第255回 鉄道総研月例発表会:車両技術に関する最近の研究開発

最近の車両の研究開発の話題

車両制御技術研究部 部長 小笠 正道

鉄道総研では、今期5年間の中長期基本計画であるRESEARCH2010に基づき活動を進めており、平成24年度はその3年目に当たる。その研究開発の目標は4つ掲げられており、その中でも車両関係では「安全性の向上」と「環境との調和」に重点的に取り組んでいる。そこで、そのような研究開発の進め方を概説するとともに、最近の研究開発成果の一部として、側面からの荷重に対する車体強度特性評価、高熱伝導有機材料を用いた半導体素子の放熱部材の開発、直流電車帰線電流の低周波成分予測手法の構築例を紹介する。


鉄道車両のエネルギー消費原単位簡易計算法

車両制御技術研究部 動力システム 研究員 宮部 実

鉄道車両の省エネ化を推進するため、改正省エネ法では、車両キロ当たりのエネルギー消費を表すエネルギー消費原単位の低減を、鉄道事業者に対し求めている。そこで、鉄道事業者における省エネ計画作成の支援を目的とし、車種や運用によるエネルギー消費原単位の違いを簡易に計算できる手法を開発した。ここでは、本計算法を用いて、様々な省エネ技術の効果的な使い方を検討した結果について紹介する。


主電動機軸受の新しい中間給脂方法

材料技術研究部 潤滑材料 主任研究員 日比野澄子

鉄道車両の主電動機では保守軽減の要求が強く、非解体で軸受の潤滑寿命を延伸する目的で、一部において中間給脂が行われてきたが、初期封入量を減らす必要があることや、確実に一定量の給脂を行うことが難しいこと等の課題もあった。そこで、劣化グリースを軸受から遠ざけ、未劣化グリースを軸受近傍に供給し、安定した給脂効果が得られる新しい給脂機構と、効果の高い給脂時期を提案した。ここでは、新しい機構と給脂時期の組み合わせによる中間給脂方法と、実物大軸受を用いた台上試験の結果を紹介する。


在姿状態における中ぐり車軸の超音波探傷精度の評価

車両構造技術研究部 車両強度 主任研究員 牧野 一成

車軸を在姿状態で超音波探傷する場合、車両重量により車軸に作用する曲げモーメントがきずエコーの高さを変化させ、探傷時の感度調整や探傷精度に影響をおよぼすため、定量的な把握が難しい。そこで、在来線車両用中ぐり車軸の疲労試験中に超音波探傷試験を行い、疲労の進行あるいは曲げモーメントの方向によるきずエコー高さの変動状況を把握し、車軸−車輪はめ合い部の超音波伝搬の観点からその発生要因を評価したので報告する。


編成貨車電磁ブレーキ指令線の断線箇所特定装置の開発

車両制御技術研究部 駆動制御 主任研究員 山下 道寛

貨物列車組成時に行われる検査項目に、ブレーキ引通し指令線の導通確認がある。指令線の断線が発見された場合、断線箇所の特定に時間を要しダイヤ遅延の要因となる。そこで、編成端から指令線の断線箇所を特定するアルゴリズムに基づき、指令線に断線が無いか、あるいはどこが断線しているかを抵抗測定値により特定し、迅速な復旧をサポートする、断線箇所特定装置を開発した。実編成貨車を用いた断線模擬試験において、本装置により約30秒で20両目までの断線箇所を特定できる結果が得られたので紹介する。


リニアモータ技術を応用したレールブレーキの開発

浮上式鉄道技術研究部 電磁力応用 主任研究員 柏木 隆行

鉄道車両の非粘着ブレーキの一つに渦電流レールブレーキがある。これにリニアモータ技術を応用することで、これまでの渦電流レールブレーキで課題となっていた、停電時の動作不能や過度なレール温度上昇を解決できる可能性がある。ここでは、これまでのレールブレーキ開発の経緯や海外の動向を解説するとともに、開発した交流励磁型渦電流ブレーキの定置試験による試験結果などを紹介する。


振動の位相差に着目した上下ばね系の異常検出手法の開発

車両構造技術研究部 走り装置 副主任研究員 小島 崇

車両の上下制振制御システムにおいて、ばね系の減衰特性が変わることにより、ばね上の並進運動と回転運動の位相差が変化する。この ことに着目し、車両走行中のダンパ減衰力異常について、制振制御用の加速度センサを利用して検出する手法を開発した。 加振試験および走行試験の結果、本手法により、軸ダンパおよびまくらばねダンパの異常が検出できることを確認した。本発表では、これらに加え、本手法を適用した上下制振制御システムの実用化事例について紹介する。


横風に対する鉄道車両の転覆限界風速評価方法

車両構造技術研究部 車両運動 研究室長 日比野 有

横風に対する鉄道車両の転覆限界風速評価式として、いわゆる「国枝式」が古くから用いられているが、近年の研究成果や事故調査などから得られた知見が十分に反映されていない課題がある。そこで、本研究では国枝式をベースに、転覆に影響を及ぼす各要素をより詳細に考慮した「総研詳細式」およびそれを動的解析に拡張した「動的解析式」を構築するとともに実物車両や模型車両を用いた検証試験を行ったので、その内容と各解析式 の精度・用途などについて紹介する。



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