第264回 鉄道総研月例発表会:人間科学に関する最近の研究開発

鉄道沿線の騒音、振動、微気圧波に関する最近の研究開発

環境工学研究部 部長 飯田 雅宣

 鉄道はエネルギー効率の高い、地球環境に優しい交通機関であるが、大型の重量物である列車が高速で走行するため、沿線の環境に様々な影響を及ぼす。特に、沿線騒音、振動、微気圧波は代表的な問題であり、その低減が重要である。ここで、これらの課題に対する鉄道総研における最近の研究開発の状況について概観する。


高速走行時における車両下部音の音源別寄与度評価

環境工学研究部 騒音解析研究室 主任研究員 北川 敏樹

 新幹線騒音を低減するためには、集電系音及び車両下部音に対する対策を進めることが必要である。車両下部音は主に転動音や台車回りの空力音から構成されるが、これらの音源の寄与度は明らかではない。そこで、レール、車輪の振動特性や実車走行時における測定結果と転動音予測法を用いて転動音の推定を行い、各音源の寄与度を評価した。その結果、330km/h以上では、空力音が車両下部音全体に対して大きな寄与を持つことを明らかにしたので、その内容について紹介する。


車両地上同時測定による車輪・レール間騒音の音源別寄与度評価

環境工学研究部 騒音解析研究室 主任研究員 村田 香

 車輪・レール間から発生する騒音の予測では車輪およびレール面上の凹凸分布や車輪および軌道の振動特性を入力条件としている。本予測法を検証するため、在来線車両が走行するときの車輪振動とレール振動を同時に測定し、その結果を騒音予測の過程で導出される車輪およびレールの振動加速度と比較したところ、両者は概ね同じ傾向であった。また、騒音予測結果から音源別寄与度を評価したところ、1kHz付近ではレール、2kHz以上では車輪の寄与が大きいことが分った。ここでは以上の内容について発表する。


風荷重低減型防音板の提案

材料技術研究部 防振材料研究室 室長 半坂 征則

 近年、沿線で高層建物が増加しているなどの理由から、防音壁を大幅に嵩上げするニーズが増大しているが、防音壁が高くなると風荷重が増大して、強風時に構造物の設計荷重を上回ることが懸念された。このため新たに、長方形平板の上辺を回転支持し、残りの辺を磁力で固定した風荷重低減型防音板を開発した。この防音板は列車走行時には閉じて高い防音性能を持ち、強風時には開いて風荷重を大幅に低減する。風洞実験等を行い同防音板の動作や性能を確認した。本発表では、同防音板の概要と各種性能試験結果について述べる。


シミュレーションを用いた軌道不整による地盤振動への影響評価

防災技術研究部 地質研究室 主任研究員 横山 秀史

 これまでに実施した現地測定および数値シミュレーションにより軌道不整による地盤振動への影響が確認されたことから、軌道不整と地盤振動の関係についてパラメータースタディを行い、軌道不整と軸重等の各々の要因について発生する振動への寄与度を整理した。その結果、軌道不整の振幅が小さいときには軸重等に起因する振動成分が支配的であるのに対し、軌道不整の振幅が大きくなると軌道不整に起因する振動成分が支配的になり地盤振動を増大させることなどがわかったので報告する。


地下鉄トンネル内温度の予測と検証

環境工学研究部 熱・空気流動研究室 副主任研究員 斎藤 寛之

 地下鉄トンネルのように空気が入れ替わりにくい空間内を鉄道が走行する際には、温度上昇が問題になる場合がある。鉄道総研では、これまで温熱環境シミュレーションプログラムを使用して、トンネル内温度の予測を行ってきた。今回、長期間にわたり地下鉄トンネル内で実施した温度計測結果により、そのシミュレーションの予測精度を検証した。本発表では、シミュレーション結果に対する地盤温度の影響等について紹介する。


風洞実験による様々な車両断面形状に対する横力係数の評価

環境工学研究部 車両空力特性研究室 副主任研究員 乙部 達志

 強風時の車両安全性の確保は重要な課題である。そこで、車両横断面形状の違いによる空気力への影響を明らかにする事を目的に風洞実験を行った。気流は一様流と格子乱流、供試体は車両屋根部と肩部の曲率半径が異なる様々な車両形模型(縮尺1/40)、また地面を模擬する板がある場合とない場合に対して空気力を測定した。その結果、車両屋根部の曲率半径は小さい方が、また車両肩部の曲率半径は大きい方が横力係数は小さくなる傾向があることが分かった。ここでは、これらの測定結果をまとめたものを発表する。


横風を受ける車両周りの流れの数値シミュレーション

環境工学研究部 車両空力特性研究室 主任研究員 中出 孝次

 横風を受ける鉄道車両の空力特性を把握することは、強風時の鉄道の安全・安定輸送を実現するためには重要である。現在まで主として風洞実験により車両空力特性が調べられているが、流れ場に対する詳細な知見を提供する手法として数値シミュレーションも期待されている。ここでは横風を受ける走行車両周りの流れの数値シミュレーションを実現するための方法、風洞実験との比較、さらには計算結果から予想される車両の空力特性への列車走行の影響について紹介する。




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