運転整理支援に関する研究

1.概要

事故などにより列車ダイヤが乱れた際には、正常なダイヤに回復させるため、予め計画されたダイヤに変更を加える作業(運転整理)が行われます。この運転整理業務の支援を目的とし、過去に実際に行われた変更手配の分析を行い、運転整理案(ダイヤの変更案)の提案手法や評価手法について研究を行っています(図1)。

2.運転整理案の提案手法

① メタヒューリスティクスを利用した運転整理案の提案

事前に定義した「利用者の不満」を少なくするような運転整理案を作成します。ここでは、「利用者の不満」として、列車の遅延、列車の頻度等を考慮できます。例えば、「駅の出発が計画の時刻よりも5分以上遅れること」を不満として定義することができます。列車の着発に着目したモデル化により瞬時の列車運行予測を可能とし、この予測計算を繰り返すことで、適切な運休、車両運用変更、着発線変更等を提案します。

アルゴリズムの構成を図2に示します。「利用者の不満」の検出と解消を繰返すことで、解となる運転整理案を改善し、最終的な案を出力します。工程管理に用いられるPERT(Program Evaluation and Review Technique)で列車運行をモデル化しています。繰り返し計算の枠組みとして、メタヒューリスティクスと呼ばれる最適化技術を用いています。

何らかの原因で、列車が約30分遅延した場合を想定します。運転整理なしの場合(図3)では、遅れた列車が番線をふさいでいるため、次にその番線を使う列車が駅に入れなくなり、その影響を受けて後続の列車が駅の手前で停止しています。また、発車順序を変更していないため、後続列車の発車がすべて大幅に遅れていますが、運転整理後のダイヤ(図4)では、適切な運休(山切り)、車両運用変更、番線変更、発車順序の変更により、利用者の不満を最小限にとどめた運転整理案を作成した結果となっています。

個々の利用者の観点からの運転整理案を提案するため、列車運行・旅客行動シミュレータと組み合わせた手法も開発しています。

② 数理最適化手法を利用した運転整理案の提案

数理最適化により運転整理案を提案する手法についても研究を進めています。

各列車の計画の着発時刻や停車時間・走行時間・必要な列車間隔等を制約条件とし、全列車・全駅の総遅延量や、所要時間や乗換のような利用者の「不便さ」を数値化したものを目的関数とすることで、目的関数を最小化する問題として取り扱うことが可能となります。

列車の着発順序の変更と列車の間隔調整を対象に混合整数計画問題として定式化をし、総遅延量を最小にした場合と利用者の不便さを最小にした場合について、簡単なモデル線区においてそれぞれの計算を行いました。図5が総遅延量を最小にした場合で、図6が利用者の不便さを最小にした場合です。

総遅延量を最小にした場合には間隔にばらつきがありますが、利用者の不便さを最小にした場合にはほぼ等間隔になっていることがわかります。しかし、利用者の動きを考慮するためには定式化が複雑となってしまい、より計算時間がかかってしまいます。運転整理ではリアルタイムで判断が必要なため、計算時間をいかに短縮するかが課題となっています。

③ 運転整理案作成におけるAIの活用

運転整理を行う上では、線区や駅の特徴や、担当者が経験によって培ったノウハウも重要となってきます。そこで、過去に行われた運転整理の結果から、「このような状況の時にこう変更する」という特徴やノウハウをルールとして抽出する手法を構築しました。

ルールの抽出は、運転整理の手配記録から、シミュレータにより各手配を行う時点でその後何も運転整理を行わなかった場合にどのようなダイヤになると想定されていたか(予測ダイヤ)を推定します。手配ごとに変化する予測ダイヤを系列的に蓄積し、予測ダイヤと手配の関係性からルールマイニング手法であるPrefixSpan法を活用することにより、予測ダイヤにおいてある状況が発生したときに、一定割合以上の確率で同一の手配を行っているような事例を取り出すことができます。このような事例を「運転整理ルール」として抽出しました。

運転整理ルールのみですべての運転整理を行うことはできないため、抽出された運転整理ルールを制約条件として、全体的な運転整理は数理最適化手法を用いるというように他の手法と組み合わせて使用することを想定しています(図7)。

参考文献

運転整理全般

  1. 富井規雄:乱れたダイヤを整理する、RRR、Vol.61、No.5、pp.4-7、2004.05

① メタヒューリスティクスを利用した運転整理案の提案

  1. 富井規雄、田代善昭、田部典之、平井力、村木国満:顧客満足度を考慮した運転整理アルゴリズム、鉄道総研報告、第18巻、第12号、pp.7-12、2004.12
  2. 國松武俊、平井力:利用者デマンドを考慮した運転整理案作成アルゴリズムの開発、鉄道総研報告、第23巻、第8号、pp.17-22、2009.8

② 数理最適化手法を利用した運転整理案の提案

  1. 加藤怜、平井力:速度規制による列車遅延時の運休判断支援手法 、鉄道総研報告、第30巻、第8号、pp.17-22、2016.8
  2. 佐藤圭介、平井力:旅客視点の指標に基づくダイヤ乱れ時の列車順序・間隔整理手法 、鉄道総研報告、第30巻、第8号、pp.11-16、2016.8

③ 運転整理案作成におけるAIの活用

  1. 田中峻一、坂口隆、加藤怜、瀧本友晴:実績ダイヤを用いた運転整理における指令手配のノウハウ抽出手法 、鉄道総研報告、第35巻、第3号、pp.23-28、2021.3
  2. 坂口隆、佐藤圭介:列車順序変更計画へのルール抽出技術の適用 、鉄道総研報告、第32巻、第12号、pp.11-16、2018.12