第266回 鉄道総研月例発表会:環境工学に関する最近の研究開発・鉄道シミュレータの開発状況

鉄道沿線の騒音、振動、微気圧波に関する最近の研究開発

環境工学研究部 部長 飯田 雅宣

鉄道はエネルギー効率の高い、地球環境に優しい交通機関であるが、大型の重量物である列車が高速で走行するため、沿線の環境に様々な影響を及ぼす。特に、沿線騒音、振動、微気圧波は代表的な問題であり、その低減が重要である。ここで、これらの課題に対する鉄道総研における最近の研究開発の状況について概観する。


高速走行時における車両下部音の音源別寄与度評価

環境工学研究部 騒音解析研究室 室長 北川 敏樹

新幹線騒音を低減するためには、集電系音及び車両下部音に対する対策を進めることが必要である。車両下部音は主に転動音や台車回りの空力音から構成されるが、これらの音源の寄与度は明らかではない。そこで、レール、車輪の振動特性や実車走行時における測定結果と転動音予測法を用いて転動音の推定を行い、各音源の寄与度を評価した。その結果、330km/h以上では、空力音が車両下部音全体に対して大きな寄与を持つことを明らかにしたので、その内容について紹介する。


シミュレーションを用いた軌道不整による地盤振動への影響評価

防災技術研究部 地質研究室 主任研究員 横山 秀史

これまでに実施した現地測定および数値シミュレーションにより軌道不整による地盤振動への影響が確認されたことから、軌道不整と地盤振動の関係についてパラメータースタディを行い、軌道不整と軸重等の各々の要因について発生する振動への寄与度を整理した。その結果、軌道不整の振幅が小さいときには軸重等に起因する振動成分が支配的であるのに対し、軌道不整の振幅が大きくなると軌道不整に起因する振動成分が支配的になり地盤振動を増大させることなどがわかったので報告する。


地下鉄トンネル内温度の予測と検証

環境工学研究部 熱・空気流動研究室 副主任研究員 斎藤 寛之

地下鉄トンネルのように空気が入れ替わりにくい空間内を鉄道が走行する際には、温度上昇が問題になる場合がある。鉄道総研では、これまで温熱環境シミュレーションプログラムを使用して、トンネル内温度の予測を行ってきた。今回、長期間にわたり地下鉄トンネル内で実施した温度計測結果により、そのシミュレーションの予測精度を検証した。本発表では、シミュレーション結果に対する地盤温度の影響等について紹介する。


横風を受ける車両周りの流れの数値シミュレーション

環境工学研究部 車両空力特性研究室 主任研究員  中出 孝次

横風を受ける鉄道車両の空力特性を把握することは、強風時の鉄道の安全・安定輸送を実現するためには重要である。現在まで主として風洞実験により車両空力特性が調べられているが、流れ場に対する詳細な知見を提供する手法として数値シミュレーションも期待されている。ここでは横風を受ける走行車両周りの流れの数値シミュレーションを実現するための方法、風洞実験との比較、さらには計算結果から予想される車両の空力特性への列車走行の影響について紹介する。


鉄道シミュレータの開発状況

鉄道力学研究部 部長  池田 充

2010年度より、高度シミュレーション技術を活用した鉄道シミュレータの構築を目指して、各分野の力学的な現象をコンピュータの中で再現し解明するための個別シミュレータを開発している。本発表では、常時の列車走行を対象としたバーチャル鉄道試験線と地震時を扱う地震災害シミュレータの実現に向けた各シミュレータの開発スケジュールと今後の計画について紹介する。


車両走行シミュレータにおける車両・軌道モデルの構築

車両構造技術研究部 車両振動研究室 主任研究員  鴨下 庄吾

軌道上を車両が走行することによって引き起こされる様々な現象をシミュレーションするために必要となる各種車両、軌道のモデルを作成した。このモデルは単に走行安全性や振動乗り心地を評価するだけでなく、車両が繰り返し走行することにより発生する車輪やレールの摩耗等、長期劣化現象の予測にも活用する計画である。本発表では、マルチボディダイナミクスをベースとした車両・軌道モデルの開発状況と車両走行シミュレータの計画について紹介する。


路盤〜車輪間の大規模並列計算モデル

鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員  相川 明

列車が繰り返し走行することにより生じる軌道の劣化現象を解明し、長期劣化の予測と効果的な対策の提案に活用すべく路盤〜車輪間の大規模並列計算モデルの構築を進めている。本発表では、まず路盤〜車輪間の大規模並列計算モデルの全体構想について紹介し、そのあとでバラスト軌道劣化モデルを中心にその開発状況と今後の取り組みについて報告する。


車輪とレールの動的転がり接触解析

鉄道力学研究部 計算力学研究室 室長  高垣 昌和

車輪とレールの接触面に発生する荷重や応力の高周波変動は、車輪やレールの摩耗・損傷、軌道劣化をもたらす要因になると考えられるため、評価速度(〜300km/h)での走行時に接触面内で起きている現象を明らかにすべく、弾塑性有限要素モデルを用いた車輪とレールの動的転がり接触解析を進めている。本発表では、その実施状況と今後の計画について紹介する。


架線・パンタグラフ3次元動的相互作用シミュレータ

鉄道力学研究部 部長  池田 充

架線・パンタグラフ系の3次元動的相互作用をより精密に解析するため、有限要素法に基づく架線・パンタグラフ系の3次元運動シミュレータを開発した。本シミュレータの特徴は、架線金具等の3次元的な運動に伴う幾何学的非線形性を考慮していることである。本発表では、シミュレータの概要といくつかの計算事例について紹介する。




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