超電導ケーブルによる電車の走行試験に成功
実用化へ向け本格始動!

公益財団法人鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)は、これまで鉄道用超電導ケーブルの研究開発を進めてきましたが、このたび世界で初めて超電導ケーブルによる電車の走行試験に成功しました。

1.高温超電導応用研究の経緯

鉄道総研では、高温超電導(液体窒素温度−196℃程度で電気抵抗ゼロの超電導状態となる現象)の発見後、高温超電導材料およびその在来鉄道への応用に関する研究を進めてきました。平成15年には高温超電導で世界最高の磁場(17.2テスラ)の発生に成功しました。その後、超電導材料の応用技術の開発に取り組み、近年の鉄道の更なる省エネルギー化に関する課題の一環として、鉄道の直流き電区間の送電に超電導材を使う超電導ケーブルの研究開発を進めてきました。

2.超電導ケーブルの期待される効果

直流き電区間の鉄道では、変電所から車両に電気を送るき電線(銅線)が電気抵抗を有するため、電気鉄道特有の回生失効や送電損失、電圧降下などといった課題があります。これに対し、電気抵抗がゼロとなる超電導材をき電線へ適用することで、回生失効や送電損失等の抑制による省エネルギー化に加え、変電所の負荷平準化や集約化などの効果が期待されます。

3.超電導ケーブルの研究開発状況

鉄道総研では平成19年度に本格的に鉄道用超電導ケーブルの開発に着手しました。直流き電区間への導入を想定し、超電導ケーブルシステムの構造の設計変更、試作、通電試験を繰り返しながら、実用化のために必要な要素技術を洗い出し、基盤技術の確立に努めてきました。その結果、平成22年度には8kA級の超電導ケーブル(5m)を試作し、平成24年度には5kA級の超電導ケーブルシステム(31m)を鉄道総研構内に試験し、この度このシステムを用いた電車の走行試験を実施するに至りました。

4.開発した超電導ケーブルシステムの概要

今回開発した鉄道用超電導ケーブルシステム(図)は、実路線でも適用可能な定格1500Vで5000Aを超える電流容量を有します。システムへの熱侵入の低減や小型化を目的とし、見かけ上1本で冷媒の循環を行う「対向流循環方式」を採用することで、冷却機構も一体型とすることができ、非常にコンパクトなシステムとなっています。
 今後、走行試験を重ねて信頼性を向上させ、その分析結果からケーブル構造の最適化を行うとともに、さらに長尺の鉄道用超電導ケーブルを用いた試験により、鉄道路線での使用に適した超電導ケーブルシステムの完成を目指していきます。

なお、本研究開発は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)の一環として行いました。

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図  鉄道用超電導ケーブルシステム