がいしの劣化診断技術

一般的に、電車線路における高圧がいしの汚損対策は、沿岸部、内陸部、トンネル区間および山岳地域などを細分化せず、線区毎に一律とする場合が多いようです。また、同一線区内の高圧がいしの点検・清掃等の周期は、雨洗効果の有無や塵埃等の影響を考慮して決められています。

近年、高経年を迎える高圧がいしが増加傾向にあり、既設の高圧がいしの継続保守による延命化を進めるべきか、あるいは更新すべきかを判断する必要があります。更新する場合であっても、適切な取替指標があれば、優先順位を付けた部分取替が可能となり、延命可能と判断される区間においてはコスト削減も期待できます。

そこで、センサ技術を用いた高圧がいしの保全管理方法について検討しました。使用したセンサは、大気中の腐食進行を計測する手法として使用されているACM (Atmospheric Corrosion Monitor) センサです。ACMセンサの基本構成は図1に示すように互いに絶縁された二つの異種金属(Fe-AgまたはZn-Ag)と電流計であり、図2のような構造となっています。

絶縁性有機フィルムにペーストされたスリット部には炭素鋼またはZn表面が露出するため、海塩粒子(NaClやMgCl2など)や大気含有成分(SO2など)が直接あるいは水溶液の状態で付着します。これより、炭素鋼上で腐食反応が促進され、Fe原子から電子が水膜中に溶出します。炭素鋼上で式(1)の腐食反応が促進され、Fe原子から電子が水膜中に溶出します。Ag上では式(2)の反応が生じます。この反応によって授受される電子が炭素鋼とAgとを短絡したリード線に流れる電流として測定され、ACMセンサの出力となります。

式(1) 式1
式(2)  式2

このACMセンサ出力から12時間毎の等価塩分付着密度(以下、ESDD)を算出することができます。センサ出力からESDDへの変換は、10分サンプリングのACMセンサの腐食電流値と測定箇所の相対湿度から、表面に付着した塩の質量を割り出すことにより算出します。図3にACMセンサ出力から得られたESDD換算値を示します。同一線区であっても、ACMセンサを使用することにより地域毎のESDDを定量的に把握することが可能になり、この指標を基準とした汚損区分および点検・清掃周期等の算定を行うことができると考えています。