第184回 鉄道総研月例発表会:最近の鉄道沿線環境に関する研究

最近の鉄道沿線環境に関する研究開発と展望


環境工学研究部  部長  前田 達夫

 鉄道の沿線環境の保全は,社会の要求であり,鉄道の高速化を実現するためには,沿線環境を悪化させないように対策を講じる必要がある。鉄道の沿線環境には,騒音問題,低周波環境問題(トンネル微気圧波,列車通過時の圧力変動など)から,駅の衛生環境問題まで,多くの課題が含まれる。そこで,本発表では,鉄道総研で,現在,実施している沿線環境に関する研究を概観し,対策の考え方、今後の課題について展望する。


駅の衛生環境に関する実態と旅客意識の調査


環境工学研究部(生物工学) 副主任研究員 川崎 たまみ

 これまで詳細に検討されていない、鉄道衛生に関する利用者意識や衛生観を規定しうる要因を抽出することを目的として、駅構内における利用者の衛生意識調査と物理要因及び実態(微生物等)調査を行なった。意識調査からは、駅構内の空気環境、接触する行為やその部位に対する不快感が高く、意識調査と物理要因測定値との間には一部高い相関がみられた。また実態調査からは、地下構内には浮遊微生物が多く検出される傾向を確認した。



大深度地下鉄道トンネル内圧力変動シミュレーション


環境工学研究部(空気力学)  主任研究員  斉藤 実俊

 大深度地下トンネルを高速列車が走行する際に発生するトンネル内圧力変動については数値シミュレーションによる予測が行われてきたが、これまでの手法は音波近似を使用しているために350km/hを越える速度域では誤差が大きくなる傾向があった。そこで、音波近似を用いない非定常1次元圧縮性流れのシミュレーションを開発した。本発表では、計算方法について述べるとともに、最高速度500km/hまでの地下駅を模擬した模型実験との比較検証結果について報告する。



長大スラブ軌道トンネル内の圧縮波伝播現象の解明


環境工学研究部(空気力学)  主任研究員  福田 傑

 トンネル微気圧波の現象解明および低減対策法のため,スラブ軌道トンネル内を伝播する圧縮波の変形を現地測定と数値計算により調べた.現地測定は全長約26kmのトンネルで実施し,トンネル内12箇所で圧縮波を測定した.数値計算では,一次元圧縮性流れの数値解析と枝坑の効果に関する音響解析を組み合わせた.その結果,圧縮波の変形の現象が詳細に明らかになり,スラブ軌道トンネル内の圧縮波の変形の予測が可能となった.



列車通過時に跨線橋等から発生する圧力波


環境工学研究部(空気力学)  副主任研究員  高見 創

 明かり区間にあるトンネル状の短い構造物(例えば跨線橋や全覆い駅など)を列車が高速で通過する際には、外部空間へ圧力波が放射される。このような圧力波について、跨線橋模型による実験および音響学的な解析を実施し、発生する圧力波の大きさと列車速度、観測距離、跨線橋長さとの関係を明らかにした。また、それらの知見から圧力波の基本的な発生メカニズムを示した



転動音の予測モデルTWINSとその適用性の検討


環境工学研究部(騒音解析) 副主任研究員  北川 敏樹

 在来鉄道騒音の主な構成要素は、転動音と主電動機ファン騒音である。このうち、転動音は、車輪・レール面上の凹凸により両者の間に相対的な変位を生じ、垂直方向に振動することによって発生する。転動音に関する評価を行うために、欧州では予測モデルTWINSが構築され、設計評価等に広く用いられている。本発表では、日本の鉄道に対してTWINSモデルを適用した結果とその問題点に関して検討を行う。



トンネル坑口騒音の予測手法と対策


環境工学研究部(騒音解析) 主任研究員  長倉 清

 新幹線のトンネル坑口付近では、通常の走行音にトンネル内を反響して坑口から放射される音が加わるため、通常の明かり区間に比べて騒音レベルが高くなる。新幹線トンネル坑口付近での騒音レベルを予測するため、道路交通騒音の分野で提案されている手法に鉄道総研で開発した新幹線騒音予測手法での音源モデルを組み合わせた手法を提案した。また、坑口騒音対策として、坑口周辺の防音壁嵩上げおよびトンネル内壁吸音を提案し、予測手法を用いてそれぞれの騒音低減効果を試算した。



新幹線用防音壁の形状改良の効果


環境工学研究部(騒音解析) 主任研究員  村田 香

 これまで騒音低減対策として様々な形状の防音壁が提案されており、広く新幹線沿線に設置されている。しかし、その効果は多くの場合定量的に明らかにされていない。そこで、本研究では、縮尺模型を用いた実験により多種の防音壁について、その騒音低減効果を音源種別ごとに確かめ、実際に敷設した場合に予想される新幹線沿線における騒音レベル分布を試算した。また,高い騒音低減性能を有する防音壁の構造を提案し,新幹線沿線に敷設してその効果を確認した。




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