第262回 鉄道総研月例発表会:人間科学に関する最近の研究開発

人間科学分野における最近の研究開発

人間科学研究部 部長 鈴木 浩明

鉄道における人間科学研究の対象は多種多様であるが、ヒューマンエラー事故防止への貢献はその根幹をなすものである。本発表では、はじめにヒューマンファクタ研究全体の特徴を概観した上で、安全性向上に関わる研究開発を中心に、最近の主なトピックを解説する。


運転士の異常時対応能力向上プログラムの実用システム

人間科学研究部 人間工学研究室 室長 小美濃 幸司

運転士が異常事態に遭遇し、心理的な負荷がかかった状態、あるいは対処後の気の緩み等が生じ易い状況下でも、適切な対応ができる能力を培うことを目的とし、運転シミュレータを使用した教育手法を提案してきた。これは異常時の心理・行動傾向に自ら気づくことで能力向上を図る手法であり、本手法を訓練現場で実施する際に必要となる、自身の運転を客観的かつ効果的に振り返るためのシステムを作成したので報告をする。


現場社員に対する効果的な事故情報の掲示

人間科学研究部 安全心理研究室 主任研究員 重森 雅嘉

鉄道事業者は事故速報などの事故情報を日々現場に提供している。しかし、現場社員にとっては、限られた時間の中で多くの情報を理解し、記憶に留めておくことは難しい。そこで、心理学的知見や新たに実験で明らかにした知見に基づき、エラー事象と原因などの事故の骨子を先に提示することや自分に置き換えて考えることを促すことなど、理解や記憶にとって効果的な事故情報の掲示手法を明らかにした。


におい物質を利用した電気火災検知の基礎的検討

人間科学研究部 生物工学研究室 主任研究員  潮木 知良

においは、人間が本能的に危険を感知する五感の一つである。これまで、変電所で発生する電気火災において、経験的に火災に至る以前の段階で異臭を感じることがあると言われていた。人間が感じるにおいは有機物質による刺激であるため、異臭を感じたときの空気中の有機物質を測定することで数値化することができる。本発表では、電線が過熱したときに被覆材から放出される有機物質を利用し、火災の兆候を検知する可能性について検討した結果を報告する。


中間周波電磁界の生物影響の評価

人間科学研究部 生物工学研究室 主任研究員 池畑 政輝

近年、電磁界の健康影響評価が世界的に進められている。鉄道では環境中の電磁界が幅広い周波数にまたがるため、関連する周波数ごとに評価する必要がある。このため現在は、車載の主変換装置等に関連する数k〜数十kHzの中間周波帯電磁界の評価を進めている。本発表では、21kHzの電磁界に関して、ヒトや哺乳類の培養細胞における遺伝子の変異頻度やホルモンへの応答性を検討した結果、有意な影響が認められなかったことを報告する。


鉄道の輸送障害・事故に対するリスク認知の構造

人間科学研究部 安全性解析研究室 室長 宮地 由芽子

システムのリスクマネジメントのためには、それを受け入れる社会の実態をふまえることも必要である。そこで、社会一般のリスク認知の実態把握を行うための調査分析を実施した。ここでは、鉄道の事故原因別のリスク認知構造が、どんな回答者の属性でも共通の「事象の発生状況と自身の遭遇可能性」と「自身への影響と危険性」の2因子から構成されること、および、この2因子を用いた「総合リスク得点」を算出した結果例を説明する。


運転指令作業におけるヒューマンエラーのリスク管理支援手法

人間科学研究部 安全性解析研究室 副主任研究員 羽山 和紀

運転指令員のエラーが直接事故等に結び付くことは少ないが、事故や災害などで輸送障害が発生すると時間的圧迫や作業の輻輳などにより、様々なエラーの発生が想定され、その影響は多大になる可能性がある。そこで、現状の作業や職場管理の改善点を的確に洗い出すための手法として、運転指令作業を対象としたエラーのリスク評価手法および管理方法の開発研究に取り組んできた。ここでは、その評価手法とその結果例を紹介する。


通勤列車踏切事故時の乗客挙動シミュレーション

人間科学研究部 人間工学研究室 副主任研究員 中井 一馬

通勤列車が踏切事故に遭遇した場合の乗客被害軽減を目的として、乗客挙動シミュレーションを活用した車内安全性の検討を行っている。乗客が内装品とぶつかる現象を推定するため、ダミー人形の一部を内装品に打ち当てる衝撃試験を実施し、データをシミュレーションモデルに反映させて精度向上を図った。その上で通勤列車の踏切事故を想定した解析を行い、乗客の挙動と傷害程度から留意点と被害軽減対策案を検討したので、その内容について報告する。




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