第202回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研究開発

防災技術に関する最近の研究開発


防災技術研究部 部長 木谷 日出男

 日本の鉄道沿線の地形・地質環境ならびに厳しい気象条件は、世界に類を見ない多様な形態の災害をもたらす土壌となっている。これらの条件下で鉄道の安全と安定的な輸送を確保するため、鉄道総研では雨・風・雪・地震などの自然現象を対象とした危険度評価、対策工の設計、状態監視技術、運転規制基準の評価ならびに警報システム等の多角的な研究開発を進めている。ここでは、これらの研究開発成果の中から最近の話題を紹介する。


岩盤斜面の安定性に係わる不連続面の引張強度の評価法


防災技術研究部(地質) 主任研究員 川越 健

 岩盤斜面における落石災害の危険度に関しては、さまざまな定性的な評価方法が実用化されているが、定量的な評価にはいたっていない。そこで、落石発生時の引張破壊に着目した定量的評価法の研究を行なっている。研究の結果、引張強度が割れ目などの不連続面における新鮮部の割合や岩石中の構造の異方性に依存する傾向があることがわかった。本発表では、これらの結果を利用した引張強度の評価法の可能性について報告する。



石積壁の耐震補強工とその設計法


防災技術研究部(地盤防災) 主任研究員 太田 直之

 地震によって石積壁に発生する変形量を予測する手法はこれまでなかったため、石積壁の耐震性能は適正に評価されてこなかった。そこで、模型石積壁を用いた振動台実験の結果を基にして、地震時における石積壁の複雑な挙動を再現できる解析モデルを作成した。ここでは、この解析モデルを用いた石積壁の地震時安定度評価方法と、耐震補強工の設計方法について述べる。



河川増水時における橋脚の固有振動数の特定と安定性評価法


防災技術研究部(地盤防災) 主任研究員 佐溝 昌彦

 増水時における橋脚基礎の安定性を橋脚の振動性状の変化を捉えて評価する手法の開発を目的として、複数の実橋脚において橋脚の天端に設置した振動センサで微動の長期計測を行った。計測で得られた微動データから、橋脚の固有振動数を求める手法と増水時における橋脚基礎の安定性を評価する方法についても検討したので、それらの結果を報告する。



緊急地震速報を活用した早期地震警報システムの実用化


防災技術研究部(地震防災) 研究室長 芦谷 公稔

 気象庁は、鉄道総研と共同開発した早期地震検知手法を全国の地震観測点に導入して、大きな揺れが来る前に地震の位置やマグニチュード、想定最大震度などを「緊急地震速報」として配信する計画を進めており、2006年8月からは鉄道やエレベータ、工事現場など特定の事業者に対して先行的な配信を開始している。鉄道では一部民鉄線を中心に実際の列車運行制御に活用されはじめている。本発表では、これまでの関連する研究成果および本速報を活用した列車制御システムの事例について紹介する。



風速の時間変動を考慮した強風時運転規制の評価法


防災技術研究部(気象防災) 研究員 福原 隆彰

 強風時運転規制方法を変えた場合に生じる列車の安全性の違いを比較することを目的とし、その評価方法を検討した。列車が規制区間を通ることができる時間帯に、規制区間内で列車の転覆限界風速以上の強風が吹く確率(強風発生確率)を指標とする評価方法を検討した。この指標を用い、モデル線区での強風時の列車運行の安全性を評価した例を紹介する。また、風観測期間や観測地点などを変えた場合についてもあわせて紹介する。



台車側面の着氷雪量計測システムの開発


防災技術研究部(気象防災) 主任研究員 飯倉 茂弘

 走行中の列車からの落氷雪被害の軽減を目的とした運転規制や雪落とし作業の効率的な実施を支援するために、台車側面の着氷雪量を計測しリアルタイムで配信できる着氷雪量計測システムを開発した。このシステムはレーザシート光源と高速度カメラを用いて台車側面の着氷雪の厚さを光切断法により計測するものである。本発表では、着氷雪量計測システムの概要及び札幌駅に設置し冬期間の長期稼働試験を行った結果について報告する。




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