慣性正矢法による軌道検測
1.慣性正矢法とは?
「加速度の2回積分が変位になる」という物理法則から軌道変位を求める方法を「慣性測定法」といいます。航空機の慣性航法や、自立型のカーナビゲーションに近い方法です。この方法は測定軸を1軸としても測定可能で、小型の装置にできることから営業列車へ搭載するなど自由な構成が考えられます。しかし、既往の慣性測定法は波形処理の途中で軌道変位波形にひずみを生じるという欠点があり、あまり広くは使われていません。
鉄道総研では、慣性測定法の波形処理に、現在の3台車式軌道検測車で用いられている「正矢法」という軌道検測方法の特性を取り入れて、ひずみを生じない処理が行え、しかも3台車検測車と同様の検測結果が得られる方法を考案しました。この方法を「慣性正矢法」といいます。
2.慣性正矢軌道検測装置について
慣性正矢法を利用した検測ユニットと、制御とデータ収録のための機器箱を車両に取り付けるだけで軌道検測が可能になる装置です。取付箇所に応じた、2種類の検測ユニットを用意しています。車体装架型ユニットの取付においては、曲線部を偏倚量を考慮して、できる限り車輪に近い位置への設置を推奨しています。
3.低速時の精度補償
慣性正矢法では、低速時には測定される加速度がセンサーの最小検出感度よりも小さくなると測定精度が低下します。そこで、両先頭車に検測ユニットを搭載する方法(図4)や、検測ユニットからジャイロと加速度センサーを除いたレール変位検出装置をもう1組追加で搭載する方法(図5)で、低速時の精度補償を行っています。
関連ページ
参考文献
- 坪川洋友、矢澤英治、小木曽清高、南木聡明:車体装架型慣性正矢軌道検測装置の開発、鉄道総研報告、第26巻、第2号、pp.7-12、2012.02
- 矢澤英治、松田博之、森高寬功:営業列車で線路を検査する、RRR、Vol.66、No.11、pp.18-21、2009.11
- 矢澤英治、岡井忠生:慣性正矢軌道検測装置実用化に向けた性能向上、鉄道総研報告、第18巻、第3号、pp.35-40、2004.03
- 竹下邦夫、矢澤英治:慣性正矢法による軌道狂い検測装置の開発、鉄道総研報告、第14巻、第4号、pp.25-30、2000.04