第195回 鉄道総研月例発表会:鉄道の安全に向けた最近のヒューマンファクタ研究

鉄道の安全に向けた最近のヒューマンファクタ研究


人間科学研究部 部長 四ノ宮章

 人間科学研究部では、鉄道システムの安全性、快適性の向上を目的として、鉄道従業員及び鉄道利用者の心理、生理、行動の測定、解明を通じて、様々な課題解決や対策提案を目指す研究に取り組んでいる。ここでは、鉄道従業員のヒューマンエラーが関与する事故の防止、低減に向けた新たな安全管理支援ツールの開発を目指す研究を始めとして、安全性向上に向けた最近の主なヒューマンファクタ研究の課題と取り組みを概説する。


新しい運転適性検査項目候補の改良


人間科学研究部(安全心理) 研究室長 井上貴文

 2004年度末に提案した運転適性検査項目の候補のうち、器械検査であるC-107検査(処置判断)をコンピュ−タで実施可能としたPC版処置判断検査を開発した。また、効率抑制検査を改良し、割込抑制検査を作成した。一般被験者80名にエラー模擬実験、および、C-107検査(処置判断)、PC版処置判断検査、割込抑制検査の3検査を実施した。その結果、前回の検証によりエラー発生傾向との相関が高かったC-107検査(処置判断)と比較して、2つの検査とも同等以上の相関を示した。そこで、これら2つの検査に、注意容量検査、多重選択反応検査を加えた4検査を、実用化のためのモニター調査において実施することとした。



運転士の心身状態評価技術


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 澤  貢

 運転士が良好な心身状態で乗務できる体制を整えることは、鉄道の安全対策の基盤である。このような問題へのアプローチとしては、運転士の心身状態に影響を及ぼす作業環境条件の評価と改善であり、作業環境条件の適否を測定するための手法の開発が不可欠となる。ここでは、作業環境条件から運転士の疲労度等の心身状態を推定するシミュレーション技術、発話音声を利用した心身状態評価技術といった、新たな観点からの研究の取り組み等について概説する。



乗務員の運転作業のリスク分析手法


人間科学研究部(安全性解析) 研究室長 柴田 徹

 ヒューマンファクタ(人的要因)を考慮した運転作業の定量的安全性評価手法(リスク分析)の研究を進め、駅出発時等の定常時場面をイベントツリーとして展開することによりハザードの抽出を行ってきた。現在はこの分析に基づき、運転保安装置等の機能により分類した条件を対象としてリスク分析手法の開発を行っている。今回は今まで得られた結果、現在の研究の取り組み内容、及び今後の展開について紹介する。



ヒューマンファクタ事故分析手法の活用


人間科学研究部(安全心理) 副主任研究員 重森雅嘉

 ヒューマンファクタが関係する事故やヒヤリハットは、それらを引き起こした直接原因(決められていた手順からのズレ)を知るだけではなく、ズレがなぜ生じたかというところまで深く追究することによって初めて、的確な再発防止に役立てることが出来る。また、小集団による事故分析活動は、危険感受性を高めるなど、安全風土の醸成に役立つ。今回は、時系列対照分析、なぜなぜ分析、多視点整理による簡便な事故分析のやり方に加え、小集団の安全活動として事故分析を行うための工夫についても紹介する。



鉄道における安全風土に関する職場診断


人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 宮地由芽子

 安全風土は、組織や職場において発生するヒューマンエラーに起因する事故やトラブルの背景要因として軽視できないものであり、未然にこれを捉えておくことは積極的な安全活動の一つである。ただし、その改善・醸成には、具体的な評価手法が必要である。そこで今回は、従来の取組みを紹介するとともに、近年の例として、職場を評価対象とした職種系統別の簡易な診断システムの開発と改善の取組みについて紹介する。



踏切の安全性に影響する要因の評価


人間科学研究部(安全性解析) 主任研究員 松本真吾

 統計解析を用いた、環境、構造、対策の各要因別の事故率分析及び対策の有効性評価の精密化及び、イベントツリー解析により、踏切事故とドライバー運転状況、警報タイミングとの関連性を探る手法への取り組みを紹介する。



衝突事故時の乗客挙動と被害推定


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 小美濃幸司

 列車が衝突した場合の被害軽減対策の検討対象には、車内環境、乗車姿勢、列車衝突の衝撃といった項目が考えられる。その検討には衝突時の乗客の挙動を解明することが重要なポイントとなる。そこで、列車衝突事故にみられる3つの傷害パターンを想定し、乗客挙動解析を行なった。この結果、ロングシートの前に立っている乗客の安全姿勢やロングシートに座っている乗客の胸部傷害対策についての知見が得られた。




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