第272回 鉄道総研月例発表会:

信号・情報通信技術に関する最近の研究開発

信号・情報技術研究部 部長 土屋 隆司

鉄道総研では、様々な輸送改善施策や情報通信技術(ICT)を活用した新しいシステム等の性能、安全性・信頼性、費用対効果を適切に評価するための技術開発に力を入れている。本発表では、輸送サービス・輸送計画・運転設備等を評価するための列車運行・旅客行動シミュレータや列車制御用無線通信ネットワークを評価する技術を中心に最近の研究開発成果を紹介する。


設備監視のための無線センサネットワーク導入手法の提案

信号・情報技術研究部 ネットワーク・通信研究室 副主任研究員 羽田 明生

近年、無線センサネットワークを活用した設備状態監視システムが注目されている。設備状態監視を目的とした無線センサネットワークは、長期的な運用が想定されるため、経済性や信頼性を勘案して効率的に導入することが求められる。そこで低コスト化を目的に、無線機の基本性能と現場環境を考慮して設計されたネットワーキング案に従い無線センサネットワークを導入する手法を開発したので、その概要を紹介する。


車上画像認識技術を用いた特殊信号発光機の視認確認手法

信号・情報技術研究部 信号システム研究室 副主任研究員 長峯 望

特殊信号発光機は異常時のみ信号を現示するため、運転時間帯に検査することが困難である。現在は膨大な設置数を夜間に人手によって検査しているうえ、確認地点からの連続視認が確保されていない。そこで、車上で効率的・連続的かつ定量的に視認確認するために、近赤外線LEDと画像認識技術を用いた視認確認手法を開発し、現車試験によって有効性を確認したのでその概要を報告する。


速度発電機と慣性センサを併用した高精度列車位置検知システム

信号・情報技術研究部 列車制御研究室 研究員 祗園 昭宏

鉄道の安全性・信頼性の向上を目的とした知能列車と呼ぶシステムの開発を進めている。このようなシステムにおいて、リスクを車上で判断して列車を安全に制御するためには、高い車上位置検知精度が求められる。速度発電機と慣性センサを併用することにより滑走や空転を検知・補正し、曲率や勾配の変化を捉えて絶対位置を検知する複合型の位置検知手法を開発したので報告する。


信号制御装置の統合論理設計のシステム化手法

信号・情報技術研究部 列車制御研究室 主任研究員 関根 俊

信号装置には、連動装置、ATS制御装置、踏切制御装置などがあるが、線路配線や信号設備の設置に応じて装置個別の論理設計が必要である。これまでに、連動装置の論理設計(連動図表)を支援するシステムを開発し実用化した。一方、ATSや踏切の論理設計は、連動図表に基づいて行うため、単独の設計システムとするよりも、連動図表を基盤として統合的に設計できるようにすることで、飛躍的に効率性が向上する。そこで、統合論理設計のための基礎検討を行い、試作システムを製作したので、その概要を紹介する。


電力技術に関する最近の研究開発

電力技術研究部 部長 兎束 哲夫

電力技術に関わる最近の研究開発として、鉄道総研の2010〜2014年度の基本計画に基づく鉄道の将来に向けた研究開発の中から「電力の新供給システム」、「新しい状態監視保全技術」および「地震に対する安全性向上」を中心に、各テーマの概要と今後の展望について紹介する。


き電系統のメンテナンス軽減技術

電力技術研究部 き電研究室 副主任研究員 赤木 雅陽

鉄道事業者では、き電系統に存在する変電所機器や電車線路等のメンテナンス作業に多大な労力を費やしている。ここでは、センサ技術に基づくメンテナンス作業軽減への取り組み成果として、変電所遮断器の振動解析による故障予測、半導体匂いセンサによるケーブル過熱検知、環境センサによる高圧がいし汚損環境の性能評価、ならびに経年ポリマーがいしの機械的強度評価の結果について紹介する。


電車線コネクタの疲労寿命推定手法

電力技術研究部 集電管理研究室 副主任研究員 山下 主税

電車線のコネクタ損傷の主な原因は金属疲労によるリード線の素線切れであるが、現状の疲労評価はJISのイヤー金具緩みに対する振動試験を適用しているに過ぎず、実際のコネクタ疲労寿命推定手法は確立されていない。本発表では、回転曲げ疲労試験によるコネクタの疲労寿命特性の把握や、有限要素法解析によるコネクタの振動特性を考慮した曲げひずみ推定から、トロリ線の任意振動波形に対するコネクタ疲労寿命の推定手法を紹介する。


新幹線トンネル内の風が集電性能へ及ぼす影響

電力技術研究部 電車線構造研究室 室長 清水 政利

新幹線のトンネル内では、列車の通過に伴い空気の流れが生じ、電車線やパンタグラフの運動に影響を及ぼすことが知られている。現在の車両形式と走行速度における実態を把握するため、また、今後の速度向上時の集電性能を予測して設備の改良方針を示すため、新幹線において電車線周りの風速と電車線の運動を実測した。測定結果から、走行速度との相関、対向列車の有無による影響の定量的評価と、トンネル内の風が集電性能に与える影響評価について報告する。


画像情報に基づくパンタグラフの接触力測定装置の実用化

鉄道力学研究部 集電力学研究室 副主任研究員 小山 達弥

鉄道総研では架線・パンタグラフ間の接触力を測定し、電車線設備状態を診断する手法の研究開発を行っている。この根幹となる接触力測定手法についてはすでにその基本原理を確立しているが、センサをパンタグラフに実装するため、大がかりな設備を必要とするという課題があった。そこで今回、パンタグラフにセンサを実装することなく、画像情報によって簡易に接触力を測定する装置を開発し、営業車に適用したので紹介する。




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