コンクリート電柱の中性化判定手法

 電車線柱などに用いられているコンクリート電柱(以下、「電柱」)の耐用年数は50年程度と考えられていましたが、最近の調査結果より、経年50年以上の電柱でも劣化変状が発生していないものも多く、このような電柱では大きな強度低下はないことがわかっています。これからは電柱の健全度評価を適切に行い、維持・管理していくことが重要です。電柱の健全度評価は、ひび割れなど外観から判断できるものだけでなく、コンクリートの中性化など外観から判断できないものもあります。今回、「コンクリート電柱用中性化検査装置」を開発したのでご紹介します。

 コンクリートの中性化とは、製造時には強アルカリ性であるコンクリートが大気中の二酸化炭素などの影響によりアルカリ性が失われ中性になる現象です。これによる強度低下はありませんが、鋼材部まで中性化が進むと鋼材腐食の原因となるため注意が必要です。一般の土木構造物では、中性化深さ(表面から中性化が進行した深さ)をドリル切削やコア抜きなどにより調査しており、中性化深さは数mm~数十mm程度となります。一方、電柱は中性化の進行が遅く、経年50年程度の電柱でも中性化深さは1mm程度となることがわかりました。電柱のかぶり厚さ(表面から鉄筋までの距離)は10mm程度と比較的薄く、柱表面1mm程度を精度良く調べる必要があることから、「コンクリート電柱用中性化検査装置」(図1)を開発しました。先端が平らなドリルや切削量調整ストッパにより、容易に柱表面1mm程度を切削することが可能です。ドリル切削箇所にフェノールフタレイン溶液を噴霧し、赤紫色の発色有無(有り:アルカリ性、無し:中性)により中性化を判定します。中性化が進行している電柱については、詳細な検査が必要となります。

  • 図1 電柱中性化検査装置
    図1 電柱中性化検査装置

(記事:電車線構造 常本 瑞樹)

電車線のサグ量を用いた張力の推定手法

 電車線は温度変化にともなう伸縮を,引留箇所に設けた自動張力調整装置で補償し,張力を一定に保っています。しかし,中間箇所で抑制抵抗が働いて線条がうまく移動しない場合や,もともと自動張力調整装置が入っていない場合,線条の伸縮により高さが変化し,集電性能に悪影響を与える可能性があります。

 鉄道総研では図1 のようなカメラとレーザーセンサを用い,電車線の各線条の高さと偏位を非接触で測定できる装置を開発しています。この装置を用いれば,現状では低速に限られますが,図2 のように車上からちょう架線や補助ちょう架線の高さが測定できます。そこで,電車線の状態診断の新しい指標として,径間ごとに求めたちょう架線のサグ量から径間ごとの張力の推定を試みました。

 張力T[N]は,サグ比s,1m あたりの電車線質量ρ[kg/m],径間長l[m]と,重力加速度g[m/s2]を用いて式(1)により表されます。なお,サグ比sは,その径間のサグ量を径間長で割った値です。

  • (1)(1)

 図2 の電車線の仕様を表1 に示します。ここで,「張力」は引留箇所に設置した張力計の値,「質量」は1m あたりの質量を示しています。そして,図2 の各径間における径間長・ちょう架線のサグ比と,それらから(1)式により推定した各径間の張力を表2 に示します。表1 の張力計によるちょう架線張力の測定値20.4kN に対し,表2 の張力推定値は3%以内の誤差でした。これにより,径間ごとの張力を指標とした電車線の状態診断が可能になると考えています。

 なお,この研究は株式会社明電舎との共同研究成果を元にしています。

  • 図1 カメラとレーザーセンサによる測定
    図1 カメラとレーザーセンサによる測定
  • 図2 鉄道総研内試験用電車線の高さ測定結果
    図2 鉄道総研内試験用電車線の高さ測定結果
  • 表1 張力推定に用いた電車線の仕様
    表1 張力推定に用いた電車線の仕様
  • 表2 ちょう架線各径間のサグ比と張力推定結果
    表2 ちょう架線各径間のサグ比と張力推定結果

(記事:集電管理 根津 一嘉)

交流き電用避雷器劣化判定装置

 交流き電用避雷器(避雷器)は、過電圧から電気設備を保護する目的で設置されています。避雷器本体は酸化亜鉛素子とがい管から構成されており、がい管の内側に酸化亜鉛素子を封入しています(図1)。酸化亜鉛素子が劣化すると、図2に示す様にき電電圧が高い領域で漏洩電流が増加し、素子発熱などの電気設備障害が起きることがあるため、定期的に検査を行う必要がありますが、従来はき電電圧データを用いた複雑な計算が必要だったため、詳細分析は容易でありませんでした。

 そこで、接地線に流れる漏洩電流の測定のみで酸化亜鉛素子の健全性を簡易に判定できる、避雷器劣化判定装置を開発しました(図3)。

  • 図1 避雷器の断面図
    図1 避雷器の断面図
  • 図2 電流波系の歪み
    図2 電流波系の歪み
  • 図3 避雷器劣化判定装置
    図3 避雷器劣化判定装置
  • 図4 特殊な電流計を用いた高調波漏洩電流の抽出
    図4 特殊な電流計を用いた高調波漏洩電流の抽出

 避雷器が劣化して漏洩電流が増えると図2に示す様に電流波形が歪みますが、この波形の歪みは、5~15次成分の高調波成分の増加として検出されます。しかし、通常の電流計では、図4に示す様に徐々に低下していく高調波成分を検出するのは容易でありませんでした。そこで、本装置では劣化時に増加する高調波漏洩電流を、電流と周波数の双方に比例した出力が得られる、ロゴウスキーコイル型電流計 とバンドパスフィルタで検出し劣化判定するアルゴリズムを採用しました。

 本装置は新幹線等の交流き電区間に設置された避雷器の劣化判定に用いることができます。今回採用した手法では停電作業やき電電圧の測定は不要である他、駆動電源である小型カーバッテリーを含めても10kg 程度と小型軽量であり、電源環境の貧弱な沿線箇所にも適用可能です。なお、60Hz 区間用に設計していることから、50Hz 区間でご使用希望の際はご相談いただけると幸いです。

(記事:き電 赤木 雅陽)

パンタグラフ接触力によるトロリ線静高さ推定手法

 電車線には安定した集電状態を維持可能な性能や架設精度が求められます。そこで、電車線には架設基準(トロリ線高さやその勾配、左右偏位、わたり線におけるトロリ線の相対位置など)が定められています。この架設基準は動的な状態における基準値を規定しても、工事や保守を行う際にあらゆる速度やパンタグラフ条件において評価する事は困難であるため、主に静的状態に対して規定されています。しかし、電気検測車で電車線の検測を行う場合にはパンタグラフで電車線を加振してしまうため、静的な状態を測定することは困難です。また、検測車と営業列車のパンタグラフ条件(動特性、パンタグラフ数、パンタグラフ間隔など)が異なると、検測車で測定した動的状態は、必ずしも全ての営業列車の動的状態を代表するデータとはなりません。

 そこで、検測車などでパンタグラフ接触力(以下、接触力と呼びます。)とパンタグラフ高さを測定し、パンタグラフ通過前のトロリ線の静的状態を推定する手法を開発しました。以下に本手法の概要を説明します。

 本手法は,事前にシミュレーション等により架線の加振試験を実施し,その結果から得られた架線の動特性情報(図1)を抽出しておきます。図1 は接触力の作用点にインパルス状の力が作用した際に、着目する箇所のトロリ線がどれだけ押し上がるのかという電車線の動特性を表しています。この図の波形に対して、図中の赤の矢印方向に接触力の実測値を畳み込み積分すると、パンタグラフが通過する際にトロリ線がどれだけ押し上げられたのかを推定できます。各点のトロリ線押上量が推定できたら、この値を先頭パンタグラフの舟体軌跡(以下、パンタグラフ高さと呼びます。)から引き算することで、トロリ線の静高さが推定できます。図2 は新幹線で高速走行時に接触力とパンタグラフ高さを実際に測定し、その結果からトロリ線の静高さを推定した結果と、当該区間のトロリ線静高さを保守用車で実測した結果を示したものです。本データでは、4mm 程度の誤差でトロリ線の静高さの変動を推定可能であることがわかります。ただし、車両動揺などが大きい箇所においてはトロリ線静高さの推定誤差が大きくなる可能性もあるため、推定精度向上のための補正方法などについては今後検討する必要があります。

 本手法により、得られたトロリ線の静高さから、検測車以外の条件(列車速度や、パンタグラフなど)での集電性能の検証もシミュレーションにより可能となります。これにより、検測車のパンタグラフの条件が当該線区の代表的営業列車と異なっていても、営業列車が走行した場合の集電性能予測が可能となり、電車線静高さの改良提案などの予防保全システムとして活用できます。

  • 図1 インパルス応答行列の計算結果
    図1 インパルス応答行列の計算結果
  • 図2 トロリ線の押上量の推定結果
    図2 トロリ線の押上量の推定結果

(記事:集電力学 臼田 隆之)

パンタグラフ総合試験装置

 パンタグラフ総合試験装置(以下、本試験装置と記す)は、パンタグラフのしゅう動、加振、通電試験を同時に行うことのできる国内唯一の試験装置です。全体写真を図1 に、主な仕様を表1 に、それぞれ示します。本試験装置は、主に回転円盤、回転円盤上下動装置、左右動装置、通電装置、パンタグラフ加振台から構成されます。回転円盤外周には、電車線を模擬した周長10m、幅10mm の純銅製の模擬トロリ線が固定されています。回転円盤が高速(最高周速度:300km/h)で回転することにより、パンタグラフとトロリ線間のしゅう動状態を模擬します。また、回転円盤を上下、左右に動かすことで、電車線の上下振動(最大周波数:17Hz)や左右偏位(移動範囲:-180mm~+180mm)を模擬することができます。通電装置は、電圧がAC100V もしくはDC100V(全波整流波形)、電流が最大400A(100A 刻みの調整可)の電気を回転円盤とパンタグラフ間に流すことができます。これにより、通電時のジュール熱や離線アークによるパンタグラフ各部材の温度上昇を評価することができます。また、離線率やパンタグラフ各部の温度、応力(ひずみ)を通電環境下で評価することが可能です。これまでに、新型パンタグラフの性能評価、パンタグラフ損傷の原因調査、各種すり板の耐久試験などに本試験装置が活用されています。

 ところで、本試験装置は経年38 年(昭和52 年竣工)を迎えており、新幹線の営業速度と比較したときの試験装置性能の陳腐化などの問題があります。そこで、基本計画RESEARCH2020 において、本試験装置の更新を計画しています。新しい試験装置では、回転速度の向上や上下加振周波数の拡大などの性能向上だけではなく、HILS(Hardware-In-the-Loop Simulator)を活用し、回転円盤があたかもカテナリ式電車線であるかのように制御する技術1)の導入や、実トロリ線を使用可能にするなどの新しい機能を付加する計画です。

  • 図1 パンタグラフ総合試験装置全体写真
    図1 パンタグラフ総合試験装置全体写真
  • 表1 パンタグラフ総合試験装置の主な仕様
    表1 パンタグラフ総合試験装置の主な仕様

1) 小林樹幸、臼田隆之、池田充、架線・パンタグラフ系へのHILS 技術適用の基礎検討、総研報告、28 巻、12 号、2014年12月

(記事:集電力学 小山達弥)