第284回月例発表会 鉄道力学に関する最近の研究開発

鉄道力学に関する最近の研究開発

鉄道力学研究部 部長 池田 充

 鉄道は,車両,軌道,構造物,電車線などの複数のサブシステムからなる巨大なシステムであり,これを効率よく運営するためにはシステム間の協調が重要である。とりわけ,車輪とレール,架線とパンタグラフ,車両と構造物,などのいわゆる境界領域におけるダイナミクスは,鉄道の安全性に大きな影響を与えるため,現象に対する理解を深度化することが極めて重要である。ここでは,こうした境界問題に対する鉄道総研の研究開発の状況について紹介する。


輪重減少抑制台車の基本性能確認試験

鉄道力学研究部 車両力学研究室 主任研究員 鈴木 貢

 急曲線の緩和曲線あるいは大きな平面性変位のあるところで発生する乗り上がり脱線の発生を防止するための台車構造を研究している。ボルスタレス構造のままで,台車枠を3ピース構造にすることで,平面性変位に対する追従性能を高めた輪重減少抑制台車を開発した。開発した台車の基本構造を解説するとともに,車両試験台における軌条輪上の転走試験結果を紹介する。


車両構体の高強度化および軽量化に向けた構造最適化手法の構築

鉄道力学研究部 計算力学研究室 室長 高垣 昌和

 この数年、車両構体のスポット溶接部にき裂が生じる事例が見られることから構体強度の検討が必要と考えられる。一方で,最近の衝突安全設計の導入や付帯機器の重量増により構体重量が増加傾向にある。そこで、構体の強度向上および軽量化を行うため,シミュレーションによる精度の高い強度評価の手法を構築し,これをもとに構造最適化手法を適用して,構体構造の検討事例について紹介する。


パンタグラフ接触力測定に基づくトロリ線の静高さ推定手法

鉄道力学研究部 集電力学研究室 室長 臼田 隆之

 架線設備の保守作業をより効率的に行うため,車上で計測したデータを活用して架線の静的な状態量を推定する方法の提案を行う。具体的には,パンタグラフの接触力と舟体軌跡の測定結果をもとに,トロリ線の静高さ,ならびに左右偏位を推定する方法を提案する。これらの方法を,所内試験や実車両での測定データに適用し,実測の架線の静的状態と比較した結果についても述べる。また,将来的な架線検測への適用イメージについても紹介する。


フィードフォワード制御によるパンタグラフの接触力変動低減手法

鉄道力学研究部 集電力学研究室 研究員 小林 樹幸

 架線の大規模改修を行うことなく高速化を実現するために,架線架設情報に基づいたフィードフォワード制御による接触力変動低減手法において制御パラメータを最適化する手法を提案する。本手法を実機パンタグラフに適用することで,パンタグラフ総合試験装置において300km/h走行を模擬した場合には,径間周期の接触力変動周波数成分を約40%低減可能である。本手法の概要と,パンタグラフ総合試験装置での試験結果について紹介する。


湿潤時の車輪・レール間の粘着力に及ぼす表面粗さと接触温度の影響

鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員 陳 樺

 湿潤時車輪・レール間の粘着力には表面粗さと水温の影響が顕著であると報告されているが,両方をパラメータとして詳細に評価した例は見当たらない。本研究では,室内模擬試験機試験輪の表面粗さと試験輪・散水の温度とを複数通りに変化させる試験を行い,表面粗さ,接触温度と粘着係数の関係を明らかにした。また,数値シミュレーションにより実験結果を確認した。ここで,実験方法と結果について紹介する。


動的転がり接触解析による車輪・レール間の力学挙動

鉄道力学研究部 計算力学研究室 副主任研究員 坂井 宏隆

 列車走行において車輪・レール間の相互作用による鉄道固有の振動や騒音、また、摩耗やき裂などの損傷の原因となる力学的挙動を解明するため、車輪・レール間の解析的な評価を可能とする3次元大規模並列有限要素解析プログラムを開発し、高速で転動する車輪とレール間の動的転がり接触解析を実施した。ここでは、接触面の力学挙動などの計算結果とともに、現地試験と比較検証を行った結果をあわせて紹介する。


列車走行に伴うRC高架橋の部材振動特性の解明

鉄道力学研究部 構造力学研究室 副主任研究員 渡辺 勉

 新幹線の標準的なRCラーメン高架橋及びRC桁式高架橋の部材振動特性について、数値解析及び実測により検討した。構造物の部材振動は、車両、軌道、構造物の様々な要因が連成する大規模かつ複雑な問題である。本研究では、構造物の振動解析において、「車両/軌道」と「軌道/構造物」の2つの系に分割する手法を新たに構築した。本手法を用いて標準的なRC高架橋を対象としたモデルを構築し、実測との比較検証を実施するとともに、パラメータ解析をあわせて実施し、構造物の中間スラブや張出スラブなど音源となりやすい部材の応答において周波数帯ごとの主要な要因を明らかにしたので、これらを紹介する。



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