パンタグラフ通過時のひずみを低減するトロリ線断面形状

トロリ線の曲げひずみによる疲労防止の一方法として、トロリ線の断面形状を変更してひずみを低減することを検討しました。

トロリ線にはパンタグラフ通過のたび曲げひずみが発生します(図1)。列車の速度向上等に伴ってひずみが増大するとトロリ線が疲労する恐れがあります。その恐れを小さくする一方法として、トロリ線の断面形状を変更してひずみを低減することを検討しました。

図1 パンタグラフ通過に伴うトロリ線曲げひずみ発生のイメージ

トロリ線の断面形状は、図2に示すように円に対して金具(イヤーという)でつかむための溝を設けたものが一般的です。ところで、棒状のものに曲げ変形が加わると、曲がりの外側には引張の、内側には圧縮のひずみが生じ、中心付近には引張・圧縮どちらのひずみも生じない面(中立面)があります(図3)。曲げ変形に伴うひずみは中立面からの距離に比例します。トロリ線では上面に発生するひずみが問題になります。なぜなら下面(しゅう動面)に疲労き裂が生じても摩耗で除去されるので、そのき裂が進展し破断に至る懸念は小さいからです。 中立面から上面までの距離を小さくしてひずみを低減するには、上面がなるべく扁平かつ「いかり肩」の断面形状にすればよいのですが、横風を受けたときの空気流が上面で剥離しやすくなり、上下振動(ギャロッピング)が生じやすくなります。

図2 一般的なトロリ線断面形状(左:公称断面積110mm2、右:同170mm2)
図3 曲げ変形に伴うひずみの発生

そこで風洞試験も交えて検討した結果、図4に示す断面形状に考え至りました。断面積は公称断面積110mm2のトロリ線(図2左)とほぼ同じですが、計算上はひずみを約10%低減できます。風洞試験の結果を図5に示します。凡例中の「残存9mm」とは、摩耗した状態を模擬するため上下寸法を9mmまで切削加工したことを意味します。縦軸の値が負側に大きい場合ギャロッピングを生じやすいのですが、110mm2トロリ線に比べてギャロッピングしにくいことがわかります。

図4 考案した断面形状(計算断面積113.17mm2)
図5 風洞試験結果(風速30m/s)
ギャロッピング条件式の値=CD+dCL/dα
ただしCD:抗力係数、CL:揚力係数、α:迎角
迎角は真横からの風を0、吹き上げ方向を正とする

この断面形状は摩耗測定に支障がないようにも考慮しています。電気検測車による摩耗測定は、下から光を当ててしゅう動面の幅を測定し摩耗に換算していますが、下面円弧部の半径を110mm2トロリ線と同じにしていますので同様に摩耗測定ができます。また、イヤーは170mm2トロリ線用のものが取付可能で、専用のイヤーを製作する必要はありません。さらに、新幹線へ適用するには強い張力で架設するため高強度の材質でトロリ線を製作できることが必要ですが、PHCトロリ線(RRR誌2009年4月号参照)の材質で試作し確認しています。

断面形状を変更しても架線金具類との適合性(取付強度等)に問題ないことを室内試験で確認しました。また、鉄道総研所内でパンタグラフ走行試験を行い、トロリ線ひずみを測定した例を図6に示します。速度100km/h超で正(引張)方向のひずみが低減していると見ることができます。さらに現地試験を行い、実際の架線へ問題なく架設できることを確認しました。実際にひずみが低減することを示すデータを蓄積して、実用化を提案したいと考えています。

図6 所内パンタグラフ走行試験のトロリ線ひずみ測定結果例
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