トンネル覆工コンクリートの劣化メカニズム

1.はじめに

トンネル覆工コンクリートは、100年以上経過しても健全なものがある一方で、種々の原因により劣化を生じているものもみられます。本研究では、主に大正期から昭和初期に建設された古いトンネルを末永く使用するために、多くのトンネルからコンクリート試料を採取(図1)し、劣化メカニズムについて明らかにしました。

2.酸による劣化

覆工コンクリート表面にみられるもっとも多い劣化は、コンクリートへの酸の作用によるもので、かつて運行されていた蒸気機関車の煤煙に含まれる酸が壁面に付着し、コンクリートの表面が侵食されるものです。煤や塵埃の付着、化学成分の濃縮等によって、その表面は黒色、白色、褐色等の色を呈することが特徴的です(図2)。なお、一部のトンネルでは酸性地下水の作用によって劣化した箇所もみられます。

3.硫酸塩による劣化

硫酸塩による劣化は、地下水等に含まれる硫酸イオンがコンクリート中に浸透して膨張性物質を生成し、コンクリートが軟化したりひび割れを生じたりするものです。硫酸イオンに含まれるイオウは、コンクリートが中性化をした箇所と中性化をしていない箇所との境界付近に濃縮する性質があるため(図3)、この部分でひび割れを生じて表面側のコンクリートがはく離しやすくなります。

4.セメント代用品の使用による劣化

昭和初期頃に建設され、劣化した一部の覆工コンクリートでは、当時は高価であったセメントの材料費を低減させるために、セメントの代用品として珪藻土等を混合したコンクリートが用いられていたことを明らかにしました。珪藻土を多く混合したコンクリートでは、中性化によって圧縮強度の低下がみられることから(図4)、このような作用によって劣化したものと考えられます。

5.おわりに

覆工コンクリートにおけるこれらの劣化メカニズムを正しく知ることによって、劣化の進行性や補修の要否、適切な補修方法を見出すことが可能になり、列車のさらなる安全運行を保つことができます。

参考文献

  1. 上田洋、西尾壮平、松田芳範:珪藻土が混和されたトンネル覆工コンクリートの劣化特性、鉄道総研報告、第21巻、第2号、pp.11-16、2007.02
  2. 上田洋、松田芳範、西尾壮平、佐々木孝彦:トンネル覆工コンクリートの劣化について、コンクリート工学年次論文集、Vol.26、No.1、pp.759-764、2004