューマンエラーに起因している。本報告では、こうしたヒューマンエラー事故の低減、防止に向けた最近の人間科学研究の動向、また、件数としては運転事故の過半数を占める踏切事故、人身障害事故の低減、防止に向けた新たな研究の展開について概説する。


運転適正検査の現状と課題


人間科学研究部(心理・生理) 主任研究員 喜岡 恵子

 運転適正検査は、制度化されて半世紀以上を経たが、当初の検査種目、合格基準等の基本的枠組みが現在も踏襲されている。その間、動力の近代化、運転保全設備の整備等、運転条件が変化、多様化し、求められる資質が変化してきている可能性がある。また、高年齢者や女性の運転関係従業員の増加が予想されること、あるいは、検査技術、情報技術の進歩がコストパフォーマンスの高い検査の開発可能性を高めていること等から、現行検査の見直しが求められている。そこで、運転適性検査の現状と問題点を整理し、今後の課題について報告する。



地上信号の視認性評価に関する研究


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 白戸 宏明

 地上信号の視認性については、在来線の高速運転用現示方式の検討を中心に研究を進め、1997年に開業した北越急行ほくほく線にGG信号として採用された。この他に、常置信号機における明減式信号やLED式信号についても、視認性に関する試験を実施してきた。地上信号の視認性評価は、新方式の信号を実用化する際には不可欠なものであり、これまでに実施した研究を紹介する。



鉄道規則・マニュアル等の安全設計のための構造化手法


人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 松本 真吾

 鉄道運転規則や運転取扱心得は、鉄道開業以来、さまざまな経験に基づいて制定されたものである。今回の発表では、これらの規程およびマニュアル類に記述された状況の設定、手順の流れおよび関係者間の情報のやりとりから業務モデルを構築し、理論的な安全性の評価を行う。なお具体的な実例として、通常の列車乗務員およびワンマン運転によるドア扱いについての分析を示す。



VRを利用した鉄道訓練システム


人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 藤原 浩史

 鉄道バーチャルリアリティ(VR)安全シミュレーションシステムについては、異常復旧における協調作業の効率性の検証等を目的として研究開発を進めてきた。今般、複数の参加者がネットワーク接続により同一の状況を共有できること、大規模な装置を必要とせずパソコン等で安価に設置できることなどの本シミュレーションシステムの特長を応用し、鉄道事業者向けの訓練システムの開発を進めているところであり、これについて概説する。



作業中の覚醒レベル保持に対する持久性体力の影響


人間科学研究部(心理・生理) 副主任研究員 澤 貢

 健康の維持・改善のための体力向上は、作業中の覚醒レベル保持や事故防止にも有効と考えられる。約600名の運転士の体力測定値と健康および疲労感・眠気等との関連性を分析した結果、体力が高いグループほど肥満等の健康指標は良好であり、疲労感の訴えが少ないことを把握した。また、持久性体力の向上によって、覚醒レベル保持能力も改善することを実験的に確認した。



駅ホームの内外方表示を付加した点字ブロックの研究


人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 大野 央人

 現在、駅プラットホームの縁端部には点字ブロックが敷設されている。そのブロックは、ホーム縁端に近いことは示しているものの、ホームの内外方(どちらに線路があり、どちらがホームの内側か)については示していない。しかし、視覚障害者がホーム上で方向を失認した場合など、ホーム内外方に関する情報が必要とされる場面は少なくない。そこで我々はホーム内外方を表示する点字ブロックについて検討を行っている。本発表ではその取り組みを紹介する。


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