電車線コネクタ振動解析のための有限要素モデル化

 電車線の線条間を接続するコネクタの主な不具合は,パンタグラフ通過時の電車線振動に伴うコネクタリード線の疲労断線であり,その改善・対策には疲労原因を解明しなければなりません。しかし,JIS E 2002「電車線路用金具試験方法」における現状の振動耐久性評価方法は,現場の振動状態の再現を想定したものではありません。

 コネクタの疲労原因解明や改善・対策を提案するには,様々なコネクタ形状や電車線振動波形が疲労損傷に及ぼす影響を評価する必要があります。そこで,有限要素法を用いてコネクタをモデル化し,トロリ線およびちょう架線の実働振動波形を入力することで,現場の疲労損傷を解析する手法を提案しました。

 ただし,コネクタリード線であるより線の素線全てをモデル化し,かつ素線間の摩擦を再現することは非常に困難です。そこで図1のように,より線を仮想的に中実単線に置換した有限要素モデルを作成しました。実験および解析の結果,実際のより線と同じ動特性を有するよう求めた仮想単線のパラメータは,リード線種のみに依存し,コネクタ形状に依存しないことがわかりました。例として,一般的に使用される軟銅より線40mm2に対する仮想単線のパラメータは表1のとおりです。したがって,同種リード線を使用する限り,一度仮想単線の特性を求めれば任意のコネクタ形状についてモデル化できます。電力ニュースNo.93で紹介したコネクタリード線の疲労試験結果と合わせて,様々なコネクタ形状について疲労損傷評価が可能となりました。


  • 図1 コネクタの有限要素モデル化
  • 表1 軟銅より線40mm2に対する
    仮想単線のパラメータ

(記事:集電管理 山下主税)

保護線と保護線用素子を用いた高抵抗地絡検出システム

 直流電気鉄道において,き電回路の正極側充電部である電車線が何らかの理由で大地上の構造物に地絡し,その地絡電流値が電車・電気機関車の通常走行に必要な電流より小さい場合,これを高抵抗地絡と呼んでいます。その原因は,カラスの営巣による針金ハンガー投下や遊園地のアルミ風船等の導電性飛来物,踏切支障等での電車線切断垂下,鳥獣・樹木接触などが挙げられますが,最近では雷害に起因する高抵抗地絡事例も散見されるようになってきました。

 地絡故障では構造物の接地抵抗とレール漏れ抵抗が電流経路に直列に介在し,回路全体の抵抗が金属短絡故障(車両故障など)に比べて大きいため,変電所のき電用故障選択継電器(50F)等が動作しない場合が大半です。結果として,設備の焼損,電車線の断線,支持物(電化柱,ビーム等)の損傷などの事故に波及することがあります。これに対し,放電装置を用いてレールへの金属短絡に移行させる方式が本四連絡橋と車両基地構内等で実用化されていますが,一般線区への適用には様々な課題がありました。そこで,高抵抗地絡故障を検出する新たなシステムを開発しました(図1)。

 開発した高抵抗地絡検出システムでは,電車線に並行して保護線を新たに敷設するとともに,支持物と保護線との間に酸化亜鉛素子(ZnOバリスタ)とダイオードを組み合わせた保護線用素子(図2)を設けます。高抵抗地絡故障が発生して電柱の対地電位が上昇すると,保護線用素子が導通して保護線の電圧も上昇するため,その電圧を変電所に新たに設置する保護線電圧継電器で検出して直ちにき電を停止します。保護線用素子の導通特性はダイオードによって非対称としており,故障点以外の保護線用素子は導通しません。また,保護線用素子の酸化亜鉛素子に直流電流が流れるとその発熱で特性が劣化しますが,素子を交換部品と位置付け,破壊耐量をあえて必要最小限度に設計することで,初期コストの低減を意図しています。

 保護線用素子と保護線電圧継電器を試作し,複線区間の営業線において一方の電車線を保護線に見立てた模擬システムを構成しました。人工的に地絡故障を発生させる試験を実電圧で実施した結果,故障発生と同時に保護線の電圧も上昇して変電所の継電器が動作することを確認し,開発した高抵抗地絡検出システムの有効性を実証しました。


  • 図1 保護線と保護線用素子を用いた高抵抗地絡検出システムの構成

  • 図2 保護線用素子(初期試作品)

(記事:き電 森本大観)

吹き出しまたは吸い込みを用いたパンタグラフ舟体周りの流れ場制御手法の検討

 新幹線の沿線騒音低減にとって,パンタグラフ舟体の空力音低減は重要な課題となっています。そこで,鉄道総研では流れ場制御技術の適用による空力音低減手法の検討に取り組んでいます。電力ニュース89号(平成24年4月)ではプラズマアクチュエータ(以下,PAと略記)によって舟体周りの流れを制御する手法についてご紹介しました。今回はそのPAの流れ場制御メカニズムを別の方法で実現する手法として検討中の,接線方向吹き出し手法と法線方向吸い込み手法についてご紹介します。

 図1に示すように,PAは物体表面でプラズマを発生させ,「物体接線方向下流側へジェットを発生させる作用(作用①)」を生じるとともに,ジェットとして移流した流体を周囲から補うように「周囲の流体を引き寄せる作用(作用②)」を生じるアクチュエータです。過去の実験では,図2に示すようにPAを舟体の剥離点近傍に適用することで,流れの剥離が抑制され,空力音の原因となるカルマン渦の生成が抑制できることを確認しました。しかしながら,現時点ではPAの出力はあまり大きくなく,300km/hを超えるような高風速域に適用するにはまだ課題があります。そこで,高風速域においてもPAの作用を実現する手法として,接線方向吹き出し手法と法線方向吸い込み手法(図3)の検討を進めています。

 接線方向吹き出し手法では,PAの作用①を実現するために,舟体の剥離点近傍から下流側に向かってジェットを吹き出すような構造となっています。法線方向吸い込み手法では,舟体の剥離点近傍において舟体表面に垂直に吸い込みを行う構造とし,PAの作用②を実現しています。いずれの手法についても,舟体への実装を考慮し,舟体の底面側のみに開口部を設けています。

 風洞試験において可視化試験を実施したところ,いずれの手法についても後流のカルマン渦の巻込みが弱まる様子が確認でき,空力音低減手法として適用できる可能性があることがわかりました。ただし,現時点では流れを制御するためにある程度大きな流速で吹き出しや吸い込みを行う必要があります。今後は,流れ場制御効率を向上し,少ない流速でも十分な流れ場制御効果が得られるよう,検討を進める予定です。


  • 図1 PAの概要図

  • 図2 PAの舟体への適用例

  • 図3 接線方向吹き出し手法と法線方向吸い込み手法の概要と可視化結果

(記事:集電力学 光用剛)

改訂した電車線路設備耐震設計指針について

 「電車線路設備耐震設計指針」は,地震によって電車線路設備が倒壊や列車の走行空間を支障するような有害な損傷を防ぐことを目標として,そのための設計方法について示したものです。鉄道総研では,平成25年3月にこの「指針」の改訂を行いました。今回の「指針」の改訂では,平成24年7月に改訂された「鉄道構造物等設計標準(耐震設計)」と整合性をとり,互いに連携しやすい設計方針を示したことが大きな特長です。同「標準」では,電車線路設備や駅舎などの土木構造物上の付帯構造物の挙動を算定する場合の入力波の与え方,それに基づく設計応答値の考え方の提示が行われています。「指針」の改訂の経緯と概要については,電力ニュース92号(平成25年8月発行)で紹介しました。本号では,「指針」における具体的な設計の流れを紹介します。

 図1は高架橋・橋梁上における電車線柱の設計手順です。まず,土木構造物の条件として,その設計情報を入手する必要がありますが,①,③,④の数値については,改訂された「設計標準」に対応した構造物設計に用いる解析プログラム(JR SNAP 等)によって算定され明示されるため,構造物の設計者から②を含めた必要な情報を改訂前に比べて容易に入手することが可能となりました。

 次に電車線柱条件を設定しますが,「指針」では,現在一般的に使われているコンクリート柱と鋼管柱の諸元の一覧表と固有周期の計算式,計算結果を示していますので,⑤~⑦の情報を容易に得ることができます。

 土木構造物と電車線柱の条件設定の後,地震時に電車線柱に加わる応答加速度を推定します。応答加速度の算出には,①~⑦の情報に対応した解析モデルによる動的計算が必要ですが,「指針」では,事前に全ての条件で動的計算を行って,①~⑦の情報に応じた応答加速度をグラフ(加速度応答スペクトル)と一覧表,係数で示していますので,電車線の設計者が複雑な計算を行う必要はありません。

 応答加速度が推定できたら,それを電車線柱や線条類の重心位置に作用させる静的解析を行い,部材に発生する断面力(地際のモーメント,部材の応力等)を算定し,部材の耐力と比較して安全性を評価します。「指針」では,実務の参考として頂けるように,単独柱と門型支持物について,実際の装柱図を例として,応答加速の推定から静的解析,安全性評価までの具体例を示しています。


  • 図1 高架橋・橋梁上における電車線柱の設計手順

<指針と参考資料について>

 本「指針」と前年7月に実施した「電車線路設備耐震設計指針(改訂版)に関する説明会」の配布資料を,鉄道総研内に設置されている鉄道技術推進センターの会員用ホームページに掲載しています。センターの会員の皆様には,会員用ホームページからダウンロードして頂けます。

 本件に関するご質問,ご要望等がありましたら,電車線構造研究室(JR053-7335)または鉄道技術推進センター(JR053-7236)まで,お気軽にお問い合わせ下さい。

(記事:電車線構造 清水政利)

(ワンポイント講座)セクションインシュレータの規格と試験方法

 セクションインシュレータ(以下セクションという)は電車線路を電気的に区分する装置であり,トロリ線間に絶縁物を挟むことで機械的には接続しつつ電気的には絶縁する機能を持っており,事故や作業の際に必要な停電を確保するため,主に電車線の上下のわたり線や側線の区分箇所や車庫等に設備されています。そのためセクションには機械的強度と電気的強度の両方が要求されます。今回は直流用セクションについて,その規格と試験方法,設計のポイントについて紹介します。

 例として,在来線直流1500V用セクションインシュレータの性能を表1に示します。これはJISE2219に規定されている性能です。

  • 表1 セクションインシュレータ(GT110mm2用)性能

(1)機械的強度の試験

 耐引張荷重試験は,セクション両端に取り付けたトロリ線間に規定の張力(22kN)を加え,金具の変形やボルトの緩み等がないか確認します(図1)。最大引張荷重試験は,更に荷重を増加させ,セクションまたはトロリ線の破壊した荷重を測定し,30kN 以上であることを確認します。

 また,セクションのトロリ線は絶縁本体の下部に接続されているため,絶縁本体には引張応力に加え,曲げ応力が発生します。これらの強度検討によって,絶縁本体の形状が決定されています。

(2)電気的強度の試験

 耐電圧試験は,セクション両端の金具間に規定の電圧(30kV)を加圧し,せん絡や発煙,発火等がないことを確認します(図2)。破壊電圧試験は,更に電圧を増加させ,絶縁破壊に至った時点での破壊電圧を測定し,45kV 以上であることを確認します。また,セクションは降雨による絶縁性能の低下が考えられるため,形状や材料の工夫が必要です。このため,上記の試験に加えて降雨時の性能評価として注水を行いながら加圧し,漏れ電流等を測定することが望ましいと言えます。


  • 図1 セクションインシュレータ引張試験状況

  • 図2 セクションインシュレータ耐電圧試験状況

(記事:電車線構造 奈良場勇人)