第221回 鉄道総研月例発表会:人間科学に関する最近の研究開発

人間科学分野の最近の研究開発

人間科学研究部 部長  鈴木 浩明

人間科学の分野では、鉄道をさらに安全で安心できる交通手段としていくために、ヒューマンファクタの観点からの研究開発に取り組んでいる。ここでは、鉄道従業員のヒューマンエラーが関与する事故の防止から、非定常時に旅客が必要とする情報の検討まで、最近の主な人間科学研究の課題と取組みを概説する。


運転適性検査の見直し

人間科学研究部 安全心理 研究室長  井上 貴文

運転適性検査は1949年の開始以来、大きな見直しがなされていない。鉄道総研では、運転適性検査の見直しのために様々な角度から研究を進めてきた。本発表では、約1500名の鉄道社員を対象として、現行および新規候補の検査の成績と事故等の経験との対応関係を分析した結果について報告する。そして、運転適性検査の見直し案と、運用開始までの見通しについて述べる。


安全意識向上のためのグループ懇談手法と現場導入の工夫

人間科学研究部 安全心理 副主任研究員  重森 雅嘉

現場社員の間で、各自が持つヒヤリハット経験やエラー防止の工夫などが共有されにくくなってきている。そこで、本研究では、事故やヒヤリハットを題材としたグループ懇談により経験や工夫を共有し、職場全体の安全意識を高める手法を提案した。さらに、これらの手法を現場導入するための研修プログラムを提案し、懇談会及び研修会を現場で試行することにより有効性が確認できた。このため、今回は懇談会の具体的な実施概要、研修プログラム及び現場導入時の工夫などを紹介する。


エラー防止に向けた安全管理の支援手法

人間科学研究部 安全性解析 主任研究員  宮地 由芽子

事故が発生するまでには、複数のヒューマンエラーが発生し、それぞれについて複数の要因(ヒューマンファクタ)が影響している。そこで、現状の作業や職場管理の改善点を的確に洗い出すための手法開発の研究に取組んできた。ここでは、インシデント等の事例分析データを用いたエラー誘発要因を考慮したリスク評価手法、アンケート調査データを用いた安全風土(作業の仕組みや管理体制が実際の職場でどう認識されているか)の評価方法、の2つのアプローチについて紹介する。


ドライビングシミュレータによる踏切通行実験に基づいた安全性評価

人間科学研究部 安全性解析 主任研究員  松本 真吾

我が国では踏切通行時の一旦停止義務が定められているが、昨今、渋滞緩和及び温暖化対策の点から、解除を提案する意見がある。そこで、一旦停止義務の解除が安全性に与える影響の定量的評価について研究してきた。今回は、先行車停止時の踏切内での滞留可能性について、現状の踏切の実地調査及び、ドライビングシミュレータによる一旦停止義務解除時の踏切通行実験に基づいたリスク変動評価について報告する。


ホームに立つ旅客に対する列車風の力学的影響

人間科学研究部 人間工学 研究室長  小美濃 幸司

列車風は列車先頭部通過時に短時間の三角波など,風速波形に特徴的な要素を持つ。列車風に対するホーム上の旅客の安全性を正確に評価するためには,その波形が人に与える影響を明らかにする必要がある。そこで,風洞試験を活用し,列車風に見られる短時間の三角波状風速を受けた被験者の姿勢安定性を調査した。その結果を基に,統計的,力学的な観点からの考察を行い,風速ピーク値および人への作用時間が姿勢に及ぼす影響を明らかにしたので報告する。


在線表示を中心とした旅客への運行情報の提示方法

人間科学研究部 人間工学 研究員  村越 暁子

輸送障害時(ダイヤ乱れ時や運転見合わせ時)に鉄道会社から旅客に提供される運行情報は、現状では十分ではないという指摘がある。そこで駅社員および旅客を対象とした調査を実施し、輸送障害時の情報提供に関する旅客のニーズ等を把握した。そしてその結果にもとづき、列車の在線表示を中心とした旅客向けの運行情報の提示方法を提案した。


大地震による帰宅困難者が駅に求める機能とその対応

人間科学研究部 人間工学 主任研究員  藤浪 浩平

大地震が発生した際に鉄道利用者が選択しそうな行動を把握しておくことは、災害発生時の対応を策定する上で重要なことである。そこで、東京都心部の3駅を対象に、それらを概観するための質問紙調査を実施した。本報告では、調査結果の中から、人々が大地震遭遇後に駅に期待しそうなこと、人々が選択しそうな行動とそれらを選択する人の割合などを示すとともに、対応の策定において注意すべき点などを紹介する。


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