第191回 鉄道総研月例発表会:電力技術に関する技術開発

電力技術に関する最近の研究開発


電力技術研究部 部長 島田 健夫三

 電車に安定した電力エネルギーを供給するため、電車線とき電(電力供給)の各分野で、低コスト、信頼性、環境との調和などをキーワードとして基礎研究から実用研究まで幅広い研究開発を行っている。 本発表では、電力関係の研究開発体制、最近の研究開発状況、および今年度に開始した新しい将来課題などについて紹介する。


CSシンプル架線のトロリ線摩耗の特徴と局部摩耗防止対策


電力技術研究部(電車線構造) 副主任研究員  原田 智

 CSシンプル架線は軽量・高張力の新幹線用架線である。しかし近年、オーバラップ箇所の局部摩耗発生が報告され、調査の結果、架線の高さ構成によりトロリ線に過大な接触力が生じることがわかった。そこで、集電特性シミュレーションを実施し、接触力を抑制する最適な架線の高さ構成を検討した。本発表では、CSシンプル架線におけるトロリ線摩耗の傾向を述べ、オーバラップ箇所での局部摩耗対策について報告する。



カテナリ架線と剛体電車線の新しいオーバーラップ構造


電力技術研究部(電車線構造) 副主任研究員  大矢 明徳

 狭小トンネルに剛体電車線を導入する場合、トンネル断面が小さいため明かり区間でカテナリ架線と剛体電車線のオーバーラップを構成しなければならない。現状の明かり区間での構成は剛体電車線の支持物を多く必要とし、建設コスト増大を招いている。そこで、オーバーラップを簡素化した新方式の構造について基礎検討と所内での走行試験を行い、実設備として適用できる可能性が高いことを明らかにした。



パンタグラフ追随性能向上手法の提案


鉄道力学研究部(集電力学) 副主任研究員  臼田 隆之

 パンタグラフの舟体間隔や舟体・舟支えの回転自由度などが追随振幅に与える影響を考慮できるモデルを提案した。また、舟体の追随振幅特性向上のため、前後舟体の固有振動数をずらすか、舟体のローリングモードを励起しやすくするといった追随振幅特性の向上手法を提案した。更に具体的なパンタグラフパラメータの決定法として遺伝的アルゴリズム(GA)を使用した最適化手法について、その効果を確認した。



トロリ線の疲労寿命に及ぼす諸要因の検討


電力技術研究部(集電管理) 研究室長  菅原 淳

 トロリ線の疲労寿命に及ぼす諸要因のうち、平均引張応力および微少振幅ひずみについて検討した結果を紹介する。硬銅トロリ線は、平均引張応力が異なる条件でも統一的に疲労特性を整理できることを確認し、摩耗を考慮した疲労寿命管理の見込みを得た。微少振幅ひずみの影響は、レインフロー法を修正した波形計数プログラムにより、ひずみピーク値で疲労寿命管理の要否を判断しても差し支えないと考えられた。



亜鉛めっき鋼より線の腐食劣化


電力技術研究部(集電管理) 研究員  毛利 哲

 亜鉛めっき鋼より線は腐食を主要因として劣化するため、適切な保全のためには、腐食進展状況の把握が重要である。そのため、実際に架設されているちょう架線と架設後撤去されたちょう架線について、経年や架設環境と亜鉛めっき腐食量との関係を調査した。また、新品およびこれら撤去品を加速劣化させた後に、引張試験を行った。これらの試験を通じ、適切な取替周期についての検討を行った結果について報告する。



直流き電回路用レール電流計測装置の開発


電力技術研究部(き電)  研究員  赤木 雅陽

 直流電気鉄道においては、これまでレールに流れる電流を現場で直接測定することは困難であった。そこでレール底部に磁界センサを設置し、その近傍に発生する磁界を計測してレール電流の測定を行う可搬形の装置を試作した。所内試験および現地試験を行い、本装置の基礎特性を把握、有用性を示すとともに、踏切などでの漏れ電流調査への適用方法について検討を行った。



交流き電回路T-F短絡故障点標定装置の開発


電力技術研究部(き電) 主任研究員  兎束 哲夫

 新幹線等の交流ATき電回路で発生するトロリー(T)〜フィーダ(F)間の短絡故障は、これまで故障点標定が不可能だった。これに対して、隣接変電所間の各回線送り出し電流の振幅と位相から故障点標定計算するベクトル演算標定方式と、送り出し電流の瞬時値から直接に故障点標定計算する瞬時値演算標定方式を考案し、故障点標定装置を試作して、実線路での短絡故障試験によって故障点標定精度が実用的であることを確認した。




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