融雪災害の危険度判定システム

1.はじめに

夏期の豪雨などによって土砂崩壊等の斜面災害が発生することは一般に知られています。一方で、発生件数は少ないものの、積雪地域では春先に融雪水を主因とする斜面崩壊(融雪災害)が発生することがあります(図1)。融雪災害はその主因となる融雪量を観測することが難しいため、その発生危険度の評価は困難です。本研究では、降雨災害の発生危険度評価に用いられる雨量指標の一つである実効雨量を融雪量に応用した、実効融雪量を指標とする融雪災害の危険度判定手法を開発しました。

2.融雪災害の危険度評価の方法

本手法は、1時間ごとに更新される実効融雪量の実況値が、過去の気象データをもとにあらかじめ設定した災害警戒閾値(しきい値)を超えた際に、災害の危険性が高いと判定する手法です。まず、評価したい地点に最も近い気象庁アメダスの観測データを使用して、雪面熱収支法にもとづく融雪量推定モデルを用いて融雪量を推定します(図2)。次に、融雪量の推定値および降雨量の観測値を用いて、土中に流出入した水分量の差から、土中内に貯留した水分量を表す実効融雪量を計算します(図3)。

実効融雪量と比較する災害警戒閾値は、過去20冬期分の気象データを用いて算出します。ここで、本手法では積雪深に応じた災害警戒閾値の設定方法を採用しました。過去20冬期における実効融雪量と積雪深との関係を用いて、積雪深の階級毎に実効融雪量の再現期待値を求め、再現期間毎に得られる回帰曲線を災害警戒閾値として設定します(図4)。

3.本知見の活用

融雪災害の危険度判断結果を常時閲覧できるシステムを構築しました(図5)。インターネットに接続できる環境であれば場所を選ばずに判断結果が閲覧できます。本システムは、新たな気象観測等の観測網を整備することなく任意地点における融雪災害の危険度をモニタリングすることが可能です。危険度をモニタリングすることで沿線斜面の警備の要否判断に用いることができ、融雪期の斜面管理の効率化に活用できるものと考えています。

参考文献

  1. 飯倉茂弘, 佐藤亮太, 高橋大介:任意地点の融雪量推定方法の開発, 鉄道総研報告, Vol.36, No.4, pp5-10, 2022
  2. 高柳剛, 佐藤亮太, 布川修:融雪量に基づく実効雨量を用いた融雪災害警戒基準の提案, 鉄道総研報告, Vol.36, No.4, pp11-16, 2022