第270回 鉄道総研月例発表会:車両技術に関する最近の研究開発

車両技術に関する最近の研究開発

車両制御技術研究部 部長 小笠 正道

車両関係の研究開発では「環境との調和」と「安全性の向上」に重点的に取り組んでいる。その中から、環境面では、省エネルギー化に資する技術として交流電車の主回路構成をうまく活用した蓄電池電車化の開発状況と、省エネルギー化支援技術としてディーゼル車の燃費モニタの開発について紹介する。また安全性の向上の面では、新しい構想に基づく空力ブレーキの開発について、速度400km/h条件下での風洞基礎試験結果などを紹介する。


新幹線用空圧式フローティングキャリパの開発

車両制御技術研究部 ブレーキ制御 主任研究員 狩野 泰

従来の新幹線用ディスクブレーキシステムでは、電気的な指令により空気圧を出力し、さらにその空気圧を空油変換して油圧によりブレーキキャリパを動作させている。これに対し、本研究では空気圧を押付力に直接変換できる新たな機構を開発し、従来と同等のブレーキ性能を確保しながら省メンテナンス化が可能な空圧式フローティングキャリパを開発した。実用上の性能について、開発品を既存新幹線に搭載し最高速度320km/hまでの非常ブレーキ試験で確認したので紹介する。


フェールセーフ機能付操舵用電動油圧アクチュエータの開発

車両構造技術研究部 走り装置 副主任研究員 梅原 康宏

ボギー角連動操舵台車は曲線通過時の横圧低減効果が期待できるが、円曲線での横圧低減を主眼とした諸元設定では緩和曲線での横圧低減効果が得られにくいという課題がある。そこで、緩和曲線における横圧低減を図るため台車旋回時の抵抗を低減する電動油圧アクチュエータを開発し、さらにフェール時における逆操舵動作防止対策として、逆操舵動作を機械的に検出して防止するフェールセーフ油圧回路を考案したので紹介する。


低損失材料と新構造回転子を適用した高効率誘導主電動機の開発

車両制御技術研究部 動力システム 主任研究員 近藤 稔

頻繁に加速減速を繰り返す通勤電車では、エネルギー消費に占める機器損失の割合が高い。機器損失の中では主電動機の損失が特に大きく、通勤電車の更なる省エネのためには主電動機の高効率化が重要な課題である。そこで、現在広く用いられている誘導主電動機を高効率化することを目指した研究開発を行ってきた。ここではそのうち、低損失材料や新構造回転子を適用した試作機の試験結果について紹介する。


貨車用シリコン緩衝器の開発

研究開発推進室 JR 課長(元車両構造技術研究部 車両運動 研究室長)早勢 剛

列車の加減速などで生じる衝撃を和らげるため、車両の連結装置には緩衝器が備えられている。近年、組み付け初圧がなく小さな衝撃を柔らかく受け止めるゴム緩衝器が、旅客車では主流となった。一方、貨車には、従来通り初圧の大きいタイプが用いられており、これが前後衝動の一因となっている。そこで、緩衝ゴムと並列にシリコンゴムを封入したシリンダを付加し、従来器並のエネルギ吸収性能を維持しながら初圧をなくした貨車用緩衝器を開発した。その概要や適用効果について報告する。


アクティブマスダンパを用いた車体弾性振動低減法

車両構造技術研究部 車両振動 研究員 秋山裕喜

最近、複数の車体弾性振動モードが鉄道車両の乗り心地に影響を与えていることがわかっており、さらなる乗り心地向上のために車体弾性振動の多モード制振が重要な課題となっている。これを解決するため、ばねで支持された重りをアクチュエータで加振する時の慣性反力を用いることで、小さな質量増加で制振効果を得られるアクティブマスダンパ(AMD)に関する研究を実施している。ここでは、2台のAMD(質量は1台約70kg)による多モード制振効果を確認するために実施した実車を用いた試験結果を紹介する。


台車旋回性能試験装置の開発

鉄道力学研究部 車両力学 研究員 田中 隆之

台車の旋回抵抗は車両の曲線通過性能に関わるものであり、曲線通過性能向上のためには、高い精度で旋回抵抗を把握する必要がある。従来、台車構成部品の性能試験結果を足し合わせることで旋回抵抗を見積もっていたが、より精密かつ直接的に車両在姿状態での台車旋回抵抗を測定可能とするため、台車旋回性能試験装置を開発した。ここでは本装置の概要と、実台車を用いた旋回抵抗測定試験により得られた結果について紹介する。


編成貨車電磁ブレーキ指令線の断線箇所特定装置の開発

車両制御技術研究部 駆動制御 主任研究員 山下 道寛

貨物列車組成時に行われる検査項目に、ブレーキ引通し指令線の導通確認がある。指令線の断線が発見された場合、断線箇所の特定に時間を要しダイヤ遅延の要因となる。そこで、編成端から指令線の断線箇所を特定するアルゴリズムに基づき、指令線に断線が無いか、あるいはどこが断線しているかを抵抗測定値により特定し、迅速な復旧をサポートする、断線箇所特定装置を開発した。実編成貨車を用いた断線模擬試験において、本装置により約30秒で20両目までの断線箇所を特定できる結果が得られたので紹介する。




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