ごあいさつ

(財)鉄道総合技術研究所 会長 松本 嘉司


 (財)鉄道総合技術研究所は、鉄道の発展と学術・文化の振興に寄与することを目的として1986年に創立されました。
 それ以来、鉄道技術に関する幅広い研究開発活動を行うとともに、毎年、鉄道技術に関する講演会を開催してまいりましたが、早いもので今年で第18回を迎えることができました。
 これもひとえに、国土交通省、JRグループをはじめとする鉄道事業者、ならびに多くの方々のご支援・ご協力の賜物と深く感謝しております。
 今回の講演会は、「明日の鉄道を目指して ―― 安全・快適で環境と調和した鉄道へのさらなる挑戦 ――」と題し、同志社大学青木教授による「開かれた都市空間を支える交通」の視点と、重要研究開発の柱として実施してきた「鉄道の将来に向けた研究開発」で得られた成果の視点から、鉄道の将来像を描き出します。
 皆様のご来場をお待ち申し上げます。



「開かれた」都市と鉄道 

同志社大学商学部 教授 青木 真美


 20世紀は自動車の時代であった。しかし、自家用車の利用が一般化するにつれ、自家用車という閉鎖的な空間をベースとした生活には、社会的な交流や潤い、安らぎ、楽しさが欠落しているのではないか、と指摘されるようになった。 すでに先進国の多くでは、21世紀にはクルマによるスプロール化を抑制し、人との交流やふれあいを感じられるような生活ができるような都市を取り戻そうという動きが顕著になっている。このような交流を可能とする「様々な階層に開かれた都市空間」を支えるのが、公共交通であるという認識も広まっている。「開かれた都市空間を支える交通」というコンセプトの中で、鉄道はどういった役割を果たすべきなのかについて述べていきたい。



鉄道の将来に向けた研究開発への取り組み 

(財)鉄道総合技術研究所 理事 内田 雅夫


 (財)鉄道総研では、前基本計画RESEARCH21(平成12〜16年度)において「信頼性の高い鉄道」「低コストの鉄道」「魅力的な鉄道」「環境と調和した鉄道」という四つの研究開発目標を掲げ、それまでのプロジェクト・テーマ制に代わり、鉄道事業の多様なニーズを先取りした「鉄道の将来に向けた研究開発」14課題を、研究開発の最重要分野という位置づけで実施した。その取組状況と実施結果の概要について述べる。また、研究開発全般にわたる話題として、地震災害への対応状況などのトピックにも触れる。さらに、新たな基本計画RESEARCH2005(平成17〜21年度)において実施する「鉄道の将来に向けた研究開発」12課題の概要について紹介する。



自然災害を防止する 

(財)鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 部長 藤井 俊茂


 地震、台風、豪雨、豪雪などの厳しい自然環境下において、日本の鉄道が常に安全で安定した輸送提供を続けていくためには、自然災害に備えて、その発生を防ぐあるいは被害を軽減することが大変重要である。ここでは、自然災害に強い鉄道を目指し、災害に備えるという目的で実施されてきたこれまでの研究開発の流れを災害種別ごとに振り返り、さらに本年3月に終了した将来指向課題のひとつである強風対策、ここ数年来取り組んできた雨対策と雪対策、新しい早期地震警報システムに関する研究開発の成果を報告し、最後に今後の取り組みの方向性などを紹介する。



安全で安定した列車運行を目指す 

(財)鉄道総合技術研究所 信号通信技術研究部 部長 平尾 裕司


 鉄道の将来に向けた研究開発として、先行列車の運転状況を予測して省エネ運転やダイヤ乱れの早期回復を実現する予測制御、車上から直接前方の障害物を検出する列車前方監視、保守作業の安全を確保するための保守作業防護を柱とするインテリジェント列車制御の開発に取り組んだ。このインテリジェント列車制御は、安全を確保することに重点を置いたこれまでのシステムをベースとして、情報を活用することによって安全で安定した列車運行を実現するための新たな機能を付加することを狙っている。ここでは、このようなインテリジェント列車制御について紹介する。



快適で使いやすい鉄道空間を創造する 

(財)鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 建築 研究室長 青木 俊幸


 すべての人に使いやすいものを、というユニバーサルデザインの考えが高齢化の急激な進展も背景に重要となり、また意識構造の変化から利用者のニーズは安全・正確だけでなく、より快適な移動環境の実現への比重が高まってきている。航空機や自動車など他の交通手段との競争力を高める上でも、すべての利用者にとって使いやすく快適な鉄道システムとすることが求められている。
 そこで、鉄道利用時のバリアを抽出し、それらの評価法や対策法の開発を行った。ここでは、バリアフリーとしての視覚障害者向け情報提供システムから、鉄道施設・設備をユニバーサルデザイン化する計画手法の開発、車内の快適性の評価手法と、駅空間の快適性を向上する手法の開発について紹介する。



列車の快適性・速達性を向上する 

(財)鉄道総合技術研究所 車両構造技術研究部 部長 手塚 和彦


 交通機関としての鉄道には多くの利点があるが、利用者サービスの面からは、安全性を大前提として、快適性と速達性の向上が重要である。  在来線の快適性向上策として、人間の感性に基づいた曲線乗り心地や乗り物酔い評価指標、これらの指標をもとに曲線の乗り心地を向上する次世代振子制御システムを紹介する。  また、新幹線の速達性向上には、周辺環境に配慮した最高速度向上が有効であり、速度依存性が高い空力音の低減が不可欠である。風洞試験、現車試験、シミュレーション等によって実施した空力音低減対策の検討結果を紹介する。



省エネルギー・クリーンエネルギーを目指す 

(財)鉄道総合技術研究所 車両制御技術研究部 部長 秦   広


 省エネルギーについては過去から努力が続けられているが、最近は地球温暖化対策としてのCO排出低減という観点からもますます重要性を増している。鉄道は他の交通機関と比べて輸送単位当たりのエネルギー効率がよいという特性をもっているが、鉄道総研ではさらなる省エネルギー化のためのさまざまな研究開発を進めている。ここでは、車載蓄エネ媒体による回生ブレーキ失効防止、超電導主変圧器、地上に設置する蓄エネ媒体による電力貯蔵などについて紹介する。また、クリーンなエネルギー源として注目されている燃料電池の鉄道車両への応用についてもあわせて紹介する。



 

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