安全の構造と安心への橋渡し
明治大学 理工学部 教授  向殿 政男

 安全の実現のためには、技術的側面だけでなく、人間的側面や社会的側面を含めた広い学問分野を、例えば、安全学を構築していく必要がある。そのために、安全とは何か、どこまでやったら安全か、安全の責任はどう考えるべきか等の安全の理念的側面を明らかにし、更に、安全の名の下に、何から守るのか、何を守るのか、どうやって守るのかという安全の構造を明らかにしておく必要がある。一方、安全は、設計者や事業者サイドからの視点が主であり、一般の消費者は、実は、安全よりは安心を望んでいると思わる。供給者サイドの視点から消費者サイドの視点への変化は世界的な潮流であり、鉄道事業者もこの変化に敏感に対応しなければならない。このためには、安全の実現はもとより、安全から安心への橋渡しをどのようにすべきかについて考えてみることにする。

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安全・安心な鉄道システムの構築に向けた研究開発の取り組み
理 事  市川 篤司

 これまで鉄道では、安全で信頼性の高いシステムの実現を目指した様々な活動が行われてきた。最近、安心を含めた概念が社会に浸透し、鉄道にも安全性や信頼性のほか利用者や一般公衆に共通の安心感を与えることのできるシステムであることが求められるようになった。本講演では、自然災害や走行安全性あるいはヒューマンファクターへの取り組み等、これまで安全で信頼性の高いシステムの構築に向けて鉄道総研で取り組んできた研究開発の例を紹介するとともに、安全・安心な鉄道システムについて考え、その構築に向けて今後どのように研究開発に取り組んでいくかについて述べる。

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地震に備える
構造物技術研究部 部長  舘山  勝

 兵庫県南部地震以降、鉄道や高速道路、港湾・空港など、重要性の高い社会基盤施設に対する耐震性の向上が求められている。また、新潟県中越地震では、走行中の新幹線において初めて脱線が生じたことから、走行車両の被害軽減策に対する取り組みも注目を集めている。本講演では、地震時における鉄道施設の合理的な対策方法を示す。特に、各種鉄道施設間でバランスのとれた対策をどのように進めるのか、その方法論について述べる。また、鉄道利用者の関心が高い地震時における走行車両の挙動解析や被害軽減策などを紹介するとともに、大型振動台を用いた研究など鉄道総研における今後の取り組みについて紹介する。

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気象災害に備える
防災技術研究部 部長  木谷 日出男

 鉄道の防災技術は、日本の特徴的な環境条件のもとで頻発する自然災害に対応しながら、安全な鉄道システムの構築に寄与してきた。このうち、主に降雨、強風等を直接の原因や誘因とする気象災害については、過去の被災事例等に基づく危険個所抽出・評価技術や、各種規制値による運転規制を主とする被害軽減技術に関する技術成果がある。本講演では、主な災害種別に関する最近の研究開発の動向とその成果を紹介する。また、各種災害の発生危険度の確率モデル構築の意義を解説し、これに基づく防災投資計画支援のためのリスクマネージメント技術の考え方や、各種成果を組み入れた総合的な防災体制の構築に向けた今後の取り組みについても言及する。

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信号システムの安全性
信号通信技術研究部 信号研究室 室長  平栗 滋人

  信号システムは、信号機やポイントなどの設備や、列車速度を適切に制御するための重要な役割を担っている。このため、これまでに、安全の確保を目的として、様々な安全性技術が導入されてきた。併せて、安定した輸送サービス提供という観点からは、高いレベルの信頼性も要求される。一方、これらの安全性や信頼性を実現する技術の他、総合的に評価する技術も、システムを適切に構築するために重要である。本講演では、信号システムの安全性、信頼性向上のための技術開発について、ATS-X、無線による列車制御など最近の事例を紹介する。さらに、総合的な評価手法としてRAMSによる検討事例を紹介する。

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情報技術を活用する
輸送情報技術研究部 部長  後藤 浩一

 情報技術の発展は勢いをとどめることなく、社会の様々な分野に活用されて、量的にも質的にもその存在感を増している。鉄道システムはその典型的な例であり、経済性の改善や利便性の向上という面だけではなく、鉄道システムをより安全に、また安心して利用していただくためのたゆまない活動においても情報技術はなくてはならないものである。本講演では、安全・安心という観点から、画像処理、センサネットワーク、データ解析の高度化など最新の情報技術の鉄道システムへの適用や、よりデマンドに対応した輸送計画の作成、適切な情報提供、バリアフリー環境の構築などにおける情報技術の活用について紹介する。

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ヒューマンファクターと安全・安心
人間科学研究部 人間工学研究室 室長  小美濃 幸司

 安全・安心にはシステムを動かしたり、利用したりする人間に適した利用環境を実現するように、人間目線でシステムを考えることが重要である。鉄道総研では、状況に依存する人の行動、心理、身体特性に関する知見を活用して鉄道利用者あるいは鉄道従事員の安全性を高め、そのことが利用者の強い安心につながる鉄道システムを目指したヒューマンファクター研究を進めている。ここでは、事故原因に占める割合が高いとされるヒューマンエラーの防止、大地震・火災あるいは事故時といった異常時の安全確保、不安を感じることなく利用できる鉄道環境などについて紹介する。

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