第178回 鉄道総研月例発表会:最近の材料技術

鉄道用材料の研究開発の課題と動向


材料技術研究部 部長  辻村 太郎

 鉄道が提供するサービスが安全性の確保を前提としながら、高速化、多様化することへの対応、さらに他輸送機関との競争・協調を進めるために、鉄道材料には性能と経済性の両立が今まで以上に求められてきている。材料選択を行う際には、地球温暖化を初めとする環境問題への対応も必要な状況を踏まえ、ここでは、近年取組んでいる鉄道材料の研究開発について概説する。


トンネル覆工コンクリートの劣化と補修


材料技術研究部(コンクリート材料) 主任研究員  上田 洋

 トンネルの覆工では、コンクリートが劣化して粉状になり粗骨材がはく離するなどの変状を生じている例が見られ、維持管理に多大な労力を要している。しかし、その原因は必ずしも明らかではなく、対策後に再変状を生じる例もみられる。そこで、大正から昭和初期にかけて建設された複数のトンネルを対象として、覆工コンクリートの劣化原因について調査した結果を述べるとともに、維持管理の方法についても報告する。



鉄筋腐食したコンクリートの劣化予測


材料技術研究部(コンクリート材料) 副主任研究員  飯島 亨

 実構造物の変状調査と供試体試験により、鉄筋の腐食速度とコンクリートの品質の関係および変状発生腐食量を検討した。最初に現れる変状は、鉄筋の直径と間隔およびかぶりの厚さにより、ひび割れでなく、はく離や浮きとなる場合がある。その腐食量は、50〜100mg/cm2であることが判った。腐食速度をコンクリートの含水率や塩化物イオン濃度、中性化深さという品質に関わる因子から推測する経験式を導いた。



鋼構造物用の新しい防食塗装技術の開発


材料技術研究部(防振材料) 研究室長  田中 誠

 1990年代に始まった環境問題に対する世界規模での動きに伴い,防食性能とコスト面に優れた従来の塗装材料が使用困難な状況が予想される。そこで,今後さらに深刻化する環境問題にも適合し,防食性能・コスト的にも従来と変わらない環境負荷低減型塗装技術の開発を目指して検討し,鋼構造物に水系塗料を用いる新たな塗装技術を開発できた。本発表では,鋼構造物を取り巻く環境問題と水系塗料を用いた塗装技術開発を紹介する。



経済性を考慮した輸送機関に関するライフサイクルアセスメント


材料技術研究部 主任研究員  相原 直樹

 輸送機関のライフサイクルアセスメントとして、施設整備、車両製造段階から列車運用およびメンテナンスにおけるCO2, SOx, NOxの排出量の算出を行った。鉄道については使用材料およびエネルギーを積算することで算出し、他輸送機関は産業連関表を用いて算出した。また、経済性を考慮した評価として、被害算定法に基づく貨幣価値への統合化による評価を行った。以上について新幹線等都市間鉄道および都市内輸送機関における事例を併せて紹介する。



円錐積層ゴム式軸バネの劣化特性


材料技術研究部(防振材料) 副主任研究員  鈴木 実

 円錐積層ゴム式軸バネは,前後左右上下の3方向の荷重を支持する独特な構造の軸箱支持装置用のゴム製軸バネである。ゴム材の粘性を利用することでダンパーなどを省略できるため,軸バネ支持装置の簡素化による軽量化やメンテナンス作業軽減などのメリットがある。一方で,経年による高分子材料特有の劣化特性を明確にすることが求められていた。そこで,同軸バネゴムの経年特性を明らかにし,特性変化の走行特性への影響を検討した。



誘導電動機軸受部のグリースポケット形状変更による耐久性向上


材料技術研究部(潤滑材料) 副主任研究員  日比野 澄子

 車両の誘導電動機の解体検査周期を延伸するためには、潤滑グリースの耐久性向上が望まれている。一方で、その解体時に、グリースには未劣化の部分が残っており、特に、ふたのグリースポケットに封入されたグリースが有効に使われていない懸念があった。そこで、グリースポケットの形状を変更することによる、グリース基油の流動の改善効果を検討し、グリースポケットが具備すべき形状の特徴を見出した。



高潤滑性焼結合金すり板の開発


材料技術研究部(摩擦材料) 研究員  半田 和行

 車両の出力の向上・パンタグラフ数の減少によりパンタグラフすり板の摩耗は増加傾向にある。銅系焼結合金すり板のうち耐アーク性に優れた材質を使用することですり板の摩耗は減少するが、トロリ線の摩耗増加が懸念される。そこで焼結合金すり板に含まれる潤滑成分が摩耗に及ぼす影響を分析し、成分を調整することですり板・トロリ線双方の摩耗を低減しうる材質を開発し、直流電気機関車での現車試験により性能を調査した。




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