第275回 鉄道総研月例発表会:人間科学に関する最近の研究開発

人間科学分野における最近の研究開発

人間科学研究部 部長  小美濃 幸司

鉄道総研では、鉄道従業員から旅客まで、鉄道システムに関わる人の視点から安全で、便利で、快適な鉄道を考えるヒューマンファクター研究を行っている。最近では鉄道従業員ついてはヒューマンエラー防止や異常時対応についての教育、適性検査、運転環境評価など、旅客については車内や駅の安全・快適・利便を評価する方法などを対象にした研究に取り組んでおり、その全体を概観する。


地点対応可能な複合振動乗り心地推定法

人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員  中川 千鶴

前後・左右・上下の複合振動による乗り心地の時間変化を予測する方法(複合振動推定値)を提案した。また、本法を乗り心地対策に活用しやすくするため、本推定値の推移を乗り心地に関する様々な情報(方向別振動成分、軌道情報、構造物情報等)と地点連動させ一度に表示できる「乗り心地情報一元システム」を試作したので、ここに紹介する。


人の感覚特性を考慮した通勤列車内の温熱快適性指標

人間科学研究部 人間工学研究室 副主任研究員  遠藤 広晴

通勤列車の車内空調に関する苦情は毎年多く発生している。車内の温熱環境と乗客の快適性に関する知見を空調制御に活用することで快適性の向上が期待できる。しかし、列車内の温熱快適性を対象とした実験研究はあまり行われておらず、現状では、基礎データは極めて少ない。そこで、通勤列車内の温熱環境測定、および一般利用者を対象とした車内温熱環境の体感実験を実施した。この結果に基づいた快適性指標を開発したので紹介する。


階段における視覚障害者誘導用ブロックの敷設方法

人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員  大野 央人

視覚障害者の歩行安全のため、階段の前後には視覚障害者誘導用ブロックが敷設される。しかし、2013年に改訂される以前の「バリアフリー整備ガイドライン」には、例えば踊り場への敷設方法が記載されていないなどいくつかの不足があった。そこで我々は視覚障害者による歩行評価試験を実施し、その結果に基づいて、不足部分を補う敷設ルールを提案した。それらの提案は改訂された「同ガイドライン」に反映された。本発表では歩行評価試験の概要とそれに基づいて提案した敷設ルールについて紹介する。


積雪・寒冷地における踏切の安全性評価手法

人間科学研究部 安全性解析研究室 副主任研究員  畠山 直

従来の踏切安全性評価手法では、踏切の設備情報に基づき、踏切事故件数の予測分析を行っていたが、気象状況等を考慮していなかった。本研究では、気象状況等を考慮し、積雪・寒冷地に適した踏切安全性評価手法を構築した。提案手法では、冬期の気象条件や踏切周辺の交通環境を要因として追加し、その結果、積雪・寒冷地の踏切における安全性評価の精度が向上した。本発表では、追加した要因の内容と安全性評価の結果例について紹介する。


利用者心理を考慮したダイヤ乱れ時のアナウンスの改善

人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員  山内 香奈

ダイヤ乱れ時のアナウンスの役割には、利用者の主体的な対処行動を促すという側面だけでなく、状況に対する理解を促すという側面もある。2つ目の側面が欠如すると、利用者の激しい怒りや非難を回避できず、不満度が高まったり、従業員の円滑な業務遂行を妨げたり、また、長期的には会社の信頼低下に繋がる。しかし、これまで2つ目の側面の重要性は、アナウンス教育においてほとんど強調されてこなかった。本発表では、両側面を考慮したアナウンス方針と、その有効性について検証した結果を報告する。


運転台図面に重ねて使える運転姿勢テンプレート

人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員  斎藤 綾乃

設計段階で運転台の操作性を検討できるようにするためには、人体の型紙(テンプレート)が、運転姿勢の実態や近年の運転士の身長範囲の拡大を十分に反映している必要がある。そこで、広い身長範囲の人々を対象に模擬運転作業実験を行い、3次元姿勢計測によって代表的な運転姿勢を明らかにするとともに、押しボタン操作がやりやすい範囲や適切な足台高さなどのデータを得た。これらの結果をもとに、運転台図面に重ねて簡単に使える2次元の運転士テンプレートを試作したので、その作成過程と使用方法を紹介する。


自己チェックを用いた運転士の安全指導手法

人間科学研究部 安全心理研究室 室長  井上貴文

安全指導を効果的に行うためには、一人ひとりの個性に応じた対応が理想的である。そこで、自己チェックを用いて運転士の心理特性を把握し、現場において指導者・係長らが安全指導を行う手法を開発した。用紙によるフィードバック、グループ討議、さらに複数回の面談を通して、注意を集中する能力、注意のそれやすさ、上手に注意を割りふる能力のうち、本人が心配する側面に対して、自主的な工夫を促していくものである。運転士以外の指導にも応用可能な一連の手法の概要について報告する。




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