磁力を利用して鋼製振動体に簡単に施工できる制振材

1.はじめに

鉄道では鋼鉄道橋など多数の鋼製部材や鋼構造物が使用されています。鋼材は振動を減衰する性能が小さく、これらの鋼製部材に対する振動対策が課題となってきました。こうした鋼製部材・鋼構造物に対する主要な振動対策の1つとして、制振材を貼付することが検討、実施されてきました。従来の制振材は振動部材に対して接着剤や粘着剤を用いて貼付していました。しかし、その場合には貼付前に振動部材の表面を洗浄するなどの下地処理を行ったり、貼付後接着剤が硬化するまで制振材を保持したりしなければならないなど施工に労力を要し、その簡素化が求められました。また、制振材の性能が温度依存性の大きいゴム・樹脂材料に依存するため、一部の温度範囲でしか性能を発揮しないという課題がありました。

これに対して、磁性ゴムを適用した磁性制振材を開発しました。磁性制振材は磁力を利用して鋼製部材・構造物に簡単に施工できます。また、磁性ゴム層-振動部材間に生じる摩擦制振効果は温度の影響が小さく、これが鋼製部材に生じる振動にも作用するため、幅広い温度範囲で性能を保持します。

2.磁性制振材の材料構成

フェライトを配合して着磁した磁性ゴム層に亜鉛めっき鋼板の拘束層の積層からなります。

3.磁性制振材の特徴

  1. 磁力吸着を利用することにより、接着材・粘着材を用いた従来の制振材より簡単な施工が可能になりました。
  2. 振動時に制振材と部材間で発生するすべり変位に伴い発生する摩擦制振効果の作用により、幅広い温度領域での高い制振性能が発揮されます。
  3. 幅広い周波数領域で高い制振性能を発揮します。

4.磁性制振材の効果

鉄道の鉄橋で施工した結果、鉄橋直下の騒音レベルが5dB以上低減しました。

参考文献

  1. 半坂征則、西村充史、浜田晃、鈴木実:拘束型磁性制振材の性能予測と最適設計、鉄道総研報告、第17巻、第10号、pp.41-46、2003.10
  2. 半坂征則、中西臣悟、山田功司、鈴木実:拘束型磁性制振材による鋼鉄道橋の振動低減、鉄道総研報告、第16巻、第12号、pp.29-34、2002.12
  3. 半坂征則、中西臣悟、山田功司、鈴木実:拘束型磁性制振材を貼付した平板の曲げ振動解析、鉄道総研報告、第16巻、第12号、pp.23-28、2002.12
  4. 半坂征則、林巌、岩附信行、御船直人、森川広一、香川美仁:拘束型磁性制振材の制振特性:第3報、平板の曲げ振動解析に基づく損失係数の計算式の導出、日本機械学会論文集(C編)、Vol.68、No.676、pp.49-57、2002
  5. 半坂征則、林巌、岩附信行、御船直人、森川広一、香川美仁:拘束型磁性制振材の制振特性:第1報、はりの曲げ振動解析に基づく損失係数の計算式の導出、日本機械学会論文集(C編)、Vol.67、No.662、pp.25-31、2001
  6. 半坂征則、御船直人:磁性複合型制振材の制振特性、鉄道総研報告、第7巻、第6号、pp.41-48、1993.06
  7. 半坂征則、御船直人:磁性複合型制振材の制振特性、騒音制御、vol.17、No.4、pp.40-45、1993