高抵抗地絡時の被害の特徴について

 電気鉄道ではトロリ線を所定の高さに保つため、支持物に電柱バンドやビームを組み合わせてトロリ線などを吊架することで電車線設備を構成していますが、不具合により地絡事故が起きると、重篤な被害をもたらすことがあります。ここで、電車線支持物の要となる電柱の特徴を表1に示します。鉄筋コンクリート柱は安価で施工性が良好であり、耐久性もあることから長らく主要な地位を占めておりました。しかし、接地抵抗が30~70Ωと比較的高い(高抵抗)ことから、地絡事故時に過電流等の保護リレー動作を期待しにくいことが問題点として挙げられます。

  • 表1 電気鉄道用電柱の種類とその特徴
    表1 電気鉄道用電柱の種類とその特徴

 鉄筋コンクリート柱で高抵抗地絡事故が生じた際の被害の特徴を把握するため、地絡模擬試験を実施しました(図1)。ビームを固定する電柱バンドへの1500V印加を想定して加圧したところ、加圧直後にコンクリートの絶縁が破壊され、電柱バンドと鉄筋との間で地絡が始まりました。その後、地絡点でのアーク熱の影響により電柱バンドが徐々に溶損していき、地絡電流が200Aの条件では約4分後に脱落しました。

  • 図1 コンクリート柱での地絡模擬試験
    図1 コンクリート柱での地絡模擬試験

 電柱バンドが溶損するとビームを所定の位置に固定できなくなるほか、地絡点の電位上昇が大きいことから電柱の周囲にある弱電機器がダメージを受ける場合があります。

 これまでにも種々の高抵抗地絡検知システムが提案され一部は既に実用化されておりますが、さらなるコスト低廉化のため、鉄道総研では今後も地絡検知システムの開発を進めていく所存です。

参考文献:

 支持物のいろいろとその変せん、電力と鉄道、1966.12、pp.31-32 及び 1967.02、pp27-29

(記事:き電 赤木雅陽)

舟体・舟支え部の形状改良によるパンタグラフの空力音低減

 新幹線のさらなる高速化を実現するうえで、パンタグラフから放射される空力音を低減することは必須の課題となっています。パンタグラフ各部のなかでも、舟体・舟支え部は主要な空力音源であるうえ、防音壁による遮音が困難な部位であるため、当該部位から放射される空力音の低減は重要な課題です。鉄道総研では過去の研究において、空力音の低減と揚力特性の安定化を両立する舟体形状(図1(b)、以下、平滑化舟体)を提案しています。また、現用の舟支えに平滑化舟体を搭載しただけでは、図1(c)に示すように舟支え部後流で強い乱れが生じて空力音が十分に低減しないことを確認しており、舟体と舟支え部を離すことで乱れの発生を抑制し、空力音を低減できることを示しています。本稿では、これら過去の研究を発展させ、舟体と舟支え部の相対位置と後流の乱れの関係を詳細に調査し、大きな空力音低減効果が得られる舟体位置について検討した結果を報告します。

  • 図1 平滑化舟体の概要
    図1 平滑化舟体の概要

 図2は1/1.6縮尺模型を用いて舟体・舟支え部後流の乱れの大きさを測定した結果を示しています。現用舟支えに平滑舟体を搭載した場合の舟体位置(図2(a))に対し、舟体を単に上方に離しただけでは、後流の乱れを低減できないことがわかります(図2(b))。一方、舟体を上流側に移設した場合(図2(c))および、下流側かつ下方に移設した場合(図2(d))には、舟体・舟支え部後流の乱れが効果的に低減されています。このことから、後流の乱れの低減には、舟体と舟支え周りの流れを適切に干渉させることが効果的と考えられます。図3は図2(c)(d)の状態を再現できる舟体・舟支え模型を実機パンタグラフに搭載して空力音を測定した結果を示しています。図3より、舟体位置を適切に選定することで、舟体なしの場合とほぼ同程度にまで空力音を低減できることがわかります。

  • 図2 鉛直方向の乱れ度測定結果(1/1.6縮尺模型、風速10m/s)
    図2 鉛直方向の乱れ度測定結果(1/1.6縮尺模型、風速10m/s)
  • 図3 実機パンタグラフを用いた空力音測定結果(なびき、舟体貫通孔あり、ホーンなし、風速400km/h)
    図3 実機パンタグラフを用いた空力音測定結果(なびき、舟体貫通孔あり、ホーンなし、風速400km/h)

 今後は舟体位置変更による空力音低減メカニズムの解明の深度化や揚力特性への影響把握を進めるとともに、実用化に向けた舟支え構成や追随機構の実装について具体的な検討を進める予定です。

(記事:集電力学 光用剛)

電車線路設備耐震設計指針・同解説に未掲載条件の耐震性評価手法
~構造物全体系の折れ曲がり点に対応する震度kheqが1より大きい土木構造物~

 平成25年3月改訂の「電車線路設備耐震設計指針・同解説」(以下,耐震設計指針と記す)では,電車線柱の固有周期Tpと構造物の等価固有周期Teqの比TpTeqや構造物全体系の折れ曲がり点に対応する震度kheq(以下,折れ点震度kheq と記す)に応じて,電車線柱の応答加速度を算定するための加速度応答スペクトルが用意されています。このスペクトルでは一般的な構造物の設計条件から折れ点震度kheqを0.4~1.0(0.1刻み)としていますが,最近の設計においては折れ点震度kheqが1より大きい場合も想定する必要が生じてきています。そこで,折れ点震度kheqが1より大きい土木構造物における電車線柱応答加速度の算定方法を提案したのでご紹介します。

 図1に,耐震設計指針における加速度応答スペクトル(折れ線で包絡する前の基図)の例と,その応答倍率(応答加速度/kheq)を示します。図1(b)より,TpTeqが1付近を除いた範囲では,kheqが大きいほど応答倍率は低下しています。したがって,kheqが1より大きい場合の応答加速度は,kheqが1の場合の応答倍率にkheqの値を乗じることで安全側の評価になります。また図1(a)より,TpTeqが1付近では,応答加速度は概ねkheqに比例して増加しています。これは構造物モデルの非線形特性が影響しており,応答加速度がkheq以上では剛性が低下するので変形は大きくなりますが,応答加速度は頭打ちとなるためです。そのため,TpTeqが1付近においてもkheqが1より大きい場合の応答加速度は,kheqが1の場合の応答倍率にkheqの値を乗じて算定することが妥当であると考えられます。

 そこで,kheqが1より大きい土木構造物における電車線柱応答加速度の算定方法を以下のように提案しました。なお,kheqが1の場合では,応答倍率と応答加速度は等価であることから,応答倍率は耐震設計指針の加速度応答スペクトル(kheq = 1)の値を用います。

【折れ点震度kheqが1より大きい土木構造物における電車線柱応答加速度の算定方法】

kheqが1より大きい場合の応答加速度は,式(1)のように耐震設計指針の加速度応答スペクトルを用いて算定されるkheqが1の条件における応答加速度に,kheqの値を乗じて算定します。

     (応答加速度)= kheq ×(kheqが1の条件における応答加速度) (1)

  • 図1 応答加速度スペクトルと応答倍率の例(鋼管柱,G3地盤)
    図1 応答加速度スペクトルと応答倍率の例(鋼管柱,G3地盤)

(記事:電車線構造 常本瑞樹)

可動ブラケット水平主パイプの腐食劣化調査

 可動ブラケット水平主パイプやトンネル内でのちょう架線支持のためのアーチパイプは、表面に溶融亜鉛めっきが施された鋼管が用いられています。それらの検査方法は、至近距離での表面上の目視が主で、場合によっては打音検査などを行うのが一般的と思われます。そこで、同部材における重点検査箇所の提案などに資するデータ収集のため、実設備からの撤去品に対して、外観上の評価(表面劣化度)と管の残存肉厚(腐食損耗度)の調査を行いました。調査した撤去品は26本、1本につき複数箇所調査をしたため、調査箇所は計105箇所です。表面劣化度と腐食損耗度は図1の判定基準に基づいて評価しました1)

  • 図1 判定基準
    図1 判定基準

 調査結果を図2に示します。今回の調査結果からは、表面劣化度と腐食損耗度に正の相関は認められませんでした。一方で、腐食劣化度が軽微なのに腐食損耗度が大きい、つまり外観検査では危険側の判断をしてしまう恐れがある例はありませんでした。

 今回の調査の中で見つかった特徴的な調査例を図3に示します。ある可動ブラケットの水平主パイプにおいて中央部は残存肉厚がほぼ一様だったのに対し、同一パイプの先端部は、上部内側に腐食損耗が認められました。外観上は局所的な損耗がないため、外観検査だけではパイプに穴が空くまで発見は難しいものと思われます。なお、このサンプルは詳細な経年は不明(推定では30年以上)ですが、海岸部から採取したものであり、かつ、ちょう架線支持のための側面穴あり、レール面に水抜き穴なしのものでした。したがって、海岸部、長経年、水抜き穴なしのパイプについては入念な目視とともに、打音検査や工業用内視鏡等の検査装置を併用することが望ましいと考えられます。

  • 図2 表面劣化度と腐食損耗度の関係
    図2 表面劣化度と腐食損耗度の関係
  • 図3 調査例
    図3 調査例

(記事:集電管理 臼木理倫)

(ワンポイント講座)ハンガイヤーの種類と規格

 ハンガイヤーはトロリ線をちょう架線に支持するための金具であり、ちょう架線に吊るすハンガバーとトロリ線を把持するイヤーによって構成されています。ハンガバーには帯状と棒状のものがあり、イヤーの締め付け方法としてはクサビ、レバー、ボルトのタイプがあります。

 新幹線ではボルト締め付けタイプを使用していますが、在来線の多くはより簡単に取り付けられるボルトなしタイプが使用されています。ボルトなしタイプはそれぞれ施工性などに若干の違いはありますが基本的な性能は変わりません。主要なハンガイヤーの種類を表1に示します。

  • 表1 ハンガイヤーの種類
    表1 ハンガイヤーの種類

 ハンガイヤーの性能は鉄道事業者各社で独自に仕様書を制定してきていますが、旧JRS(日本国有鉄道規格)やJISの規定などを基にしているものがほとんどです。機械的性能を表2に示します。

  • 表2 ハンガイヤーの機械的性能
    表2 ハンガイヤーの機械的性能

 ハンガ耐引張荷重はハンガバーのループ部の強度(変形の有無)を評価しています。この値は作業時にかかる荷重を考慮して決められています。一方で、耐引張荷重はハンガバーとイヤーの接続部の強度を評価しています。新幹線用のハンガバーは棒状であり、ハンガ耐引張荷重に強度が依存してしまうため、引張荷重の値がボルトなしの値と比較して抑制されていると考えられます。(実測で棒状ハンガバーのループ部は3.0kN以下で破壊してしまいます。)

 上記のような機械的な性能に加えて、トロリ線の硬点とならないようにできるだけ軽量で、さらに耐食性が優れていることがハンガイヤーに望ましい条件です。そのため、これらの条件を満たせるように形状や材料が決定されています。

(記事:電車線構造 佐藤修平)