パンタグラフ集電電流のすり板摩耗率への影響

 パンタグラフすり板は集電電流が大きいほど摩耗量が増加することが定置試験により確認されています。このたび現車試験でパンタグラフ集電電流を測定し、編成内でのすり板摩耗率不均一との関係を調査したところ、定置試験と同様に集電電流が大きいほど摩耗量が増加することが確認されました。  集電電流測定の現車試験は、A 駅・B 駅間約14 km を同一の走行パターンで3 往復実施しました。代表的な営業列車の走行を模擬するため、優等列車の停車駅・運転時分で走行しました。また、すり板の最大寸法摩耗率は新品すり板取り付けから約80,000 km 走行した後の最大摩耗量を測定し算出しました。図1 に現車試験を行った車両の編成図および測定した電流分担率、すり板摩耗率を示します。電流分担率は、力行時の全集電電流の時間平均に対する各パンタグラフの電流割合を示しています。この編成は6両と4 両を連結した10 両編成で、パンタグラフは図1 のように母線で接続されています。VVVF インバータが搭載されている9・7・3 号車の電流分担率が高く、9 号車では隣接する車両にパンタグラフがないため特に高い値となっています。  図2 に電流分担率と最大寸法摩耗率をプロットしたグラフを示します。定置試験と同様に集電電流が大きいほど摩耗が大きくなっており、両者がほぼ比例関係となることが現車において確認できました。  なお、本測定は京王電鉄殿において実施させて頂きました。ここに御礼申し上げます。

  • 図1 編成図および各号車の電流分担率・最大寸法摩耗率
    図1 編成図および各号車の電流分担率・最大寸法摩耗率
  • 図2 電流とすり板摩耗率の相関
    図2 電流とすり板摩耗率の相関

(集電管理 松村 周)

直流高速度遮断器の規格

 直流電気鉄道の変電所等で使用される直流高速度遮断器の製品規格として、これまで日本工業規格 (JIS)はなく、電気学会の電気規格調査会が定めた規格であるJEC-7152(直流高速度気中遮断器) とJEC-7153(同ターンオフサイリスタ遮断器)、あるいは旧日本国有鉄道規格(JRS)が用いられて きました。JEC-7152 は、1961 年に制定されたJEC-152 をJEC-7153 の制定とあわせて1991 年に改 訂したものです。その後、約20 年が経過して直流真空遮断器のような新技術の導入もありましたが、 規格の改訂は行われませんでした。
 一方、電気関係の国際標準化団体である国際電気標準会議(IEC)において、鉄道の地上設備に用い る遮断器、断路器等の直流開閉装置全般に関する国際規格として、欧州規格を基礎とするIEC 61992 (全9 部)が2001 年に制定され、2006 年に改訂されました。この国際規格には、直流遮断器の定格・ 性能や試験方法に関して従来の国内規格と大きく異なる規定がいくつかあり、国内の製造者が海外案 件に製品を納入する際に支障となり得ることから、日本は国内規格の規定を国際規格に反映させるべ くIEC に働きかけを行っています。国内規格と国際規格の主な相違は次の3点です。

  1. 国内規格では直流遮断器の限流性能を規定するのに対し、国際規格では遮断時間を規定する。
  2. 定格電圧および試験電圧について、標準電圧1500V のき電回路で使用される直流遮断器の場合、国内規格では1500V(標準電圧と同じ)、国際規格では1800V(電圧使用範囲の最大値)となる。
  3. 遮断責務について、国内規格では規定の突進率での短絡と手動遮断が主であるのに対し、国際規格では整流器直近の短絡、最大エネルギーの短絡、遠方での短絡を規定している。

 特に③について、整流器直近の短絡では図のように定常電流よりも大きな電流ピークを生じるような 条件で試験を行う必要があります。現状では、国内の試験設備でこれを実施することは困難です。
 このような状況の中、新技術への対応と国際規格との整合を目的として新たにJIS を制定することと なり、2007 年から原案作成委員会において審議を重ねた結果、2010 年に直流遮断器に関するJIS E 2501 が発行されました。新しいJIS は国際規格を基礎とした上で、高速度遮断器を表す分類(種類H) に対して、遮断時間を規定するものを種類H1、限流性能を規定するものを種類H2 として細分化し、種 類H2 に対する定格・性能や試験規定を従来の国内規格と同等としています。したがって、製品を購入 する際の要求仕様にJIS の種類H2 とする旨を記載すれば、従来の国内規格と同等の製品となります。
 鉄道に限らず、我が国の技術に対して国際化の波が押し寄せています。直流遮断器についても国内 規定の反映を目指す一方で、国内における開発の方向性や試験設備の充実等について関係者の議論を 深める時期を迎えているのかもしれません。

  • 図 遮断責務に関する国内規格と国際規格の相違
    図 遮断責務に関する国内規格と国際規格の相違

(き電 重枝秀紀)

日中韓共同研究の紹介

 電力ニュースNo.85(平成23 年1 月発行)においてご紹介したように、鉄道総研では中国鉄道科 学研究院(CARS)と韓国鉄道技術研究院(KRRI)との間で共同研究を進めています。その中で、集 電系では「架線・パンタグラフ系の計測技術とメンテナンスへの活用」をテーマに共同研究を進めて います。本年度は中国北京市のCARS において会議が開催されました。  本年度の集電系テーマの議題は、
 · 架線検測の紹介(中国、韓国)
 · 最近の研究開発成果の紹介(韓国、日本)
でした。ご承知のように中国と韓国にも300km/h 以上で営業運転されている高速鉄道があり、日本と同じように検測車による架線検測が行われています。今回の会議の中で紹介された代表的な架線検測項目は、
 · トロリ線摩耗
 · 電車線偏位
 · 硬点
 · トロリ線(パンタグラフ)高さ
 · 架線-パンタグラフ間の接触力測定
 · 離線アーク
がありました。上記の測定項目の中には日本と同じ測定方式が用いられているものもありますが、画 像を用いて電車線偏位を測定する試み(韓国)など、日本とは異なる点もあり、有用な情報交換とな りました。国は違いますが、電車線に関して取得したい(取得できる)情報は共通であることを実感 しました。
 研究開発成果の紹介では、日本から「画像による接触力測定手法(電力ニュースNo.84(平成22 年 8 月発行))」や「紫外線を用いた車上用離線測定装置(電力ニュースNo.79(平成20 年8 月発行))」 を報告し、韓国からは①「地上モニタリングによる離線測定」や②「画像によるトロリ線偏位測定」 についての紹介がありました。ここでは、韓国の紹介件名について簡単に説明します。①は、電車線 設備に電流クランプを設置し電車線に流れる電流を測定することで、ある区間(数km)を走行してい る列車の離線を検出するものです。パンタグラフが電車線から離線し、かつアークが消弧したときに、 変電所から電車線を介して電車に流れる電流値が小さくなることを利用しています。②は、車両屋根 上に搭載した1 台のCCD カメラによりトロリ線偏位を測定するものです。この方法では、CCD カメ ラにより得られたパンタグラフと、トロリ線やちょう架線などの線条の画像から、パターンマッチン グによりパンタグラフを認識し、そのデータを基にパンタグラフに直交する線条を検出することでト ロリ線偏位を測定します。画像にはちょう架線も写り込みますが、ちょう架線はトロリ線ほど明瞭に 画像に写らないので二値化処理により偏位測定の対象から除外されます。①②とも研究段階であり、 精度や実用化の面で課題が多々あるようですが、興味深い試みであり我々の研究の参考になるもので した。
 2 年間に渡って行われた本テーマは本年度が最終年度ですが、来年度以降は新たな枠組みで共同研究 を行えるよう調整をしています。

  • 図1 会議の様子
    図1 会議の様子

(集電力学 小山達弥)

中国の交通事情

 前頁で小山から日中韓共同研究の紹介がありましたが、私もこの共同研究のため、中国を訪れまし た。小山は共同研究の概要を紹介しましたので、私は中国の街並み、駅、鉄道などを、写真を交えて 紹介したいと思います。
 羽田国際空港を離陸して約4時間後、シートベルト着用の表示が点灯しました。いよいよ北京国際空 港への着陸です。窓の外を眺めると・・・。何かが変であることに気付きました。確か北京の天候は 晴れと言っていたはず、しかし、空が薄暗い、いや薄黒いのです。これが黄砂なのか、埃なのかは最 後までわかりませんでした。
 北京国際空港からホテルのある北京市内へは、CARS(前頁 参照)のチャータバスで向かいました。図1はバスから北京国 際空港方向を撮った写真です。道路は4車線あり、非常に広く、 車も大量に走っていました。ちなみに空の色を比較するため に、雨上がりの北京の空を右下に載せておきます。
 この訪中では、この到着した日だけ、個人行動が可能でし た。そこでホテルに到着後、私と小山は、事前に行動予定を 立てていたわけでないのですが、地下鉄を乗り継いで高速線 発着駅である北京南駅へ行こうという意見で一致しました。
 図2に地下鉄の路線図を示します。赤丸がホテルの位置です。 ホテルを出発して徒歩約30分で地下鉄の西直门駅に到着しま した。そこでタッチパネル式の券売機で目的地の北京南駅を 探し、表示された2元(約30円)を支払い、地下鉄に乗車しま した。この後、北京南駅から北京駅、北京駅から西直门駅の 切符を購入しましたが、すべて2元でした。地下鉄の運賃は一 律2元で統一されているようです。
 高速線の北京南駅に到着し、まず驚いたのは、その広さで す(図3左)。まるで国際空港のよ うな広さに加えて非常にきれいで もありました。高速線のホームへ は、スペインのように、事前に切 符を購入して、荷物チェックを受 けなければ行くことができません。 したがって、今回は高速線を近く で見ることができませんでした。 しかし、駅の外から塀越しに停車 している高速線を見ることができました(図3右)。
 北京駅に到着するころには日も沈み、夕食の時間になりました。お世辞にもきれいとは言えない大 衆食堂に入り、身振り手振り&筆談で注文をしました。小山と次の日からの会議の打合わせをしつつ、 1本4元のビールと小籠包、8元のチャーハンを食べて、北京の初日が終わりました。

  • 図1 バスから北京国際空港を望む
    図1 バスから北京国際空港を望む
  • 図2 地下鉄路線図
    図2 地下鉄路線図
  • 図3 北京南駅(左:コンコース,右:停車車両)
    図3 北京南駅(左:コンコース,右:停車車両)

(電車線構造 早坂高雅)

(ワンポイント講座)「電車線路設備耐震設計指針」の改定作業について

電車線路設備耐震設計指針とは

 高架橋で建設中の電車線柱(コンクリート柱)が1978年の宮城県沖地震で多数折損する事象を受 けて、地震時における電柱と高架橋の共振を考慮して電柱等の電車線支持物の強度についての評価指標 として1982年に策定されたのが電車線路設備耐震設計指針(以下「指針」)(案)です。一方199 5年の兵庫県南部地震において鉄道構造物が大きな被害を受けたことから、鉄道構造物の耐震設計標準 が改定されました。これに伴い1997年に指針(案)も改定され、現在の指針に至っています。設計 者はこの指針を用いることにより、地盤種類、高架橋の固有周期Ts、電柱の固有周期Tp、電柱基礎 種別が既知であれば地震時に受ける加速度の最大値を得ることができます。この値を基に、鉄道事業者 の設計施工標準等にある計算例と類似したモーメント計算により、電柱の地際に加わるモーメントを計 算します。その手順を図1に示します(⑤までの作業は指針を作成する作業であり予め私たちが行って います。実際に設計者が行うのは⑤の図から加速度を読み取る作業~⑦のモーメント計算だけです)。

目下進行中の改定作業

 鉄道総研では本年度から鉄道技術推進センターテーマとして「電車線路設備耐震設計に関する調査・ 研究」を実施中です。その中で土木構造物の耐震設計の改定に合わせて、以下のような指針の改定作業 を行っています。①の設計地震動は東日本地震での地震動の特徴も考慮したものへ変更します。②にお ける高架の塑性を表す指標は、「結果として生じた塑性の度合い(応答塑性率)」ではなく「塑性域に至 る設計上の強さ(降伏震度)」を用いることにします。③の電柱の振動では支持物全体の水平の振動と いうよりは高架の振動中心を中心とした回転運動に近いものではないか(①の高架の震え方と③の電柱 の震え方の違い)という考え方を検討中です。この他にも電柱を単純な片持ち梁として扱う場合と可動 ブラケットや腕金等の質量が加わった場合で電柱の固有周期が異なってくることを配慮した⑤の読み 方も検討中です。しかし精度を上げようとしてやみくもに細かく指標を加えていくと、設計者の使いや すさが損なわれるため、あくまで安全性を損なわない範囲で使いやすいものとして整備していきます。

  • 図1 地震動から電柱の地際モーメントを算出する手順
    図1 地震動から電柱の地際モーメントを算出する手順

(電車線構造 川嶋健嗣)