第211回 鉄道総研月例発表会:電力技術に関する最近の研究開発

電力技術に関する最近の研究開発

電力技術研究部 部長 長谷 伸一

電力関係の研究開発においては、鉄道の安定輸送に寄与すべく、低コスト・信頼性・環境との調和、および基礎研究をキーワードとして各種テーマに取り組んでいる。このキーワードに沿って、き電設備・電車線設備について最近の研究開発状況を紹介する。


イヤー用材料の耐食性向上策

電力技術研究部(集電管理)主任研究員 片山 信一

電車線を構成する部材のうち、トロリ線を把持するイヤーの材質にはアルミニウム青銅が広く適用されている。アルミニウム青銅は耐食性が良好であるが、重塩害地域においては腐食が進行し損傷する事故が発生している。本発表ではアルミニウム青銅製イヤーの腐食事例を紹介するとともに、耐食性向上を目的に合金成分添加量を変更した材質について塩害実験場における暴露試験で効果を検証した結果を紹介する。


トロリ線の疲労特性評価

電力技術研究部(集電管理) 研究室長 菅原  淳

トロリ線はパンタグラフ通過のたびに曲げひずみを受け、ひずみが大きい場合疲労で破断するおそれがあるため、室内試験でトロリ線材料の疲労特性を把握したり、現地試験でのひずみ測定結果評価のため目安値を設定することが行われる。本発表ではトロリ線の疲労試験方法やひずみ目安値設定の考え方を紹介し、さらに、新幹線での高速運転に対応すべく開発された高強度すず入り銅トロリ線(GT-SN-Wトロリ線)について疲労試験結果に基づきひずみ目安値を検討した例を紹介する。


剛体電車線のコスト低減と速度向上に向けた検討

電力技術研究部(電車線構造) 主任研究員 清水 政利

剛体電車線はカテナリ架線に比べて設備の信頼性が高く、メンテナンスを軽減できる等の利点があるが、地下鉄以外に適用範囲を拡大する場合、コストを低減しつつ速度向上に対応することが課題となる。本発表では、支持点間隔を拡大した場合の基本的な特性と問題点の検討結果と、簡素化をねらいとしたカテナリ架線と剛体電車線間の新しい移行構造を紹介する。


パンタグラフ接触力測定の電車線保守への適用検討

電力技術研究部(電車線構造) 研究室長 久須美俊一

鉄道総研ではパンタグラフに取り付けたセンサによるトロリ線との接触力測定法開発に取り組んでおり、測定法自体は概ね確立されている。一方、接触力はトロリ線の高さ等の架設状態や、新幹線においてトロリ線寿命に大きく影響する局部摩耗との相関が大きいと考えられる。集電性能の維持・向上や電車線保守量適正化のため、トロリ線架設状態や局部摩耗等と接触力の相関をコンピュータシミュレーションや実車による測定で検証し、電車線保守へ適用する検討を進めている。本発表では接触力測定法および検証事例を紹介する。


架線に取り付けたセンサによるパンタグラフ接触力推定

鉄道力学研究部(集電力学) 副主任研究員 臼田 隆之

パンタグラフ接触力測定はパンタグラフに取り付けたセンサによる手法が開発されている。しかし、接触力のパンタグラフ形式依存性について幅広くデータを収集したり、接触力がトロリ線摩耗に及ぼす影響の長期モニタリングには地上側から測定する手法が必要である。そこで、数十mの測定区間内に配したトロリ線振動加速度センサとハンガ軸力センサの出力に基づき、測定区間内を通過するパンタグラフの接触力波形を推定する手法を検討し、有効性を数値計算および所内試験で検証したので、その結果を報告する。


交流電車線路地絡保護の信頼性向上

電力技術研究部(き電) 主任研究員 安喰 浩司

交流電車線路のせん絡保護方式としては、放電間隙方式(S状ホーン方式)が新幹線および在来線において広く採用されている。しかしS状ホーン方式は、コンクリート柱の絶縁強度との協調、鋼管柱電位上昇との協調が十分ではなく、地絡故障時のコンクリート柱の損傷や弱電機器への影響が懸念された。そこで、S状ホーンの放電開始電圧を現状の12kVから3kV以下に低下させるS状ホーン補助ギャップを開発し、人工地絡試験等の実施により、その動作機構および保護能力が有効であることを確認したので報告する。


交流き電回路シミュレータの開発

電力技術研究部(き電) 主任研究員 兎束 哲夫

変電設備設計に際しては、列車運転電力量や架線電圧降下等を精度よく推定する必要がある。そこで、列車ダイヤ、車両性能、線路条件、変電設備条件等を簡易に入力可能として定速運転、一段ブレーキ等を模擬できる運転電力計算アルゴリズムを開発し、多線条回路網解析アルゴリズムと組み合わせた交流き電電力計算シミュレータを開発した。本発表ではこのシミュレータの概要と計算結果例を紹介する。



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