駅の旅客流動に関する研究

1.概要

駅では、列車の発着に合わせて多くの人が移動するため、プラットホーム、階段、エスカレータ、コンコース、改札口等では、旅客流動の波動も考慮した適切な動線計画が必要となります。

建築研究室では、1970年代から旅客流動の実測や歩行行動のモデル化を行い、駅構内の人の流れを再現するシミュレーションの開発に取り組んできました。近年では、これらシミュレーション技術を用いて、駅空間での多様な人の流れの可視化による駅計画の課題抽出のほか、旅客流動計測のデジタル化や駅空間の評価に関する研究開発にも取り組んでいます。

旅客流動シミュレーションの基本モデルは、図1のように駅空間をメッシュ状に分割し、メッシュ間の旅客人数の移動を動的に表現することで、駅全体の流動状況を再現しています。メッシュ間の旅客の移動には、実験や観察によって得られた歩行速度と密度の関係(図2)を用いており、これらの関係性を実験や実駅で計測するために、歩行速度の解析と周辺旅客との距離を併せて計測できる手法の開発も行っています(図3)。

2.活用実績

実際に、鉄道事業者等からの依頼によって、駅の設計段階での旅客流動の検討や工事中の通路幅員減少による問題点の把握等を目的としたシミュレーション作成を行っています(図4)。 各メッシュ内の歩きにくさを評価することで、駅計画の課題箇所等の抽出を行うことが可能であり、これまでに多くの駅で解析を実施した実績があります(図5)。

3.調査技術等のデジタル化

これまで、旅客流動シミュレーションの入力データとなる駅構内の断面交通量や分布交通量(駅構内の経路別旅客数)は、目視調査や手動カウントによる方法で取得することが一般的でした。

そこで、AIを用いた画像解析技術(図6)なども活用して、常時観測も視野に入れた旅客流動計測のデジタル化に関する研究開発を行っています。

その他にも旅客流動シミュレーションで推定される駅構内の混雑状況の立体的な表現(図7)や、ヘッドマウントディスプレイ等を用いたVR空間での駅構内の空間評価(図8)など、駅の設計を支援する研究にも取り組んでいます。

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参考文献

  1. 石突光隆:旅客流動と駅の関係について、鉄道建築ニュース、No778、pp20-22、2014
  2. Yamamoto,M., Ishizuki,M., Aoki,T.:“Passenger Flow Simulation to Evaluate the Degree of Discomfort for Walking in Stations ”, Quarterly Report of RTRI, vol.51, No.3, pp138-145, 2010
  3. 山本昌和、石突光隆:駅の歩きやすさを向上する、RRR、Vol.67、No.1、pp27-30、2010.01
  4. 山本昌和、石突光隆、青木俊幸:駅における歩きにくさを可視化した旅客流動シミュレーション、鉄道総研報告、第23巻、第12号、pp59-64、2009.12
  5. 柴田宗典、石突光隆、対馬銀河:断面交通量に基づく OD 交通量推計モデルの比較分析 -駅構内における OD 交通量自動推計の実現に向けて-、鉄道工学シンポジウム論文集、No.24、pp.57-64、2020
  6. 柴田宗典、石突光隆、対馬銀河:ラグランジュ緩和法を用いた駅構内における歩行者の分布交通量推計に関する研究、鉄道工学シンポジウム論文集、No.25、2021