第171回 鉄道総研月例発表会:環境技術に関わる最近の取り組み

環境技術に関する研究開発の動向


環境工学研究部 部長 前田 達夫

 鉄道に係わる環境問題としては、従来からの騒音、振動問題に加え、トンネル微気圧波、列車通過時の圧力変動の問題、車内の電磁環境問題、車内および駅などの衛生問題、沿線の雑草問題など、さまざまな問題が想定される。特に、騒音、トンネル微気圧波、列車通過時の圧力変動、地盤振動などは、高速化に伴なって増大するため、速度向上を実現するためには、予め、低減対策を講じておくことが不可欠である。ここでは、最近の鉄道総研の環境問題に対する研究の取り組みを紹介する。


在来線車輪の振動モード解析と騒音放射特性の解明


車両構造技術研究部(車両振動) 副主任研究員 笹倉  実

 鉄道車両騒音の主たる原因の一つとしてレール・車輪系から発生する転動騒音があり、この低減を行うには、さらなる現象解明と対策が必要である。本報告では車輪から発生する騒音の解明を進める過程で、走行試験における車輪近傍の騒音測定結果や、定置加振試験による振動モード解析及び音響インテンシティ測定結果から各種形状の車輪の振動モードと音響放射との関連性について述べる。



CFD解析に基づくパンタグラフ舟体まわりの音源分布の可視化


鉄道力学研究部(集電力学) 主任研究員 池田  充

 高速用パンタグラフの舟体は、空力音低減と安定した揚力特性の付与が同時に求められるが、その実現は容易ではない。そこで舟体設計の効率化を図るため、舟体まわりの流れ場のCFD解析と、これに基づく音響解析を行い、空力音の予測と音源分布の可視化を行った。その結果、解析結果は実験結果と定性的によく一致することを確認するとともに、舟体の空力音は剥離領域の大きさや再付着の有無の影響を強く受けることを明らかにした。



米原風洞密閉胴内における空力音源探査法


環境工学研究部(空力音響) 研究員 山崎 展博

 (財)鉄道総研が保有する大型低騒音風洞の密閉胴測定部で音源探査を行う手段として、マイクロホンアレイ装置の適用を試みた。S/Nを劣化させる要因となる風雑音の影響を低減するため、マイクロホンの受圧部にフィルムを貼付した装置を用いた。また2組の螺旋配列型アレイの出力に対してクロススペクトルをとる計算手法を考案し、各マイクロホンに入射する無相関な風雑音成分を除去することに成功した。この結果試験風速60m/sにおいてパンタグラフから発生する舟体などの音源が捉えられることを確認した。



発泡ビーズを混合したソイルセメントによる振動遮断工の開発


構造物技術研究部(基礎・土構造) 副主任研究員 神田 政幸

 柱列式地下連続壁工法を利用した機械化施工により、掘削と同時に遮断壁を構築し、ソイルセメントに発泡スチロールビーズ(EPSビーズ)を混合することで、地盤より相対的に低剛性・低密度な複合材料の壁を作り上げるものである。工法の特徴として,以下のようなものが挙げられる。@地盤より低剛性(地盤の剛性の1/10程度)・低密度の壁であることから剛性の大きい壁と比較して浅い壁で振動遮断効果が大きくなり、同一の効果のもとでの工事費の節減が図られる。A従来工法で必要であった土留め壁を省略でき、コストダウンおよび既設の鉄道施設に与える影響を少なくできる。B小型施工機械のため狭隘区間での施工が可能である。本報告では、本工法の開発成果を説明する。



新幹線の速度向上にともなう地盤振動の影響評価手法


防災技術研究部(地質) 副主任研究員 横山 秀史

 現在新幹線の速達性向上が図られており、地盤振動対策を考える上で速度依存性の検討がより重要となっている。地盤振動の平均的な速度依存性は新幹線の線区ごとに示されているが、同一線区でもばらつきが大きいため、地上対策等の検討には場所ごとに速度依存性を把握する必要がある。そこで、高速域での地盤振動特性に関する最近の知見を踏まえ、既往の地盤情報から地盤振動の速度依存性を比較的簡易に予測する手法を提案した。



トンネル緩衝工に関する模型実験法


環境工学研究部(空気力学) 研究員 鷹ア  徹

 列車が高速でトンネルに突入すると、突入した坑口の反対側の坑口から微気圧波が放射される。また、突入・退出する側の坑口ではトンネル突入波・退出波が放射される。これらの現象は、坑口付近の民家の建具を揺らすなどの影響を及ぼすことがある。本研究では、トンネル坑口にトンネル緩衝工が設置されている場合について模型実験を行い、これらの現象の発生状況を調べた。さらに、現地測定との比較を行い、よく一致することを確認した。



電磁環境の安全性評価の現状


環境工学研究部(生物工学) 副主任研究員 池畑 政輝

 送電線や携帯電話の電磁界の健康影響に関して、国際的な研究が進んでいる。一方、鉄道分野では、電磁環境の把握ならびに安全性の評価に関しての知見は未だわずかである。我々は、特に鉄道車両内の電磁環境に関し、生物学的影響評価と人体の曝露量推定を総合した安全性評価手法を開発している。この手法では、生物学的影響評価の結果と、車両内の電磁環境における人体の推定曝露量のメトリックスを整合させ、より具体的で正確な安全性の評価が可能である。



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