第231回 鉄道総研月例発表会:車両技術に関する最近の研究開発

車両関係の最近の研究開発

車両構造技術研究部 部長 石塚 弘道

鉄道総研では、「信頼性の高い鉄道」「利便性の高い鉄道」「低コストの鉄道」「環境と調和した鉄道」という目標のもと、研究開発を進めている。車両関係でもこれらの目標の実現のため、さまざまな研究開発を行っている。ここでは、最近の車両関係の研究開発の概要を紹介する。


動的軸重移動補償を用いた空転頻度低減制御

車両制御技術研究部 駆動制御 主任研究員 山下道寛

ある軸で空転が発生した時や再粘着制御が行われる時に、空転軸の伝達力が変化し、伝達力を受ける台車や車体にピッチングを起こす回転モーメントが働く。その結果、粘着状態にあった他の軸に軸重の変化が生じ、空転が誘発され易くなる。そこで粘着力を有効活用できるように、空転軸が引き起こす軸重の変化を考慮した、空転誘発の軽減を目指す新たな制御方式を開発した。実機機関車に適用して散水空転試験を行ったところ、平均20%の空転回数低減や、約4%の平均牽引力向上の効果が得られたので報告する。


実測形状にもとづく車輪とレール間の接触領域の解析

車両構造技術研究部 車両振動 副主任研究員 山本 大輔

車輪踏面が摩耗した際の走行安定性を知ることは重要である.従来は,車輪・レール間のすべり率を求めた後,実測した車輪踏面形状を曲率一定の設計形状と仮定して理論的にクリープ係数を求める例が多く,実形状の弾性変形を考慮して接触領域を求め,クリープ係数を導く例は少ない.このため,クリープ係数の求め方による差が,走行安定性に与える影響を確認する必要がある.本報告では,実測した車輪踏面形状からクリープ係数を推定する手法を開発し,従来のクリープ係数との違いを数値解析で検討したので紹介する.


車輪上移動型摩擦係数測定装置の開発

鉄道力学研究部 車両力学 副主任研究員 飯田 浩平

近年、車輪/レールの摩擦現象の把握が課題となっており、特に微小すべり条件下での摩擦力や表面付着物の摩擦力への影響を明らかにすることが求められている。そこで、従来のμテスタを発展させ、接触ローラーが一定の微小すべり率で車輪踏面上を移動しながら摩擦力を測定することができる車輪上移動型摩擦係数測定装置を開発し、油などの表面付着物の影響を感度よく把握することができたので、装置構成と測定結果を紹介する。


在来線車輪の振動・騒音解析と低減対策

車両制御技術研究部 動力システム 主任研究員 笹倉 実

鉄道車両から発生する騒音の主な要因の一つとして、レ−ル・車輪系から発生する転動騒音があり、その低減対策が求められている。本発表では、車輪の構造変更、現状車輪板部への制振材貼付及び防音カバ−を適用した場合のシミュレ−ションによる音響パワ−変化予測や、耐候性・耐熱性に優れるエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)吸音材と、制振材を合わせた構造の波打車輪用防音カバ−の試作と定置加振試験による振動・騒音の低減効果の確認など、在来線車輪を対象にした対策例を紹介する。


高速新幹線用合成系車軸軸受油の開発

材料技術研究部 潤滑材料 主任研究員 中村 和夫

新幹線の車軸軸受油に対しては、高速化には耐熱性の向上、油の交換周期延伸には耐久性の向上が求められる。このような要求に対して合成系基油の適用が有効であるが、実使用時におけるコストを抑えるため、合成系基油と鉄道をはじめ多くの産業分野で用いられている鉱油系基油との混合基油による車軸軸受油を試作した。性能試験により、この試作油は、合成系基油だけのものとほぼ同等であることが判明した。そこで、台上耐久試験を実施した結果、油の劣化は少なく軸受の状態も良好であることが確認されたので紹介する。


ステンレス構体応力集中部の疲労強度評価法

車両構造技術研究部 車両強度 主任研究員 織田安朝

鉄道車両用ステンレス鋼製構体では、スポット溶接継手部の疲労強度評価に対する明確な基準がないのが現状である。そこで、新たにスポット溶接継手部の疲労設計線図を作成し、走行試験で得た実働応力により検証を行った。これらとレーザ溶接部の疲労強度評価線図ならびに母材部の応力限界図による評価法を組み合わせて、ステンレス構体疲労強度評価法としてまとめたので紹介する。


ナノ材料の車両用床材への適用評価

材料技術研究部 防振材料 主任研究員 伊藤幹彌

近年、高分子の難燃化対策としては脱ハロゲン化が求められている。しかし、脱ハロゲン化と難燃化を両立させるためには無機系添加物を従来以上に添加する必要が生じ、重量増加、柔軟性低下、脆性増加を招き、高分子の利点を大きく損なう課題がある。これら課題解決のため、ナノ材料の車両内装材への適用評価を実施した。その結果、難燃性向上に適したナノ材料の配置方法を見出したほか、ナノ材料を構成した試作品は難燃性を始めとした床材の基礎特性を満足することを明らかとしたので、その内容について紹介する。



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