予測制御による効率的な列車制御手法

1.本研究の目的

大都市圏の通勤路線などの高密度運転路線では、乗客の混雑などによる駅停車時間のわずかな延長が後続の列車に影響し、駅手前での一旦停止などにより遅延が拡大しやすくなっています。このような場合には駅間走行時間の増大、ダイヤ回復遅れのほか、不要な加減速による、乗り心地や消費エネルギーの影響も考えられます。

このような影響をできるだけ小さく留めるための列車制御方法として、駅近傍で先行列車の運転状況に応じて後続列車の走行パターンを適切に調整することで、駅手前での一旦停止を回避するとともに先行列車との間隔をできるだけ小さくすることが挙げられます。

予測制御は、駅に停車している列車の発車予測時刻や駅間にいる複数の列車の走行状況を把握するとともに、走行を制御することで、運行乱れの早期回復、運転時隔短縮、省エネルギーを図るものです。

2.予測制御の基本論理

駅で計算した先行列車の出発予測時刻を元に、後続列車で速度を制御します。ダイヤ乱れ時のように、後続列車が駅の近傍において先行列車に通常よりも近づいて走行せざるを得ない場合には、以下の条件に従って後続列車の速度制御を行います。

条件(1):速度制限パターン(図1の赤色の曲線)に抵触して場内信号機の手前で後続列車を不要に停止させないようにします。

条件(2):先行列車が出発し場内進路が開通する時点で、予め定めた最適地点(図1、図2の赤丸)を速度制限パターンの最高速度で通過するようにします。

条件(3):場内進路が開通する時点から最短時間で、最適通過点から駅に到着できる運転パターン(図2の緑色の曲線)に沿って運転します。

3.特長

モデル線においてダイヤ乱れが発生した場合について検証した結果、予測制御を導入するほうが早期にダイヤ乱れが収束するだけでなく、消費電力が少なくなることが判明しています。

このような制御は、これまでに鉄道総研で開発してきたCARATやディジタルATCのような、地上・車上間の情報伝送や車上位置検知などの機能を持った列車制御システムを基盤として実現することができます。

4.今後の展開

現在は、実現に向けた詳細機能の検討と、様々な状況を想定した効果の確認を行っています。予測制御を行った場合の効果については、列車群の走行や信号設備などの状態を評価できる計算機シミュレーションを中心として検証を行っています。

また、この予測制御の機能を盛り込んだ、輸送障害に対して強い列車運行システムの実現を目指しています。

参考文献

  1. 平栗滋人、兎束哲夫:線区条件に応じた列車群の予測制御方式、鉄道総研報告、第24巻、第3号、pp.29-34、2010.03
  2. 平栗滋人、喜多川治雄:信号設備条件を考慮した予測制御方式の評価、鉄道総研報告、第21巻、第11号、pp.29-34、2007.11