第235回 鉄道総研月例発表会: 環境工学に関する最近の研究開発

環境工学に関する最近の研究

環境工学研究部 部長 飯田 雅宣

鉄道の環境問題には、騒音、振動、低周波音、電磁界など、さまざまな課題がある。列車の速度向上、輸送力の増強に際しても、環境に対する負荷を小さくし,環境に優しい快適な鉄道の実現をはかることが重要である。ここでは,主として沿線の環境問題を対象に、現在鉄道総研が取り組んでいる研究開発について概説する。


生物多様性と鉄道

材料技術研究部 主管研究員 辻村太郎

平成21年8月環境省より「生物多様性民間参画ガイドライン」が公表された。これによると、企業は社会的責任(CSR)としてのさまざまな活動を含めた企業活動全般を通じて、生物多様性の保全と持続可能な利用を求められている。そこで、「生物多様性民間参画ガイドライン」の趣旨を概説し、生物多様性と企業との関係、さらには鉄道では生物多様性にどのように対応していくべきかを解説する。


車両のトンネル突入時に形成される圧縮波に関する三次元模型実験

環境工学研究部 空気力学 研究員 斎藤 英俊

車両がトンネルに突入するときに生じる圧縮波の波形の予測精度向上を目的に、初の試みとなる三次元車両模型の回転車輪方式による発射実験を行った。課題であった三次元列車模型の回転車輪による安定した発射に関して、三次元車両模型の断面形状を矩形部と円筒形状部の組み合わせとすることにより、ロール方向に大きな回転を生じさせることなく、ほぼ水平に高速で発射することができるようになった。実験の結果,圧縮波の波形は,車両の水平方向の位置だけでなく、高さ方向の位置の影響も受けるなどのことがわかった。本報告では、実験概要および実験結果を報告する。


トンネル坑口から放射される連続圧力波の特性評価

環境工学研究部 空気力学 主任研究員 菊地 勝浩

新幹線沿線では、新幹線の走行に伴い複数の低周波音が観測される。例えばトンネル坑口付近では、低周波の代表的な現象として「トンネル微気圧波」があり、これは継続時間が短い衝撃性の低周波音である。一方、振幅は小さいが比較的長い時間、トンネル坑口から連続的に放射される圧力波、いわゆる「トンネル連続圧力波」がある。本発表では、トンネル連続圧力波の特性に関して検討を行い、得られた速度依存性や周波数分布等を報告する。また、トンネル連続圧力波の解析用に開発したトンネル内入射波分離法についても紹介する。


静磁界と極低周波変動磁界の複合曝露による生体作用評価

環境工学研究部 生物工学  副主任研究員  吉江幸子

近年、世界保健機関(WHO)において電磁界の健康リスク評価が進められるなど、電磁界が生体に与える影響に対する社会の関心は高く鉄道総研では生体に対する電磁界の作用機構の解明を目的として基礎的な研究を行っている。本研究では、鉄道に特有な電磁環境の生体影響評価の一環として静磁界と極低周波変動磁界との複合曝露試験を実施した結果、発がんなどの要因となる遺伝毒性を示さないことがわかった。本発表では、この実験結果について報告する。


粒子画像流速計測法を用いた流れ場測定と空力音源の予測

環境工学研究部 騒音解析 研究員 宇田東樹

粒子画像流速計測法(PIV)とは、風洞試験などにおいて気流の中に煙粒子を導入し、レーザー光による散乱光画像を記録して画像の相関解析をかけることで、空間的な流速分布を得る手法である。本研究では,風洞試験においてこの手法を適用し種々の流れ場の性質と空力音源との関係を調べた。その結果、実験的に得られた渦度変動から遠方場における空力音源を予測できることがわかった。本発表では、実験概要および得られた成果を報告する。


住宅密集地における在来鉄道の騒音分布

環境工学研究部 騒音解析 副主任研究員 田中慎一郎

住宅密集地を走行する在来鉄道の沿線騒音を正しく評価するためには、個々の家屋による反射・遮蔽等の影響を定量的に評価する必要がある。このために、家屋壁面とマイクロホンの距離、家屋による音源遮蔽割合等が自由に設定可能な模型試験による検討を行った。その結果、模型試験により現車試験結果をほぼ再現できること、そして家屋の騒音分布へ与える定性的な影響が分かった。本発表では、これらの実験概要および結果について報告する。


鉄道沿線における高所空間に適用可能な騒音予測手法

環境工学研究部 騒音解析 研究室長 長倉清

線路近接建物の高層階等の高所空間においては、騒音レベルは音源の鉛直面内の指向特性や防音壁と車体による音の反射の影響を強く受けると考えられるが、従来の予測手法では、これらの影響は考慮されていない。そこで、本研究では実車試験と模型実験によりこれらの影響を調査し、その結果を反映させた騒音予測手法を提案した。提案した予測手法による騒音レベル分布は、高所空間を含めた広い領域において模型実験値とよく一致しており、手法の妥当性が確認された。本発表では、試験結果および予測手法の概要について報告する。



第235回月例発表会のページに戻る

HOME RTRI ホームページ
Copyright(c) 2010 Railway Technical Research Institute