第256回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研究開発

防災技術に関する最近の研究開発

防災技術研究部 部長 杉山 友康

鉄道の災害発生件数は、多くの技術者が災害との闘いの上になし得た防災技術の発展により半世紀前と比較すると数%まで激減した。一方、昨年3月の東北地方太平洋沖地震、7月の新潟・福島豪雨、9月の台風12号、15号は、各所に甚大な被害をもたらした。増大しつつある外力、多様化する被害に対して、鉄道における防災技術のあり方も変化してきているといえる。ここでは、最近の災害の状況を示すとともに、鉄道総研における自然災害の防災・減災に向けた最近の研究開発の現状について紹介する。


幅の広い高架橋に設置した防風柵の効果

環境工学研究部 車両空力特性研究室 主任研究員 種本 勝二

線路構造物に防風柵を設置することで減風域が発生し、車両に働く空気力は低減されるが、複々線の高架橋など、断面幅が大きな構造物においてその効果が及ぶ範囲を検証した例は少ない。そこで、複々線高架橋等の車両に働く空気力に関する風洞試験を行い、防風柵からの車両の離れと空気力低減効果との関係を明らかにした。また、現地風観測データと風洞試験結果を比較し、風洞試験の妥当性を確認した。本発表ではこれらの結果を紹介する。


強風発生確率を用いた車両の安全性評価手法の開発

防災技術研究部 気象防災研究室 副主任研究員 福原 隆彰

強風対策を計画するには、防風柵設置や運転規制を実施した場合に、どれだけ安全性が向上するかを数値的に見積もる必要がある。そこで、転覆限界風速と強風の発生確率とを用いて、転覆限界風速を上回る風の発生確率、すなわち危険な風速に列車が遭遇する確率を算出する手法を開発した。本発表では、この安全性評価手法の概要とともに、防風柵や運転規制により安全性がどの程度向上するかを検討した例を紹介する。


流水の影響を考慮した橋脚振動解析モデルと洗掘時の振動特性評価

防災技術研究部 地盤防災研究室 主任研究員 佐溝 昌彦

河川増水時の橋りょうでは、より簡易かつより的確に橋脚基礎の安定性を評価することが必要である。そのため橋脚の微動に着目した評価手法の開発を進めている。ここでは、橋脚周りの水位上昇に伴い生じる付加質量の効果など流水の影響を考慮した橋脚振動の解析モデル化と、そのモデルを用いて微動から橋脚の固有振動数が卓越する場合の流水条件の感度分析や基礎の根入れ長の変化が橋脚の振動特性に及ぼす影響について報告する。


数値標高モデルに基づいた斜面崩壊発生危険箇所抽出法の開発

防災技術研究部 地質研究室 副主任研究員 長谷川 淳

近年、鉄道用地外の自然斜面が崩壊し、鉄道の運行を阻害する事例が多くみられる。しかし沿線に存在する多数の自然斜面を逐一点検するためには膨大な時間と費用がかかるため、より効率的な自然斜面の管理手法の構築が望まれている。本研究では、数値標高モデルの数値情報を用い、斜面崩壊の素因となる地形、地質、植生、人工改変などを数値化し、これをもとに斜面崩壊が発生する可能性がある箇所を抽出する手法を開発したので、その内容について報告する。


打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価手法の開発

防災技術研究部 地質研究室 研究員 石原 朋和

岩盤斜面中の岩塊の安定性評価は、現在は主に専門技術者による定性的な調査によっているため、調査者による結果の相違や定量的な判断の困難さ等の問題がある。本研究では打音測定により、岩塊を打撃した際に得られる音圧波形から卓越周波数とその振幅を求め、両者の関係から岩塊の安定性を定量的に評価する手法を開発したので、その内容について紹介する。


盛土に打設した排水パイプの耐降雨性向上効果の解析的評価

防災技術研究部 地盤防災研究室 副主任研究員 渡邉 諭

排水パイプは、降雨によるのり面崩壊を防止する対策のひとつとして、多くの盛土のり面で施工実績がある。しかし、排水パイプの効果は定量的に示されてないため、実施工にあたっては、排水パイプの施工位置や設置間隔は経験的に決定されているのが実状である。本発表では、模型盛土を用いた散水実験等によって明らかにした排水パイプの水位低下効果を示すとともに、浸透流解析によって明らかにした排水パイプによる耐降雨性向上効果について報告する。


揺れの大きさを早期に推定するための地震動指標利用法

防災技術研究部 地震防災研究室 副主任研究員 岩田 直泰

地震が発生した場合に素早く列車を停止、減速させることを目的として、地震動のS波部分の到達を待たず、地震動初動部分から最終的な揺れの大きさを推測する手法を検討した。その結果、P波部分の上下動の振幅を地震動指標とし、従来の指標と組み合わせて利用することで、直近で発生した地震に対してより早く列車停止の判断ができる効果が示されたので、その内容について紹介する



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