第244回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研究開発

防災技術に関する最近の研究開発

防災技術研究部 部長 杉山 友康

 鉄道の災害発生件数は、多くの技術者が災害との闘いの上になし得た防災技術の発展により半世紀前と比較すると数%まで激減した。一方、近年においては、巨大地震の発生や局所的短時間集中豪雨の観測頻度が増加するなどして、被災形態が多様化し、防災技術のあり方も変化してきているといえる。ここでは、最近の災害の傾向を示すとともに、鉄道総研における自然災害の減災に向けた最近の研究開発の現状について、災害の外力ごとに整理して紹介する。


構造物周りの風速計位置が観測値に及ぼす影響

気象防災 主任研究員 荒木 啓司

規制用風速計は、線路構造物に近接して設置されることが多いが、その設置位置に関して定量的な基準がない。そのため、観測値が構造物の影響を強く受けるような位置に風速計が設置されている場合がある。そこで、代表的な線路構造物を対象とした風洞試験と現地観測により、風速計位置の違いが観測値に及ぼす影響を把握した。本発表ではこれらの成果と、その成果を踏まえた合理的な風速計の設置位置の考え方について紹介する。


鉄道沿線の強風箇所抽出方法

気象防災 副主任研究員 福原 隆彰

強風時の運転規制を的確に行うため、沿線で強風が発生しやすい箇所を探して、強風をもれなく検知できる位置に風速計を配置する必要がある。地形の影響を考慮して強風箇所を抽出する手法は、数値計算技術の進歩とともに可能となってきた。水蒸気量や降水等を含めて気象を数値的に解析する技術と、微細な地形の影響を風向別に考慮する技術を組み合わせて、最大瞬間風速の再現期待値を推定する方法を紹介する。


雪崩の警備への気象情報の活用

気象防災 主任研究員 飯倉 茂弘

鉄道沿線において雪崩危険斜面の抽出と雪崩警備時期を客観的な指標に基づいて判定することを目的として、雪崩警備方法の検討を行った。雪崩危険斜面の抽出については、地形や植生などを階級分けしたスコア表を作成し、これを用いた採点方式による方法を、また、警備時期の判定については、気象データから斜面の積雪深さや積雪の安定度を推定し、これらの推定結果を指標とする方法を、それぞれ、既往の研究事例を参考に提案する。


地山の風化を考慮した切土のり面工の健全度評価手法

地盤防災 主任研究員 太田 直之

張コンクリートなどの切土のり面工背面の地山の状態を調べると、地質条件や浸透水の影響などによって地山が風化していることがある。風化が著しく進行し土砂化している場合、のり面工に土砂化層による土圧が作用して、のり面工の安定性が低下していることが懸念される。そこで、模型斜面を用いた実験の結果を基に作成した、地山の風化を考慮したのり面工の健全度評価手法について報告する。


斜面災害を対象とした防災対策の意思決定支援方法

地盤防災 主任研究員 布川 修

斜面災害を対象とした防災対策の優先順位や方法は、斜面・岩塊の危険度やこれらが存在する線区の重要度などを別々の指標で評価し、これらから経験的に決定している。こうした対策をより効果的に実施するためには、斜面災害の危険度を定量的な1つの指標で評価することが必要になる。そこで、本発表では、主な斜面災害である土砂崩壊と落石による災害を対象として、これらの発生確率や災害発生時の損失からリスクとして斜面災害の危険性を評価し、防災対策の意思決定を支援する方法について報告する。


岩盤斜面からの落石の大きさを簡易に推定する方法

地質 研究室長 太田 岳洋

岩盤斜面から発生する落石の大きさを推定することは対策工を検討するために重要な項目の一つである。現状では主に専門技術者の目視観察により定性的に推定されているが、通常の点検時に定量的に評価する手法の開発が望まれている。そこで、本発表では剥落型落石を対象として、岩石の強度や密度を基にし、現地で落石の大きさを簡易に推定する方法を提案する。


揺れの大きさを早期に推定するための地震動指標利用法

地震防災 研究室長 山本 俊六

地震が発生した場合に素早く列車を停止、減速させることを目的として、地震動のS波部分の到達を待たず、地震動初動部分から最終的な揺れの大きさを推測する手法を検討した。その結果、P波部分の上下動の振幅を地震動指標とし、従来の指標と組み合わせて利用することで、直近で発生した地震に対してより早く列車停止の判断ができる効果が示されたので、その内容について紹介する。


東北地方太平洋沖地震の地震動の特徴と構造物への影響

耐震構造 研究室長 室野 剛隆

日本の地震観測史上、最大のマグニチュード9.0を記録した東北地方太平洋沖地震について、現在公開されている強震記録に基づき、過去の地震動との比較や設計地震動との比較の観点から、今回の地震の特徴と構造物への影響について報告する。



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