第209回 鉄道総研月例発表会:環境工学に関する最近の研究

環境工学に関する最近の研究

環境工学研究部 部長 前田 達夫

鉄道の環境問題には、騒音、振動、低周波音、駅の衛生環境,電磁環境など、さまざまな課題がある。列車の速度向上、輸送力の増強に際しても、環境に対する負荷を小さくし,環境に優しい快適な鉄道の実現をはかることが重要である。ここでは,現在、鉄道総研が取り組んでいる環境問題に関する研究の全般を概説する。


3次元構造・音場解析による在来線車輪の形状と音響放射特性の解明

車両制御技術研究部(動力システム)主任研究員 笹倉  実

近年の在来線では転動騒音の低減が課題となっており、車輪の断面オフセット量やリム厚、板厚などの形状因子の相違が、音響放射特性に大きく影響を及ぼしている。本講演では構造/音場解析により車輪形式別の音響放射部位やその割合などを、定置加振試験結果と照合することで定性的に明らかにした結果、および地上面での音響反射の影響、転動騒音低減のための車輪形状変更の解析事例も報告する。


転動音における軌道・車両に係わるパラメータの影響に関する検討

環境工学研究部(騒音解析) 主任研究員 北川 敏樹

在来線における騒音の主な構成要素の一つは、転動音騒音である。転動音は、車輪・レール面上の凹凸により両者の間に相対的な変位を生じ、車輪・レールが振動することによって発生する。本発表では、転動音に関する評価を行うために構築した車輪・レール系の振動・放射音モデルを紹介し、さらに、このモデルを用いて軌道パッドの剛性などの軌道・車両に係わるパラメータが転動音に与える影響を解析した結果について報告する。


風洞試験におけるパンタグラフの空力音・揚力同時測定手法

環境工学研究部(騒音解析) 研究員 末木 健之

パンタグラフには、空力音の低減と揚力特性の向上が同時に求められている。しかし、風洞試験においてこれら検証を行う場合、従来の測定方法では、揚力測定用ワイヤが空力音に影響するため、揚力と空力音の同時測定ができないという問題があった。そこで、ワイヤを用いずに両者を同時かつ精度良く測定できる手法を考案し、従来よりも実際の走行状態に近い条件で空力音・揚力を測定することを可能とした。本発表では、この測定手法と効果について紹介する。


長大スラブ軌道トンネルに適した緩衝工開口部の設計指針

環境工学研究部(空気力学) 研究員 宮地 徳蔵

長大スラブ軌道トンネルにおいて、列車が高速でトンネルに突入すると、トンネル内に圧縮波が形成され、それがトンネル内を伝播し、トンネル出口から微気圧波が発生し、環境問題を引き起こすため、トンネル入口緩衝工の設置などの対策がとられている。従来の緩衝工開口部の設計指針は、トンネル入口での圧力勾配最大値を低減することであったが、圧縮波の伝播特性に影響する初期波形にも考慮した、微気圧波低減効果が高い新たな設計指針について紹介する。


空気誘導板を用いた鉄道車両台車部の着氷雪低減法の検討

環境工学研究部(空気力学) 副主任研究員 中出 孝次

冬期の鉄道車両の床下部に成長する着氷雪は落下時にバラスト飛散等の障害の原因となり得るため、その低減対策法の開発が必要とされている。このため、現在有効な対策法が見出されていない台車部について、デフレクター(空気誘導板)を用いた空気流れの変更による着氷雪低減効果を検討した。本発表では、風洞実験・CFD(流れの数値計算)によって確認できた流れ場に対する効果および降雪風洞によって確認できた雪粒子に対する効果について報告する。


駅の衛生環境評価手法の検討

環境工学研究部(生物工学) 研究室長 早川 敏雄

鉄道利用者に対する意識調査の結果によると、駅空間の快適性に影響を与える要因として、においなどの衛生環境を重要視していることが明らかとなっている。このため、駅構内の衛生環境を定量的に評価することが重要と考え、研究を進めている。今回は、空中浮遊微生物量と利用者の衛生観に関する意識調査との相関に関する結果を報告する。また、空中浮遊真菌が放出する揮発性物質が駅空間のにおいの原因の一つと考え、その分析を試みているので、その結果も併せて紹介する。


中間周波帯磁場の生物作用評価

環境工学研究部(生物工学) 主任研究員 池畑 政輝

近年、世界保健機関(WHO)において電磁界の健康リスク評価が進められるなど、電磁界が生物に与える影響に対する社会の関心が高まっている。鉄道総研では、鉄道車両などにおける電磁界環境の適切な評価を目的として、中間周波帯の電磁界が生物に与える影響を研究してきた。これまでに、kHz帯の磁場を用いた実験から、車両等の実環境中で発生しうる強度の中間周波帯磁場は、発ガンなどの因子となる変異原性を示さないことを明らかにしてきた。本発表では、これらの実験結果を報告するとともに、国内外における電磁界リスクの評価や規制の動向も紹介する。



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