第286回月例発表会 電力技術に関する最近の研究開発

電力技術に関する最近の研究開発

電力技術研究部 部長 兎束 哲夫

2011年3月の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降はエネルギー危機が続いており、電力技術に関する最近の研究の中心は、省エネルギーと省メンテナンスおよび安全性向上となっている。そこで、鉄道総研の2010〜2014年度の基本計画に基づく鉄道の将来に向けた研究開発の中から「電力の新供給システム」を中心に、テーマの概要と今後の展望について紹介する。


直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法

電力技術研究部 き電研究室 主任研究員 森本 大観

直流き電回路において、飛来物や雷撃等によって電車線の絶縁が破壊して高抵抗地絡が生じると、変電所で電流の大きさや変化量を監視する従来システムでは検知することができず、電車線設備が大きく損傷する。そこで、保護線を新規に設けて電車線支持物の電位上昇を変電所に伝えることで高抵抗地絡を迅速に検知する手法を開発し、現地での人工故障試験等によって検知システムの有効性を確認したので紹介する。


支持部材近傍における直流き電ケーブルの劣化メカニズムの解明

電力技術研究部 き電研究室 副主任研究員 赤木 雅陽

直流き電回路で用いられる電力ケーブル(直流き電ケーブル)において、導体の発熱や経年に依存する劣化とは別に、支持部におけるケーブル表面の損傷や、ケーブルおよび支持部材表面のトラッキング劣化等が発生する場合がある。これらの機械的あるいは電気的な劣化について、実際の施設状況を考慮して直流き電ケーブルとその支持部材を組み合わせた再現試験を行い、劣化に至る過程を明らかにするとともに、その対策を考案したので紹介する。


電車線金具におけるFRPの脆性破壊防止策の提案

電力技術研究部 集電管理研究室 室長 菅原 淳

FRP(エポキシ系GFRP)は電車線金具の構成材としても多用されているが、割れるような破壊(脆性破壊)を生じることがある。循環電流防止形曲線引金具においてFRPの脆性破壊が疑われる折損が発生したため、現象を確認し対策の検討に資するため再現試験を行った。その結果、脆性破壊の促進因子として既に指摘されている硝酸環境下のほか、水環境下でも同様の現象が認められ、対策としてFRP使用部への防水を提案したので紹介する。


ステレオ画像計測とレーザー測距を併用した架線の非接触位置測定手法

電力技術研究部 集電管理研究室 主任研究員 根津 一嘉

検測車などの屋根上にセンサ類を搭載し、トロリ線、ちょう架線など、電車線の各線条の高さ方向の変位と左右方向の偏位を非接触で測定する手法を開発した。本手法では物体認識精度の高いレーザーセンサと、位置測定精度の高いカメラ画像処理を併用することで、高精度な測定を実現している。本発表では測定手法の概要と、鉄道総研所内の試験電車線における機能確認試験結果について紹介する。


温度変化とトロリ線摩耗が集電性能に与える影響の評価

電力技術研究部 電車線構造研究室 副主任研究員 常本 瑞樹

電車線は、温度変化とトロリ線摩耗による伸縮により、その張力やトロリ線高さが変化する。これらはトロリ線とパンタグラフ間の接触性能に影響するが、その影響について定量的な評価は行われていない。本発表では、理論検討およびシミュレーションによる動特性評価により、温度変化とトロリ線摩耗による電車線伸縮時の張力やトロリ線高さの変化が集電性能に与える影響を評価したので紹介する。


大規模地震時の電車線柱挙動解析モデルと被害軽減手法

電力技術研究部 電車線構造研究室 主任研究員 原田 智

今後発生が想定される大規模地震に対して、電車線柱の合理的な耐震設計を可能とするため、実物大電車線柱の静荷重実験および振動台実験から電車線柱の地震時特性を精緻に把握し、非線形特性を有する電車線柱の解析モデルを構築した。また現地での施工性や費用を考慮して、既存電車線柱の耐震性能を向上させる対策工法を複数選定し、これらの実物大振動台実験を実施してその効果を確認したので紹介する。


電車線・パンタグラフ系へのHILS技術の適用

鉄道力学研究部 集電力学研究室 研究員 小林樹幸

パンタグラフの動的性能を評価する上で,電車線の動特性は無視することができない重要な要素であり、パンタグラフの単体試験で電車線の動特性を考慮できれば非常に有用である。そのため,本発表では,実機パンタグラフとコンピュータ上の電車線モデルを用いて電車線・パンタグラフの動的相互作用を考慮した試験を実施するHILS(Hardware In the Loop Simulation :実機と数値シミュレーションを組み合わせた試験環境)システムと,このシステムの動作に関する基本的な検証結果について紹介する。



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