第174回 鉄道総研月例発表会:地震に関する最近の研究開発

地震に関する最近の研究開発


構造物技術研究部 部長 市川 篤司

 鉄道構造物は、兵庫県南部地震で大きな被害を受け、それ以降主に大規模地震を対象に、新設構造物の設計法および既設構造物の補強法について様々な研究開発が行われてきた。その成果は、「耐震設計標準」やコンクリート構造物の耐震補強等に利用されているが、まだ課題も多々残っている。ここでは、兵庫県南部地震以降行われてきた研究開発を紹介するとともに、課題および今後の方向性について述べる。


近年に生じた地震被害(三陸南、宮城県北部、十勝沖)の地震動特性


構造物技術研究部(基礎・土構造) 研究員 川西 智浩

 昨年発生した三陸南地震、宮城県北部地震、十勝沖地震の各地震では、震度6弱以上の揺れが各地で観測され、新幹線や在来線の構造物に被害が生じた。特に三陸南地震と宮城県北部地震については、同一地域で発生した地震にも関わらず、被害範囲や被害形態が大きく異なっていた。本発表では、被害原因究明のために、各地で観測された地震波を用いて各地震における地震動特性について検討した結果を報告する。



三陸南地震における構造物の被害状況と耐震性評価


構造物技術研究部(コンクリート構造) 研究員 田所 敏弥

 三陸南地震では、一部の新幹線の高架橋柱にひび割れ、およびコンクリートのはく離、はく落等の被害が発生した。被害を受けた高架橋は、1970年代に設計、施工されたもので、現在、建設されている構造物に比べると柱の帯筋量が少なく、せん断破壊先行と判定された。また、推定地震動による時刻歴動的解析により、被害を受けた柱には、比較的大きなせん断力が作用した可能性が高く、これに伴い被害が生じたものと確認された。



十勝沖地震における構造物の被害状況と復旧法


構造物技術研究部(基礎・土構造) 主任研究員 羽矢  洋

 2003年9月26日の未明、十勝沖を震源とするマグニチュード(M)8.0の地震が発生した。この地震により、根室本線において軌道変状や橋梁の損傷が多数発生したが、特に利別〜池田間の利別川橋梁および新吉野〜浦幌間の浦幌川橋梁は大きな被害を受けた。本報告は、この地震により被害を受けた両橋梁の被害状況および復旧方法等について紹介するものである。



RCラーメン橋台の地震時変形性能評価


構造物技術研究部(コンクリート構造) 主任研究員 谷村 幸裕

 ラーメン橋台の柱等せん断スパン比の小さいRC部材は、変形性能が明らかでなく、耐震照査において変形性能を考慮できないため、不合理な設計となっている。そこで、模型供試体の載荷実験による検討を行ったところ、降伏変位の算定にはせん断変形の影響を考慮する必要があること、曲げ破壊となる場合M点、N点変位は耐震標準に示された方法により妥当に評価できること、変形性能の向上には高強度コンクリートの適用が有効であることが明らかになった。



軌道の影響を考慮した免震橋梁の地震時挙動


構造物技術研究部(鋼・複合構造) 副主任研究員 池田  学

 鉄道構造物には連続した軌道が存在し、地震時の構造物の挙動に影響を及ぼすことが予想される。本研究では、軌道構造を上載した試験体を用いて振動台実験を実施し、地震時の軌道の動的挙動に着目し、その簡易的なモデル化について検討した。さらに、免震橋梁を対象に、軌道のモデル化を含めた構造物全体系モデルについて時刻歴応答解析を実施した。軌道の影響を考慮することにより地震時の構造物の応答が低減されることを確認した。



免震材を用いた既設開削トンネルの耐震対策工の開発


構造物技術研究部(基礎・土構造) 主任研究員 室野 剛隆

 既設開削トンネルでは、大地震に対して耐震性能を満足できない場合がある。中柱については鋼板補強などが多くの実績が挙げている。しかし、側壁については有効な手法がない。そこで、耐震対策工の1つとしてトンネルと周辺地盤の間に非常に柔かいポリマー材を充填する工法を開発した。この方法は周辺地盤が開削トンネルが強制的に変形させる力を吸収し、開削トンネルの変形を抑制するものである。



早期地震警報システムの開発


防災技術研究部(地震防災) 研究室長 芦谷 公稔

 鉄道総研と気象庁は、地震検知後数秒で地震の位置やマグニチュードを推定する新たな方法およびこの方法を用いた早期警報用地震計を開発した。また、気象庁は新地震計を全国展開し、地震後いち早く震源の推定情報を「緊急地震速報」として一般に配信する計画を進めており、鉄道総研はこの緊急地震速報を活用した列車制御システムを試作し、2004年2月から検証試験を実施している。ここでは、これらの成果について報告する。



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