第150回 鉄道総研月例発表会:最近の車両技術

最近の車両の話題


車両構造技術研究部 部長 手塚 和彦

 鉄道輸送に対して、周辺環境への配慮、省エネルギー、リサイクル、バリアフリー等が社会的な要求として強く求められつつも、同時に絶対必要条件である走行安全性の確保、商品としての価値を上げるための速達化、乗心地や車内快適性の向上、さらに鉄道事業の効率を上げるためのメンテナンスの改善等に対する要求も強い。ここでは、これらの課題に対する車両関係研究部の活動の中からトピックスを幾つか紹介する。


最近の軽量車体の固有振動モード特性


車両構造技術研究部(車両振動) 研究員 瀧上 唯夫

 鉄道車体の上下弾性振動が乗り心地に影響を与える例が最近報告されているが、対策を検討するためには現状の振動特性を詳細に把握する必要がある。そこで線形予測法と呼ばれる手法を用いて、最近の軽量車体の固有振動モード特性を加振、走行試験結果から同定した。その結果、比較的構造が簡素化された通勤車両は車体の各面が独立に振動する傾向が強く、気密構造である高速車両は弾性はりに近い振動形状を示すことが確かめられた。



空気ばね動特性モデル化の一手法


車両構造技術研究部(車両運動) 副主任研究員 城取 岳夫

 空気ばねの諸特性(特に減衰特性)は、空気ばね内のオリフィスを通る空気流量の関数で、加振周波数や加振振幅に依存する非線形な特性となる。それゆえ空気ばねは、非線形モデルとして定式化するのが理想だが、線形なモデルに比べて見通しが悪い、計算時間が長いなどの不都合を生じることがある。そこで、周波数及び振幅に依存する簡単な空気ばね線形モデルを模索しており、その経過を報告する。



境界要素法による転がり接触疲労き裂の解析


車両構造技術研究部(車両強度) 主任研究員 赤間 誠

 車輪踏面、レール頭頂面、軸受及び歯車表面等に発生する転がり接触疲労き裂は、鉄道分野においては最も重要な問題の一つであり、その挙動が正確に解明できれば安全性の確保と同時に経済的な保守計画の作成も可能となる。本発表では、境界要素法を用いて、き裂内部に侵入した流体の影響及びき裂面接触を考慮して、転がり接触疲労き裂の進展メカニズム及び分岐条件を検討した結果について述べる。



摩擦ブレーキトルク推定とフィードバック制御への適用


車両制御技術研究部(ブレーキ制御) 副主任研究員 山崎 大生

 機械ブレーキが発生する摩擦ブレーキ力は、制輪子やブレーキライニングの摩擦係数の影響をうける。ブレーキトルクが測定、または推定できれば、サーボ系を構成することによって制御精度の向上が期待できるが、実際に軸に作用しているブレーキ力、若しくはトルクを実車において把握することは困難である。本研究では、ブレーキトルクのサーボ系を構成する際に必要な状態量を推定し、推定したトルクをフィードバック制御した場合の補償効果を、シミュレーションと試験で明らかにした。



新幹線電車の車体サージ電圧抑制について


車両制御技術研究部(駆動制御) 主任研究員 前田 孝

 近年、新幹線電車において、ボルスタレス台車をはじめとして車体―台車間の絶縁性が向上している。このため車体電位が不安定となり、パンタグラフ上昇などにより特高圧回路電圧が急変した場合、車体―台車間にサージ電圧が発生して床下機器等に損傷が見られた。今回、車体サージ発生時の電位分布や伝搬経路を明らかにすることにより、各種サージ抑制策を実車両に適用した結果、接地回路を変更することによってその見通しを得たので報告する。



全閉式主電動機の開発


車両制御技術研究部(電気動力) 研究員 近藤 稔

 在来線用主電動機は自己通風冷却方式が主流であるが、これを全閉式にすることによりフィルタの清掃や定期的な分解清掃が不要になるとともに、低騒音な主電動機とすることができる。全閉式主電動機では各部の温度上昇を限度内に抑えることが課題となるが、高効率で発熱の少ない永久磁石同期電動機を用いるとともに冷却構造を工夫することにより、従来機と同等の体格で同等の出力が可能な全閉式主電動機の開発に成功した。


GPSを利用した曲線予知システム


車両構造技術研究部(走り装置) 研究員 真木 康隆

 車両走行中に得られるGPS(全地球測位システム)データおよび線路曲率データを用いて、車両の現在位置を特定する方法を考案した。この地点検出方法の検出精度の検証を、地上側定点マーカとして車両が通過する複数のATS(自動列車停止装置)地上子を利用し、それらを通過した瞬間の地点検出結果を複数走行試番間で比較することにより行った。本発表では地点検出方法およびその精度の検証結果について報告する。


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