第248回 鉄道総研月例発表会:車両技術に関する最近の研究開発

車両技術に関する最近の研究開発

車両構造技術研究部 部長 佐々木 君章

車両技術の研究・開発に関わる最近の話題として、2010年度に実施してきたテーマの中から、車軸の軽量化と信頼性向上に寄与する車軸形状の最適化、フェールセーフ性を持つ操舵制御システム(アシスト操舵)の開発状況、車両引通し指令線の断線箇所検知装置による安全性向上などを取り上げて、鉄道総研が行っている車両技術開発の方向性について紹介する。


車輪削正後の車輪表面状態の変化と塗油による乗り上がり脱線防止効果

鉄道力学研究部 車両力学 副主任研究員 土井 久代

急曲線部における低速時車輪フランジ乗り上がり脱線は、車輪削正から短距離走行後に発生する例が散見される。したがって、走行に伴う車輪フランジ表面状態の変化が脱線に影響していると推測される。そこで、各種試験や車両運動解析により、車輪フランジ表面の形状変化や車輪・レール間の摩擦係数が車輪乗り上がりへ及ぼす影響などについて調査・評価した。さらに、車輪削正直後のフランジ塗油の効果・持続性を調べ、それが乗り上がり脱線対策となることを示した。ここではこれらの結果について報告する。


在姿状態における中ぐり車軸の超音波探傷精度の評価

車両構造技術研究部 車両強度 副主任研究員 牧野 一成

車軸を在姿状態で超音波探傷する場合、車両重量により車軸に作用する曲げモーメントがきずエコーの高さを変化させ、探傷時の感度調整や探傷精度に影響をおよぼすため、定量的な把握が難しい。そこで、在来線車両用中ぐり車軸の疲労試験中に超音波探傷試験を行い、疲労の進行あるいは曲げモーメントの方向にるきずエコー高さの変動状況を把握し、車軸−車輪はめ合い部の超音波伝搬の観点からその発生要因を評価したので報告する。


輪重・横圧測定処理システムと軸端テレメータ装置の開発

車両制御技術研究部 動力システム 主任研究員 佐藤 潔

輪重・横圧測定法の中で、間欠輪重・連続横圧法は、自動処理時の連続横圧のドリフト補正が困難であった。そこで、輪重による零点補正や間欠横圧での連続横圧ドリフト補正法を考案し、測定精度と経済性が向上した間欠輪重・間欠横圧法と間欠輪軸・連続横圧法の2方式併用測定処理システムおよび、輪軸から信号を非接触で取出す耐久性と耐ノイズに優れ車軸軸端に取り付けを可能にしたテレメータ装置を開発した。ここでは本装置の構成と処理方法について紹介する。


台車振動の車体への伝搬を抑える牽引リンク緩衝ゴムの開発

車両構造技術研究部 車両振動 研究室長 富岡 隆弘

わずかな質量アンバランスのある輪軸の回転による台車振動が車体に伝搬することで、大きな曲げ振動が発生し、乗り心地が低下する場合がある。そこで、台車から車体への振動の伝搬を防ぐため、緩衝ゴムと台車・車体への取付用金具間に微小隙間をもつ牽引リンク緩衝ゴムを開発した。車両試験台での試験により輪軸アンバランスによる車体振動の抑制効果を実証し、走行安定性や耐久性に問題がないことを確認するとともに、本線走行試験を実施して、車体振動の抑制効果を確認したので紹介する。


応答性を向上した振子制御用空気圧アクチュエータの開発

車両構造技術研究部 走り装置 副主任研究員 風戸 昭人

振子車両に特有の低周波左右振動を低減でき、乗り物酔いの発生しにくい車体傾斜を実現できる空気圧アクチュエータを開発した。このアクチュエータは、サーボ弁を従来の圧力制御式から流量制御式に変更し、空気圧回路と制御系の見直しにより、高い応答性と最大発生力の向上を実現したものである。また、自然振子走行時には、振子ダンパとして機能させる空気圧回路を併設し、別置きの振子ダンパを不要にできる。本発表では、開発したアクチュエータの概要を紹介し、その乗り物酔い軽減効果を、一車両モデルによるシミュレーションによって示す。


車体剛性向上機能付き吊手棒の開発

車両構造技術研究部 車両振動 主任研究員 瀧上 唯夫

車体の上下曲げ振動は乗客の乗り心地に影響を与えるため、その低減が重要な課題となっている。これまでに振動特性に影響を与える車体剛性を向上するため、一般に強度部材としては考慮されていない内部骨組や吊手棒を活用する手法について検討し、内装などを装備しない「構体相当」の試験車両で効果を確認した。本発表では、さらに実用性を向上させ、既存車体に後付け可能な「剛性向上機能付き吊手棒」を試作して,内装などを装備した「完成車相当」の試験車両に取付け、剛性向上・振動低減効果について検証した結果を紹介する。


新しい固体潤滑成分を用いた新幹線用焼結合金すり板の開発

材料技術研究部 摩擦材料 主任研究員 土屋 広志

新幹線パンタグラフすり板に使用している鉄系焼結合金の材質に、近年の固体潤滑技術を活用した従来と異なる固体潤滑成分を用いることにより、潤滑性の向上を図った新しい鉄系焼結合金すり板を開発した。本発表では、開発した鉄系焼結合金すり板について、定置試験、実車試験などによりすり板性能を評価した結果、良好な特性が得られ、一部のJR会社で実用化された事例について紹介する。



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