安全報告の促進要因の活用手法

単独作業下における自主的な過失報告を促進する要因を明らかにし、これらを活用する教育訓練手法を作成しました。

1.はじめに

単独作業が多い鉄道の運転現場において、運転士からの自主的な報告は重要な情報源です。しかし、自分自身の過失を報告することは、心理的な困難を伴います。それを支援するための教育訓練が求められていますが、その指針となる知見は明らかになっていません。

本研究ではこのような事態への対策に向け、自主的な報告(安全報告)を促す心理的な要因を明らかにし、その心理的要因を活用した教育訓練手法を開発しました。

2.ヒアリングによる実態把握

自らの過失について安全報告が無ければ事態が判明しなかった事象を集約し、該当する事象について安全報告を行った運転士にヒアリングを実施しました。安全報告を行った理由の中で、個人要因に該当するものを集約したところ、他者の負担に対する意識、自己評価についての意識、プロとしてのプライドなど複数の理由が得られました。

ヒアリングで得られた理由について、その理由が本当に安全報告を促進しているのかを検証するためには、個々の理由を定量化し、その数値が高い人ほど安全報告に対して肯定的な態度を取るのかを統計的に検討する必要があります。そこで安全報告を促進した理由を定量的に表現することを可能とするために、安全報告を促進した理由に関連性の高いと考えられる既存の心理尺度5つを選定し、これらの心理尺度を安全報告の促進要因候補としました(図1)。

図1 安全報告を行った理由と、安全報告の促進要因の候補

3.web調査と心理実験による妥当性検証

web調査によって、安全報告の促進要因候補の妥当性を検証した結果、他人の立場になって考える(他者の視点取得傾向)、自己評価を重視する(私的自己意識)、自らの職業に対する誇りをもつ(職業的自尊心)といった傾向が高いほど安全報告に対する肯定的な態度を示すことが明らかになりました。さらに、心理実験によって安全報告の促進要因候補の妥当性を検証した結果、他人に対して感情的な配慮をする傾向、が高い人ほど、安全報告に対する無自覚的な肯定的態度を示すことが明らかになりました(図2)。

図2 安全報告の促進要因

4.教育訓練手法の開発

明らかになった4つの安全報告の促進要因の中から「他人の立場になって考える」、「他人に対して感情的な配慮をする」の2つを選び、これらを意識させることで安全報告を促進する教育訓練手法を開発しました。

この教育訓練手法は、①問題事例の提示(大きな報道により社会的にも注目を浴びた安全報告の不備による一般的な問題事例と、安全報告に関する法律を紹介)、②報告の成功事例解説(教育訓練を実施する事業者内で実際に発生した報告の成功事例の紹介)、③安全報告の促進要因解説(②の成功事例では促進要因である「他人の立場になって考える」「感情的な配慮」が実践できていることを紹介)、④安全報告のグループ懇談(他者の負担に対する意識向上のための、本人や同僚、会社など様々な立場における安全報告の良い面、悪い面の議論を実施)、の4つの要素から構成されます(図3)。

この4つの要素にそれぞれ対応するスライドを教材として作成し、模擬教育と説明の後にアンケート調査を実施したところ、多くの教育訓練担当者から肯定的な回答を得ました。

図3 教育訓練手法のねらいと教材スライド

参考文献

PAGE TOP