実績データを用いた輸送障害時の旅客流動分析手法

1.概要

 日々収集、蓄積される運行実績データ、乗車人数データを分析、活用し、「人身事故等の輸送障害発生時の旅客流動を可視化する手法」と「運転再開前後の旅客流動を定量的に予測する手法」を構築しました。

2.背景

 人身事故等の輸送障害発生時には、乱れたダイヤを回復させるため、運行を管理する指令室において、運転整理と呼ばれる、列車の運休、順序変更等の一連の変更手配が行われます。適切な運転整理を実施するためには、運転再開前、再開後のそれぞれについて、各区間における利用者数を予測し、それに応じた適正な列車本数、輸送力を確保することが重要です。しかし、ダイヤ乱れ時の利用者数の予測手法は開発されておらず、指令室の指令員が経験的に予測し、運転整理を実施しているのが現状です。また、輸送障害当日の運転整理を行った後、各列車が実際にどの程度の混雑度であったか、事後的に把握することも困難で、当日の運転整理が妥当であったか否か、十分な事後検証を行うことができないという課題もあります。

 一方、近年では、列車の各駅における実績の着時刻/発時刻のデータや、実績の列車乗車人数のデータが毎日取得され、データとして蓄積されるようになりました。そこで、これらの実績データを活用し、輸送障害発生当日において、運転整理ダイヤと各列車の混雑度を事後的に分析する手法と、運転再開前、再開後の利用者数を事前に予測する手法を検討しました(図1)。

3.輸送障害当日の旅客流動可視化手法

 輸送障害発生日を対象に、運行実績データ、乗車人数データをダイヤ図形式で可視化し、当日の旅客流動の特徴を抽出する手法を開発しました。図2では、駅26で輸送障害が発生し、運転が中断したときの状況を表しています。下のダイヤ図は、輸送障害が発生した当該路線、上のダイヤ図は、当該路線と並走する路線です。このダイヤ図では、列車スジの位置は、各列車の当日の実績運行時刻に基づいています。また、当日の列車の混雑度に応じて列車スジが着色されており、例えば、混雑度100%~120%の列車がピンク色の線で示されます。さらに、ダイヤ乱れの無い標準的な日と比較して、混雑度が増加した列車には、赤系(ピンク、橙、赤)の●印が付されています。

 まず、運転中断中の時間帯では、並走路線に赤系の●印が多く見られます。これより、当該路線の運転中断により、多くの旅客が並走路線に転移し、並走路線の列車が混雑したことがわかります。次に、このケースでは、当該路線の駅11~駅24間で臨時の折り返し運転を3本、実施しました。折り返し運転を行った列車のスジがピンク色であることから、列車は相応に混雑しており、折り返し運転が効果的であったことがわかります。

 このように、本手法により、当日の運転整理内容を、列車の混雑度と対応付けて分析、考察できるため、鉄道事業者の指令室において、当日の運転整理手配に対する振り返り、事後検証に活用できると考えています。

4.運転再開前後の旅客流動予測手法

 次に、輸送障害の発生箇所、時間帯等の概況の情報から、運転再開前後の上下線・各駅間の利用者数(断面通過人数)を予測する手法を開発しました(図3)。予測手法の構築には、対象路線における過去30件程度の輸送障害時の実績データを用い、重回帰分析を適用しました。具体的には、輸送障害による支障区間、不通時間の長さ、発生時間帯、当日の列車本数等の情報を変数として入力し、各駅間における断面通過人数が平常日と比較してどの程度減少するのか、減少率を予測、出力するものです(図4)。

 これにより、輸送障害が発生した当日のその時点において、運転再開前に折り返し運転による輸送力確保を何本程度行う必要があるのか、運転再開後にダイヤ回復のための列車の運休が何本程度まで可能かといった、運転整理の判断に資する情報が定量的に得られるようになり、より適切な運転整理の実施に繋がります。

 また、検証のため、この予測手法を通勤線区の複数の輸送障害事例に適用し、断面通過人数の予測値と実績値とを比較しました。その結果、予測誤差は概ね十数パーセント以内で、運転整理を検討するうえで実用的な精度であることを確認しました(図5)。

5.今後の展開

 本手法を様々な路線に適用し、提案手法の有用性を検証していきます。

参考文献

  1. Taketoshi Kunimatsu, Chikara Hirai:“Methods for Analyzing Passenger Flows During Train Traffic Disruption Using Accumulated Passenger Data,” Quarterly Report of RTRI, Vol.55, No.2, pp.86-90, 2014.05(※)
  2. 國松武俊、平井力:運行実績・乗車率データを活用したダイヤ乱れ時の旅客流動分析手法、鉄道総研報告、第27巻、第9号、pp.35-40、2013.09

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