(財)鉄道総合技術研究所 会長 松本 嘉司


 (財)鉄道総合技術研究所は、鉄道の発展と学術・文化の振興に寄与することを目的として1986年に創立されました。
 それ以来、鉄道技術に関する幅広い研究開発活動を行うとともに、毎年、鉄道技術に関する講演会を開催してまいりましたが、早いもので今年で第17回を迎えることができました。
 これもひとえに、国土交通省やJRグループをはじめ、多くの方々のご支援ご協力の賜物と深く感謝しております。
 今回の講演会は、「次世代の飛躍に向けて−基礎研究が支える鉄道技術−」と題し、基礎研究が鉄道の安全性、経済性、利便性、環境調和性の向上にどのように寄与してきたかを解説するとともに、次世代に向けた研究開発の取組み状況をご紹介いたします。
 皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。



自動車技術における基礎研究と先端研究

(株)豊田中央研究所 代表取締役所長 石川 宣勝


 企業の研究開発体制が変わりつつあると言われている。企業は製品に直結する技術開発を重視し、基礎研究は自前主義よりも産学官連携の方が効率的という動きである。折から、日本の大学等では独立行政法人化が進み、この動きを加速するように思われる。一方で日本の学界、産業界の実情を見てみると、いくつかの課題が浮かび上がってくる。たとえば、科学技術の分野では、その論文の引用数は欧米に比べ、必ずしも高くない。また産業界では、特に電機、自動車等で、韓国、中国の躍進が著しい。このような状況下で、私ども豊田中央研究所は今までどのような考え方で研究開発を行い、今後どのような方向に行こうとしているかについてご紹介したい。



鉄道総研における基礎研究

(財)鉄道総合技術研究所 理事 垂水 尚志


 鉄道総研では、鉄道の基礎研究を、鉄道の実用技術の萌芽または基盤となる研究および鉄道の諸問題の解決のために必要な研究として位置付け、基盤研究あるいは基礎研究と分類して推進してきた。国鉄時代の基礎研究が鉄道事業に貢献した例を振り返りつつ、鉄道総研における基礎研究を構成する解析研究および探索・導入研究の実施状況と主な成果を概観する。さらに、将来の基礎研究が目指すべき方向や課題例を紹介する。これらを通して、鉄道における基礎研究が実務に貢献してきたこと、また、今後も基礎研究が鉄道事業に貢献すべき分野が多いことを強調し、同時に基礎研究を促進するために必要な人材、研究設備、部外機関との協調の必要性等について述べる。



エネルギー関連技術の鉄道車両への導入

(財)鉄道総合技術研究所 車両制御技術研究部 部長 潤賀 健一


 地球温暖化現象をはじめとする環境問題は、年々厳しさをましている。鉄道はもともと省エネルギーで環境にやさしい輸送機関であり、省エネルギーに関しても現在に至るまで各種の技術開発が積極的に行われている。
 ここでは、さらにエネルギー再利用の面から有効と考えられる車載エネルギー蓄積システムの構成と蓄電媒体についての研究開発について紹介する。
 また、クリーンなエネルギー源として注目されている燃料電池の鉄道車両への導入に関する検討状況を報告する。



車両運動の解析技術

(財)鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 車両力学 研究室長 石田 弘明


 高速走行時にも揺れない車両、曲線をスムースに走行できる車両の設計開発や走行安全性の評価、車両・軌道の保守基準に関する検討など、様々な場面で計算機を用いた時刻歴シミュレーションが活用されている。鉄道総研では、乗り心地の悪化や脱線等、個々の課題に対処しながら、その現象を表現する車両運動モデルとシミュレーション解析技術の開発・改良を進めてきた。本報告では、鉄道固有の車輪/レール接触問題、脱線現象、高速車両及び編成車両の左右動揺を取り上げ、クリープ力特性試験や実車走行試験、車両試験台、大型振動台での実験と、これらの実験を活用したモデルの検証及び解析精度向上に関する取り組みを紹介する。



架線・パンタグラフ系の振動解析技術

(財)鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 集電力学 研究室長 網干 光雄


 電気鉄道においては、車両に搭載された集電装置(パンタグラフ等)が地上に設備された電車線(架線)と接触しゅう動することにより電気車に電力供給が行われている。新幹線の速度向上やトロリ線摩耗軽減等の保全性向上のためには、より安定した接触状態を維持できるように性能を向上することが求められている。本発表では、架線・パンタグラフ系の接触性能向上に係わる課題と新幹線速度向上や波状摩耗対策等のこれまでの研究成果を述べる。さらに、近年開発したパンタグラフ接触力や架線波動等の精密計測法の概要とこれを用いた現象解明、運動シミュレーション手法の改良等の基礎研究概要、設備診断への活用方法等についての今後の展望を述べる。



空気力学における解析技術

(財)鉄道総合技術研究所 環境工学研究部 部長 前田 達夫


 鉄道の空気力学的な現象には、空力騒音、トンネル微気圧波、列車通過時の圧力変動、強風時の列車に働く空気力、列車に作用する空気抵抗、トンネル内の圧力変動と車両動揺など、環境、安全、エネルギー、快適性に係わる多くの課題がある。空気力学的な現象の解明と低減対策法の開発には、現車試験の他に、大型低騒音風洞、模型実験装置、数値シミュレーションを用いた解析が有効である。空力騒音に関する音源解析計測技術、風洞試験と数値シミュレーション、トンネル微気圧波に関する模型トンネルへの模型車両打ち込み試験と解析手法、強風時の列車に働く空気力に関する自然風を模擬した風洞試験、トンネル内の車両動揺の原因となる変動空気力に関する数値シミュレーションなどを紹介する。



鉄道への新たな材料の適用

(財)鉄道総合技術研究所 材料技術研究部 部長 辻村 太郎


 新たな材料の開発・実用化はエネルギー分野、情報分野を中心に着実に進められており、飛躍的な効率の向上などに貢献している。ここでは、それらの動向を紹介するとともに、鉄道サービスの高付加価値化や経済性の向上をめざした新たな材料の鉄道分野への適用に向け、近年取組んでいる機能材料の導入に関する検討、鉄道部材のリサイクル方法の検討や生分解性材料の鉄道分野への適用などのエコマテリアル化、構造物分野等でのインテリジェントマテリアルの研究、ナノマテリアルの鉄道分野への適用に向けて基礎的検討などの現状と課題を紹介する。また、導入の可能性、効果について考察し、今後の方向性について述べる。



安全性・快適性向上への人間科学的アプローチ

(財)鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 人間工学 研究室長 鈴木 浩明


 人間の動作、行動、判断などをシミュレーションする技法が近年急速に発達しており、産業・医療・教育などの各分野で、多くの成果を挙げている。鉄道総研の人間科学部門においても、運転シミュレータ、車内快適性シミュレータ、衝突時の人体挙動シミュレーションなどの関連設備をこの数年間で開発してきたところである。このようなヒューマンシミュレーション技術を活用して、鉄道の利用者や従業員の安全性と快適性の向上に関わる諸問題を解決していく流れは、今後ますます大きなものになることが予想される。ここでは、ヒューマンシミュレーション技術の特徴や主なトピック、今後の取組みの方向性などを紹介する。




 

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