避雷器漏洩電流計測法の開発

 新幹線き電回線用避雷器は、外線からの雷サージや車両で発生する開閉サージを吸収し、機器の絶縁を保護する機能を有します。この避雷器の故障頻度はあまり高くありませんが、劣化等に伴う故障も発生しており、避雷器の劣化診断技術の確立が望まれています。
 現在避雷器の劣化を診断する方法は、接地回路にカウンタを設けた回路を挿入することにより動作回数を管理する方法、および漏れ電流値を管理する方法があります。
 しかし、新幹線固有の切替開閉器動作時のサージ電圧は、避雷器の劣化に寄与しない放電を生じさせることがあり、カウンタが不要に動作する場合があります。
 また、汎用のクランプ形電流計では避雷器の接地回路に流れる全漏れ電流(抵抗分電流+静電容量分電流)を測定することはできますが、避雷器の劣化診断に有効とされる抵抗分電流を正確に測定することは容易ではありません。
 そこで、避雷器のカウンタ動作を適正化するとともに、正確に抵抗分電流を測定できる装置を考案しました。この装置の構成を図1に、仮設風景を図2に示します。
 考案した装置を新幹線変電所に仮設し、避雷器漏れ電流とサージ電流測定を行った結果、装置が正常に機能し、抵抗分電流の検出が可能であることを確認することができました。避雷器の抵抗分電流波形の例を図3に示します。
 本装置は正確な測定が可能ですが、接地回路への割り込みが必要になるため、手軽に測定できるわけではありません。そこで、保守区において持ち運び易くかつ容易に測定できる避雷器漏洩電流計測装置の開発を進めています。そして、計測装置から得られる測定結果から避雷器劣化度の目安となる閾値を検討し、避雷器の劣化管理手法の実用化を目指します。


  • 図1 避雷器電流検出装置の構成
    図1 避雷器電流検出装置の構成
  • 図2 装置の仮設風景
    図2 装置の仮設風景
  • 図3 避雷器の抵抗分電流波形の例
    図3 避雷器の抵抗分電流波形の例

(き電 田中 弘毅)

シンセティックジェットアクチュエータを用いたパンタグラフ舟体周りの流れ場制御

 パンタグラフ舟体から発生する空力音を低減するため、鉄道総研では、舟体周りの流れ場を制御する事により空力音低減を図る研究を実施しています。本稿では、その一つとして取り組んでいる、シンセティックジェットアクチュエータを用いた流れ場制御手法についてご紹介致します。
 シンセティックジェットアクチュエータとは、外部からの空気供給なしで流れ場に渦輪を伴う擾乱を与え、能動的に流れ場を制御することが可能なアクチュエータです。アクチュエータの概要を図1に示します。図1(a)に示すように底面の振動板の動作に応じて、キャビティ内の空気体積が変化し、噴出孔から強い渦輪を形成した流れ「シンセティックジェット」が噴出されます。図1(b)は、、振動板としてスピーカを用い、その上に噴出孔をもつ塞ぎ板を取り付けて構成した「シンセティックジェットアクチュエータ」です。
 このシンセティックジェットアクチュエータを図2に示すように、舟体に搭載し、舟体前面下部からシンセティックジェットを噴出させた場合の舟体後流の様子が図3です。図3(a)に示すように、アクチュエータを駆動させない場合、舟体後流において強いカルマン渦が発生していますが、図3(b)に示すように、シンセティックジェットアクチュエータを駆動させるとカルマン渦の発生が抑制できることが確認できました。今後は、この流れ場制御手法を高速域においても実現できるように検討していく予定です。


  • 図1 シンセティックジェットアクチュエータとその原理
    図1 シンセティックジェットアクチュエータとその原理
  • 図2 シンセティックジェット噴出位置
    図2 シンセティックジェット噴出位置
  • 図3 舟体後流の可視化結果(風速5m/s)
    図3 舟体後流の可視化結果(風速5m/s)

(集電力学 佐藤 祐一)

コンクリート電柱の経年による劣化

 コンクリート電柱が本格的に鉄道電化柱として採用されてから50年以上経過しています。年数が経過したコンクリート電柱にどのような変化が現れるかを把握するために、ある在来線線区において、平成23年度に取替予定とされていたコンクリート電柱の外観調査を行い、コンクリート電柱に現れる変状を分類しました。また、調査した電柱の中で、50年以上経過している電柱の強度を確認するために、曲げ試験を行いました。
 コンクリート電柱の外観調査を行った結果、主な変状は、図1に示すように4種類に分類されます。すなわち、電柱を製造する際に用いる型枠の継ぎ目に沿って大きい隙間が現れる「型枠継目ひび割れ」、表面のコンクリートが剥がれ落ち、内部の鉄筋が露出する「はく離・鉄筋の露出」、表面に炭酸カルシウムなどの白色物質が析出する「エフロレッセンス」、型枠の継ぎ目箇所以外に鉛直方向のひび割れが生じる「縦ひび割れ」です。
 最も多い変状は「型枠継目ひび割れ」であり、変状が観測された電柱のうち、77%の割合となりました。「型枠継目ひび割れ」は、コンクリート電柱を遠心成形する際に型枠が密着しないことにより、モルタルが型枠の隙間から流出することで発生します。
 コンクリート電柱の製造時に必要な強度は、ひび割れ試験曲げモーメント(設計曲げモーメントと同値)の2倍の値で破壊してはならないとJIS A 5373「プレキャストプレストレストコンクリート製品」に規定されています。ここでは、調査を行った電柱の中で、変状が観測されなかった経年51年の6本について、強度を確認するため、図2に示すように曲げ試験を行いました。その結果、破壊時の曲げモーメントはひび割れ試験曲げモーメントの2.8~2.9倍となり、電柱に必要な強度を有していることを確認しました。
 今後は調査範囲を拡大し、変状が観測された電柱についても曲げ試験を行い、強度を確認する予定です。また、材料分析を行い、変状の発生機構について検討を進めます。


  • 図1 コンクリート電柱の主な変状
    図1 コンクリート電柱の主な変状
  • 図2 曲げ試験状況
    図2 曲げ試験状況

(電車線構造 近藤 優一)

電車線コネクタリード線の疲労試験方法

 電車線の線条間を電気的に接続する金具として,コネクタがあります。このコネクタを構成しているリード線は素線をより合わせた線であり,パンタグラフ通過時の電車線振動によって疲労損傷を受けます。疲労損傷が大きいと,取替前に断線してしまい,電車線やパンタグラフに損害を与え,列車運行に支障をきたす可能性があります。
 コネクタを含む電車線金具の振動耐久性評価方法として,JIS E2002「電車線路用金具試験方法」では,金具を取り付けたトロリ線を3~5Hz,複振幅20mmで加振し,200万回加振後に損傷の有無を調査すると規定されています。しかし,この試験方法ではコネクタの動特性が考慮されず,現場における疲労損傷を適切に評価できるのか,また,どのくらいの疲労寿命があるのかもわかりません。そこで,集電管理では「コネクタの疲労損傷評価手法」について研究することで,種々の形状や線種,取り付け方法などの比較・評価が可能になり,コネクタの開発やメンテナンス手法に対する様々なアイデアを実現することができると考えています。
 そのためにはリード線自体の疲労寿命を把握する必要があり,リード線の素線切れを疲労寿命とする場合,疲労試験機として必要不可欠な要素は以下のように考えられます。
① リード線に一定の曲げが与えられること。
② リード線の素線切れが発生する箇所を限定できること。
③ リード線の素線切れを検知し,試験を停止できること。
 これらの要素を検討した結果,新たに「ハンター式回転曲げ疲労試験機」を導入しました。この試験機は図1のようにリード線のみを弓なりに取り付け,一定の曲げを与えることでリード線に均一な曲げひずみを負荷することができ,素線の破断個所を中央に限定することができます。また,リード線を高速回転させることで,素線切れが発生すると遠心力でショックセンサーに触れて試験機を停止させるため,素線切れに要した負荷サイクルをカウントすることができ,疲労寿命が得られます。この高周波数の曲げ負荷によって疲労試験期間が短く,多くのデータを取得することができます。
 図2に一般的にコネクタリード線として使用されている40mm2軟銅より線の疲労寿命曲線を示します。このデータとリード線に発生するひずみを合わせることで,現場のコネクタ疲労損傷の判断や寿命予測,取替周期の策定などが期待できます。


  • 図1 ハンター式回転曲げ疲労試験機
    図1 ハンター式回転曲げ疲労試験機
  • 図2 40mm2リード線疲労寿命曲線
    図2 40mm²リード線疲労寿命曲線

(集電管理 山下 主税)

(ワンポイント講座)抵抗分圧器による電圧の測定

 電気鉄道分野でさまざまな調査を行うにあたり、高電圧を測定することがあります。その例には、直流き電回路における電車線電圧(例:1500V)やレール電位(普段は数十V程度だが最悪の場合は±1500V)、交流き電回路の保護線(PW)・負き電線(NF)対地電圧(いずれも実効値が数十~数百V)、あるいはサージ電圧(数kV以上)などが挙げられます。
 一方、たいていの測定器は、高電圧をそのまま入力することができません。一例としてオシロスコープやメモリレコーダーなど波形記録装置の類では、入力端子の最大ピーク電圧は大抵60V以下、高くても240V程度、PCカード形のものは10V程度が限度です(取扱説明書を確認して下さい)。よしんば入力できるとしても、感電防止の観点から、測定器に接近することに関して制約が生じます。
 変電所には多くの場合、電圧測定用の計器用変成器(VT(PT)、DC-VT)が設けられています。これら巻線形の変成器は、常設設備としての信頼性は極めて高いのですが、交流用のVT(PT)は一般に周波数特性が数kHz以上において平坦でなく共振点をもつため、また直流用のDC-VTは絶縁のために可飽和鉄心を用いた変調・復調を行うため、いずれも瞬時(μ秒やミリ秒など)電圧波形が正確には測定できないという欠点があります。
 そこで、正確な瞬時電圧波形を得たい場合に、測定対象の高い電圧を、測定対象に近い位置にて安全かつ扱い易い電圧まで比例減衰させる道具として「抵抗分圧器」を使います(図1,図2)。


  • 図1 直流き電回路用抵抗分圧器の例
    図1 直流き電回路用抵抗分圧器の例
  • 図2 高電圧プローブの仮設例(RRR誌2009年1月号)
    図2 高電圧プローブの仮設例
    (RRR誌2009年1月号)

 抵抗分圧器は、その内部の分圧抵抗器によって測定対象の回路と測定器を電気的に接続します。このため、測定対象の回路に対して十分な耐圧と内部抵抗を有するものを選定し、使用時は接地端子および本体外箱を接地する必要があります。しかし、その接地をどこに接続するべきかは熟考する必要があります。変電所内での測定ではごく一部の例外を除き、接地端子は機器接地極(メッシュアース等)に接続するのが適当です。一方、沿線での測定では、1m程度の古トロリ線や鉄棒などを用いて仮設接地電極を打つのが適当な場合もあります。特に交流き電回路では、地絡故障など有事に電流を流すことが前提の接地極(避雷器、保安器、架空地線の接地)は測定中に有事に遭遇すると接地の電位が上昇して危険なため、他に手段が無い場合を除いて抵抗分圧器の接地には使わない方が無難です。

(き電 森本 大観)