第267回 鉄道総研月例発表会:車両用材料に関する最近の研究開発

車両用材料に関する最近の研究開発

材料技術研究部 主管研究員  辻村 太郎

 鉄道車両用部材の長寿命化やメンテナンス軽減のためには、材料の損傷、摩耗などの形態や進行度合、影響する因子など、劣化のメカニズムを理解した上で既存の材料や機構の改良、新たな材料の導入・開発などを進める必要がある。ここでは、車輪、制輪子、軸受、潤滑油、パンタグラフすり板など、車両の保守現場において常に課題となる部材について、最近の鉄道総研における研究開発状況を紹介するとともに今後の方向を展望する。


主電動機軸受の新しい中間給脂方法

 材料技術研究部 潤滑材料研究室 主任研究員  日比野 澄子

鉄道車両の主電動機では保守軽減の要求が強く、非解体で軸受の潤滑寿命を延伸する目的で、一部において中間給脂が行われてきたが、初期封入量を減らす必要があることや、確実に一定量の給脂を行うことが難しいこと等の課題もあった。そこで、劣化グリースを軸受から遠ざけ、未劣化グリースを軸受近傍に供給し、安定した給脂効果が得られる新しい給脂機構と、効果の高い給脂時期を提案した。ここでは、新しい機構と給脂時期の組み合わせによる中間給脂方法と、実物大軸受を用いた台上試験の結果を紹介する。


在来線電車用長寿命ギヤ油の開発

 材料技術研究部 潤滑材料研究室 研究員  木川 定之

現在最長60万km走行ごとに交換されている在来線電車用ギヤ油は、120万km走行までの使用可能となれば、全般検査および重要部検査にて行っていた交換がどちらか一方ですみ、歯車装置保守を軽減することができる。そこで本研究では、酸化安定性を向上させるために精製度の高い合成油と鉱油との混合基油の採用、および添加剤処方を再検討した長寿命ギヤ油を開発した。本発表では、開発油の概要、120万km走行相当の酸化安定性試験の結果等について報告する。


輪重・横圧データによる車軸軸受荷重の推定手法

材料技術研究部 潤滑材料研究室 研究員  高橋 研

実際に走行する車両の車軸軸受に作用する荷重は、軌道や速度などの走行条件が影響して絶えず変動し、軸受に作用する荷重の大きさを正確に把握する事は難しい。そこで、車輪に作用する輪重・横圧のデータと車両諸元を用いて、一輪軸についての力のつり合いとモーメントのつり合いから実際に走行する車両の車軸軸受に作用する荷重を推定する方法について検討した。本発表では検討した推定法と、現車試験結果からの推定例を報告する。


車輪踏面熱き裂の発生メカニズムと判定手法

 材料技術研究部 主任研究員  柿嶋 秀史

踏面制輪子使用車両の一部で発生する車輪踏面熱き裂は車輪管理上主要な課題であるが、発生機構と発生条件が不明のため、系統的な対策法が確立していなかった。本研究では実物車輪を使用した特殊な台上試験により踏面熱き裂の生成に成功した。さらに破面観察、組織調査、FEMによる熱応力解析を行って発生メカニズムを推定した上で検証試験を実施し、発生条件を特定した。この結果に車両諸元と車輪/レール形状に基づいて踏面熱き裂発生限界を図示する手法を開発した。ここでは本研究の概要と車両設計への適用事例等について発表する。


超音波技術を用いた車輪フランジ接触面形状の評価手法

材料技術研究部 摩擦材料研究室 副主任研究員  深貝 晋也

 急曲線や分岐器通過時の車輪フランジ部の接触面形状は、乗り上がり脱線、車輪やレールの摩耗および騒音の発生といった様々な問題と密接に関わる基本情報である。そこで、超音波技術を用いた新たな手法により、車輪フランジ接触面形状を評価した。その結果、車輪の転削直後や転削痕が摩滅しつつあるときなど、様々な車輪表面形状における接触面を可視化することができた。ここでは、超音波技術を用いた車輪フランジ接触面形状の新たな評価手法および評価結果について発表する。


レアメタル削減合金鋳鉄制輪子の耐摩耗性向上

材料技術研究部 摩擦材料研究室 室長  宮内 瞳畄

寒冷地で使われている合金鋳鉄制輪子には、レアメタルであるニッケル、モリブデンが含まれている。それらは、高速での摩擦係数や耐摩耗性の向上に寄与しているが高価である上に、価格変動も大きいため、使用量の削減が望まれる。また、摩耗量の多い車種での合金鋳鉄制輪子は、摩耗低減が望まれている。そこで、ニッケル、モリブデンを削減し、その代替としてセラミック発泡体を鋳ぐるむことにより、合金鋳鉄制輪子の高速での摩擦係数の維持と耐摩耗性向上が認められたので、そのブレーキ試験結果について報告する。


C/C複合材製パンタグラフすり板の摩擦・摩耗特性評価

材料技術研究部 摩擦材料研究室 副主任研究員  久保田 喜雄

銅含浸カーボンとカーボンファイバーを複合させたC/C複合材製すり板は、パンタグラフすり板に必要とされる諸特性に優れるが、比較的高価であるため、さらなる摩耗特性の向上が求められている。そこで、本研究では通電摩耗試験機を用いて、さまざまな条件下におけるC/C複合材製すり板の摩擦・摩耗特性を調べた。その結果、C/C複合材製すり板の摩耗量は離線時のアークエネルギーに比例することが明らかとなった。ここでは定置摩耗試験の結果とともに、実車にC/C複合材製すり板を搭載して摩耗調査を行い、定置試験結果との比較を行った結果について紹介する。




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